表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の待つ都  作者: 紫月 京
第四章 囚われた妄執と崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/60

第五十話


神事を執り行う黒い絹の装束を着た者たちが、大きな木箱を運んでくる。

四人がかりで、恭しく掲げ持つ箱を、滝壺前の御神座へしずしずと運ぶ。

黒曜石で設えられた御神座へと、そっと箱が下ろされた。

神事長らしき老人が、ゆっくりと箱の蓋を開ける。

中には、赤子ほどの大きさの黒々とした石が、昇った朝日の光に照らされて妖しく輝いていた。

御神座の前には、同じく黒石で造られた台座が置かれ、数羽の白兎が横たえられている。

神官たちが、小刀で切った首元に、黒い小石を埋め込んでいく。

真っ白な毛皮に包まれていた白兎の体から、黒い瘴気が立ち上った。



ぱんと両手を打ち鳴らし、響が無邪気な声を出す。

「やっと準備ができたね!」

にこにこと笑いながら、朦朧とした意識の五十鈴の手を引く。

「さぁ、鈴ちゃん。ずっと一緒にいよう」

「……」

一歩ずつ、確かめるように歩く響に抵抗できず、五十鈴の足が御神座へ向けて踏み出した。

黒い祭壇に設置された石造りの寝台へと、五十鈴を(いざな)う。

「ここで、僕たちは一つになるんだよ」

嬉しそうに、幸せそうに微笑みながら、五十鈴の体を横抱きにし、肌触りのいい布が敷かれた祭壇の寝台へ、彼女の身を横たえた。

御神座の周囲に立った神官たちが、祝詞を唱え始める。

黒く染まった兎が、体を震わせて飛び跳ねていた。

周囲に焚かれた黒い炎から立ち上っていた煙が、御神座の大石に吸い込まれ始める。

輝きを増した黒石から、響の胸元へと瘴気が向かってきた。

響が黒装束の襟元をくつろげ、真っ白な肌を五十鈴の視界に入れる。

傷だらけの肌に、御神座に置かれた石と同じような黒い、禍々しい石が埋め込まれていた。

はっきり思考できない五十鈴にも、その異様さは伝わった。

「…っ」

目を見開いた五十鈴に、響が語りかける。

「あの魔獣()たちはねぇ、僕と鈴ちゃんの世界を守ってくれる兵士なんだよ。白いままじゃ、僕の言う事聞いてくれないからね」

五十鈴の視線の先に気づいた響が微笑みながら言う。

「ねぇ、鈴ちゃん。僕ね、この時をずっとずっと、待ってたんだよ。父様に言われた通り、君に会えない日々も、ずっとこの石に、力を溜め込んでたんだ」

埋め込まれた石に触れ、ふふっと笑う響は、五十鈴の顔へと手を伸ばしてきた。

「……!」

身をよじって逃げ出したいのに、体に力が入らなかった。

つ、と五十鈴の頬に響の指先が触れる。

びくんっ、と身を震わせて、五十鈴の瞳が潤み始めた。

「僕は、ここで君と一つになって、新しい竜神様になるんだ」

狂っている、としか思えない言葉を当然のように言い放つ響は、微笑みを浮かべたまま、五十鈴の頬を優しく撫でる。

「父様はね、きっと間違えたんだよ。母様を食べちゃ、ダメだったんだ」

輝きを失った赤い瞳から、涙が一筋、流れた。

五十鈴の目尻に唇でそっと触れ、流れる涙を舐め取る響。

「泣かないで、鈴ちゃん。大丈夫、一緒に幸せになろうね」

身動きできない五十鈴の首筋で、黒い花の首飾りが光る。

「竜神様の見ている前で、僕と君は交わって、そして、新しい世界を創るんだ」

恍惚とした表情でそう告げ、五十鈴の上に響が覆いかぶさってきた。

唇が触れ合おうとしたその瞬間ーー。


「五十鈴!!」

腹の底から絞り出したような、怒号が響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ