第四十九話
全速力で駆ける陽向の前方に、そびえ立つ赤い鳥居が見えてきた。
「敵襲!」
黒い魔獣を従えた、黒ずくめの一団が走ってくる。
大剣を構え、指を組む。
「水刃!」
「風刃!」
陽向の術に被せるように、楓が叫んだ。
火矢と苦無が背後から飛んでくる。
仲間の攻撃を軽く避けながら、陽向は大剣を手に敵の一団へ突っ込んだ。
ガキンッと剣と剣がぶつかり合う音が響く。
先頭の男の胴体に一撃を入れ、横に薙ぎ払う。
ドサリと倒れた男に見向きもせずに、陽向は次の敵へと向かった。
駆けてきた楓が、短剣で敵に従う犬型の魔獣に斬りかかる。
「…数が多いわっ」
魔獣の首を短剣で切り裂き、楓が叫ぶ。
「本拠地が近いという事だなっ!」
鳥居の向こうから、さらに数人、黒ずくめの兵士たちが走ってきているのが見える。
「キリがないぞ!お前ら先に行け!」
長弓の先に仕込んだ鋭利な刃物で敵を切り倒しながら、駿河が叫んだ。
「先にって…」
後から後から沸いてくるような敵を見据え、陽向は逡巡する。
『俺が隙を作る。楓たちと先に行け!五十鈴を助けるんだ!』
駿河の念が飛んできた。
今にも陽向に襲いかかろうとしていた男のこめかみを、放たれた火矢が貫く。
「行け!」
五本の矢を同時に射て、陽向の前に道を作った駿河が、接近戦に切り替えた。
強敵と見たか、敵の集団の意識が一瞬駿河に向く。
その隙をついて、楓が陽向の腕を引っ張って黒い襲撃者たちの隙間をすり抜けた。
「お前も行け、クロ!」
敵の剣先を長弓を横に構えて受け止めながら、駿河が叫ぶ。
「あんたを置いて行けるかよっ」
「…足手まといだ!あいつらと、先に行け!」
少年一人がすり抜けられるぐらいの隙間なら、まだあった。
素直に従わないだろう少年に、思ってもいない言葉を駆ける駿河。
その真意に気づいたのか、玄カガチはぎゅっと眉間に皺を寄せて、駿河の懐に秘薬の革袋をねじ込んだ。
「絶対、後から来いよ!」
すっと一歩下がり、助走をつけて、玄カガチは大きく飛んだ。
襲撃者たちの頭の上を、その高い跳躍力で飛び越えていく。集団の中から数人が陽向たちを追っていったが、あの程度の数ならば、容易に撃退できるだろう。
駆け去る仲間たちを見送って、駿河はニヤリと笑った。
「…当たり前だろ」
最早聞こえないだろう返事を呟き、目の前に迫る襲撃者たちに集中した。
鳥居はすでに目の前だ。
逸る気持ちを落ち着かせ、残してきた駿河の無事を信じながら、陽向は駆ける。
五十鈴、無事でいてくれ。
渡した守り石は、ちゃんと護ってくれただろうか。
この先に待ち受けている、「湊の主」が誰なのか、何となく、見当はついていた。
だが、その顔が上手く思い出せずにいたーー。




