第四十三話
玄カガチに気を取られている湊へと、陽向が大剣を振り下ろす。
両手を交差させて受けた湊の腕の衣が裂け、黒い篭手が覗いていた。
そこへ駿河が矢を放つ。ヒュンッと鋭い音を立てて飛んだ矢が、湊の右腕に突き刺さった。
すかさず陽向が足払いをかけ、湊の体勢を崩したところへ、楓が短剣で斬りかかった。
「水縛!」
呪を唱えた陽向の手の平から放たれた水の縄が、再び湊の左手が発生させた黒い障壁へと吸い込まれていく。
ふっと笑う湊だったが、次の瞬間目を見開いた。
己を護るように発生させていた障壁から、吸い込んだばかりの水の縄が飛び出てきた。
「…っ!」
湊の細身の体を、陽向の水の縄が縛り上げていく。
水縛の術から逃れようと意識を割かれた湊へ、駿河が再び矢を放った。
弧を描き飛んだ矢が、敵の太腿を貫く。
「ぐ…っ」
とうとう湊が地に膝をついた。その首元に、楓が短剣をピタリと当てる。
「動くな。動けば、斬る」
低い声に、湊が抵抗を止めて三人を地面から見上げる。
ふう、と息を吐き、陽向が大剣を構えたまま湊に近寄った。
「訊きたい事がある。俺たちの巫女は、どこだ?」
「……」
「先程言っていた、儀式とは何の事だ?」
その問いにも、答えない。
ただ、湊は濁った瞳をじっと玄カガチに向けていた。
落ちた苦無を拾い、帯に差し直し、回復の秘薬が入った革袋を懐から出した玄カガチは、駿河に手渡した。
「怪我したろ?飲んどきなよ」
駿河の肩に目をやり、自分も秘薬を口に含みながら、ようやく少年は陽向たちの方に目を向けた。
「…?水の君?お姫さんの居場所は吐かせたのか?」
「いや…」
「急がないと、既に日は暮れた。御山の夜は、さらに凶暴になった魔獣が出てくるはずだぞ」
玄カガチの言う通りだった。
辺りは既に薄暗くなってきている。一刻も早く、五十鈴の救出に向かわなければ。
近づいてきた少年を、水の縄に縛られた男が見つめていた。
「…何だよ、何を見てるんだよ?」
気味悪く感じたのか、玄カガチが陽向の影に隠れるように位置をずらした。
そんな少年に、湊が向けているのは、どこか縋るような、先程までとは温度の違う瞳だった。
「お前、こいつを知っているのか?」
尋問の内容を変えてみた。
敵の目的がわからない以上、ここにこのまま、この男を放置していってもいいものか、判断がつかない。
「俺は知らないぞ。村長の屋敷で話しているのが、初めて見た時だ」
玄カガチの答えに頷き、陽向は湊の前にしゃがみこんだ。
「時間が惜しい。このままお前をここに置いて行って、魔獣の餌にしてもいいんだが…」
陽向には一瞥もくれず、ただ少年を見続ける湊。
そして、花が綻ぶように、微笑んだ。
「!」
「…あぁ、ご無事だったのですね…生きておられたとは…若君……」
「!?」
囁くようなその言葉に、その場にいる全員が驚愕に声を失った。




