第四十七話
物言わぬ死体となった湊の体から、黒い瘴気が立ち上った。
「!」
すかさず飛び退いた陽向の目の前で、敵であった男の体が瘴気に覆われる。
「水の君!」
「何があったのっ!」
見回りから戻ってきた駿河と楓の叫び声に、しかし陽向は何も答えられなかった。
呆然と、湊の体が瘴気に包まれるのを眺めていた。
死体になった湊に駆け寄ろうとする駿河の腕を、楓が掴む。
「ダメよ、近づかないで!」
「しかし…っ」
「火の君まで瘴気に包まれる!ダメよ!」
拳を握りしめて黒い瘴気が空へ上っていくのを見つめる駿河の様子に、陽向は視線を下げた。
「俺が、油断したせいだ…」
「何があったの?」
戻ってきた時と同じ科白を、少し冷静に楓が問う。
「麻の縄で縛る時に、武装は確かめたはずなんだが…小刀を持ってた」
「装束のどこかに隠していたのね。気づかなかったわ」
悔しそうな楓の呟きに頷いて、陽向は続ける。
「一瞬だった。あいつ、小刀で手首の縄を切り、自分の胸を突いて、絶命した…」
「!!」
目を見開く駿河と楓。
深くうなだれる陽向の肩を、駿河が軽く叩いた。
しばらく考え込んだ後、楓が口を開く。
「…この集団は、そういう教育でも受けているのかしら」
「どういう意味だ?」
駿河の問いかけに、楓は首を振りながら答える。
「はっきりとはわからないけど、ここまで来る途中に襲ってきたやつらも、舌を噛んだでしょう?敵に捕まったら、自決するように躾られているんじゃないかって」
「気味が悪いな…」
ぞっとしたように、駿河は己の腕をさすった。
話し声に気づいたのか、木の陰で眠っていたはずの少年が近づいてきていた。
「どうした?何の騒ぎ?」
「クロ…」
「何、あれ…」
黒い瘴気に視線を向けている。
「すまん。湊が死んだ」
言葉を繕わずに、陽向が告げた。
「なんで…」
「俺が油断した。何の情報も引き出せなかった」
「それ…で、あの黒い瘴気は、何だ…?」
「湊の死体から、溢れている」
悔やむ陽向の顔をしばし見つめて、玄カガチが湊の体へと歩き始めた。
「クロ!近づくな」
「大丈夫。あれは、俺を傷つけない」
「えっ?」
「どうしてだろうな。わかるんだ。戦闘の時に、あいつに力を吸われたような感覚がしたんだ」
歩みを進めながら、少年が呟く。
「あの溢れてる瘴気には、俺から吸った力も込められてる。俺のだけじゃなさそうだけど、攻撃の意思はない」
湊の死体のすぐ側で、玄カガチは膝をついた。
いつ異変が起きてもいいように、少年の周りに陽向たち三人が立つ。
そっと、玄カガチが瘴気に手をかざした。
すうーっと、瘴気が煙のように空へと上っていった。
山頂の方へと、吸い込まれていくようだ。
「…還ったみたいだ」
呟かれた言葉の意味を、陽向は問い質せずにいた。




