第四十五話
駿河が熾した火の燃える音がする。
魔獣よけの香を焚き、夜の闇の静けさが辺りに漂っている。
野営などしている場合ではないと叫ぶ陽向に、体力の回復を勧めた楓。そして、夜の山道を進む危険性を説いた玄カガチ。
二人の説得に、頭に上った血を下げて、陽向はぎりりと奥歯を噛み締めた。
わかっている。焦っても、五十鈴の救出は遠のく。敵の目的と数。せめてそれだけでも、湊という男から聞き出さなければならなかった。
だが、あの男は手強い。なかなか口を割りそうになかった。
五十鈴の身が案じられて、たまらない。今すぐ飛び出してしまいたい。
脳裏に浮かぶのは、村長の屋敷で看病していた五十鈴の寝顔。
水を飲ませ、粥を食べさせ、過保護になっていく自分に、戦うと、竜神様を救けると強い意思を浮かべた赤い瞳を見せてくれた。
会いたい。
無事を確かめ、この腕の中に抱きしめたい。
五十鈴の息遣いが思い出され、大きく頭を振った。
焚き火の側、縛られたまま座らされた湊が、持参した食料で粥を炊いている玄カガチをじっと見つめている。視線が気になって、少年は落ち着かなかった。だが、無駄話をするつもりもなかった。
粥を作り終え、陽向たちに声を掛ける。
「飯だぞ。さっさと食っちまおうぜ」
山菜や戻した干し肉を使った、滋養ある粥で体力の回復をはかる。
そして、無言で湊の前にも椀を差し出す。
「…?」
「一晩くらい食べなくたって、死にゃあしないだろうけど、自分たちだけが食うのは気になるからな」
匙を手にし、少年がすくった粥を湊の口元に運んだ。
「縛られたままじゃ、食べられないだろ?けど、その水の縄を解く訳にはいかないから。ほら」
「…若君…」
「その、若君ってのやめてくれよ。俺は、そんなのじゃない」
少年と男のやり取りを警戒して見つめながら、陽向が粥を口に運ぶ。
「水の君。逸る気持ちはわかってるわ。けど、昼間の戦闘でだいぶ消耗した。回復させてから山頂へ向かわないと、たどり着いた途端に倒れるなんて無様を晒すかもしれないわよ」
「敵の親玉がいるんだろ?万全で臨まないとな」
わかっている。
あのまま闇雲に駆けて、五十鈴を取り戻せても、その後敵に囲まれたら戦えなかっただろう。
己の無力さが、嫌になる。
五十鈴を守ると誓ったのに。
目の前で攫われ、襲ってきた敵には苦戦し、今、こんなところで足止めを食らっている。
湊を倒せたのは、運が良かったからだ。相手が玄カガチに気を取られていなければ、地に伏していたのは自分たちの方だっただろう。
無言で、粥を掻き込む。
今夜中には体力と神通力を回復させて、湊に口を割らせ、必ず五十鈴の元へとたどり着いてみせる。
心細くて泣いていないか、心配でたまらなかった。




