第四十二話
陽向が振るった大剣を、湊がその胴で受け止めた。
ガキッと鈍い音がして、裂かれた装束の隙間から黒い胸当てが見える。
だが、陽向の全力の攻撃を、大した防御もなく受け止める湊という男は、やはり只者ではない。
「おや、大事な装束が破れてしまいましたね。儀式の為の正装だったのですが、勿体ない」
余裕のある声に、陽向は奥歯を噛み締めた。
両手の黒い障壁は、駿河と楓の攻撃を飲み込み続けている。
ふ、と湊が嗤った。
「そろそろ、いいでしょうかね」
陽向の腹を蹴り上げ、左右の手を交差させる。
位置を入れ替えた手の平から、火矢と風の刃が飛び出した。
楓の腕を火矢が貫き、駿河の肩を風の刃が引き裂く。
男に正面から蹴られた陽向の体は、後方へと吹き飛んだ。
「ぐ…っ!」
玄カガチが駆け寄ってくる。
「水の君!」
陽向を背に庇うように、少年がその小柄な体で前に立った。
「クロ、どけ!お前じゃ敵わない」
「そりゃそうさ。けど、体勢を整えるまでの時間稼ぎくらいはできる。ほら、飲んどけ」
玄カガチの家に伝わるという回復の秘薬が入った革袋を投げられ、受け取った隙に少年は飛び出した。
「クロ!」
陽向は焦り、秘薬を一息に飲む。
燃える袖に水の術をかけて火を消している楓と、袖を引き裂いて負傷した肩に布を巻いている駿河の姿が目に入った。
『二人とも、まだいけるか!?』
『当たり前だろ!』
『もう火は消えるわ』
頼もしい言葉に小さく笑い、陽向は立ち上がって足を踏みしめた。
蹴られた腹が鈍く痛む。
これだけの痛みですんでいるのは、玄カガチの秘薬のお陰だろう。
大剣を握りしめ、少年の後を追いながら、呪を唱えた。
「水壁!」
走っていく少年の体を覆うように、水の膜が張られた。
黒い障壁を消した湊が、向かってくる少年に微笑んだ。
腰に差した刀を鞘から引き抜く。
「次のお相手は貴方ですか。少しは楽しませてくださいね」
煽る言葉に答えず、玄カガチは手にした苦無を振りかぶった。
一本を投げ、もう一本を手に持ったまま湊に斬りかかる。
抜き身の刀で難なく少年の攻撃を受け止め、目を見開く湊。
「…これは…この力…?貴方は…」
力を吸われるような感覚に、玄カガチはすかさず飛び退いた。
指先が痺れている。
追いついた陽向が、大剣で再び湊に斬りつけた。
ガキン!と鈍い音を立て、陽向の大剣を受け止める湊の顔から、先程までの余裕の色が消えていた。
陽向の大剣を受けながら、玄カガチに視線を向けている。
そんな湊に、楓が腰から引き抜いた二振りの短剣で襲いかかった。
風の術は、黒い障壁に吸われ、反撃に使われてしまう。短剣で体を斬りつけたほうがいいと判断したのだ。
駿河も長弓を構え、火を纏わぬ矢を放つ。己の攻撃は避けて戦うだろうという、仲間への信頼があるからこそ放てた、強烈な一射だった。




