第四十一話
地に膝をついた陽向は、肩で大きく息をしていた。
額に浮かんだ汗を乱暴に腕で拭う。
チラリと後ろに視線をやれば、倒れている仲間たち。側には黒い集団も地に伏していた。
「く…っ」
「もうおしまいですか?つまらないですね。我が主の障害となるかと思いきや、なんと手応えのない…」
残念そうに息を吐く目の前の優男に、近づけない。
攻撃は躱され、術は防がれる。
男の後ろから黒ずくめの兵士たちが現れた時には、勝てると思っていた。
あれは、道中襲ってきた連中と同程度の強さだ。見ればわかる。
さっさと兵士たちを片付けて、目の前の薄気味悪い男は撃破し、五十鈴の救出に向かうはずだった。
届かない大剣の柄を、握り直す。
汗で滑る。袖を引き裂き、柄と己の手をきつく結んだ。
ぐっと歯を食いしばり、立ち上がる。
その様に、優男が片眉を上げた。
「おや、まだ戦う意思がおありで?」
「当たり前だ!」
再び、全力を込めて優男に立ち向かう。
「ふむ。巫女様の護り刀を気取る滑稽な貴方には、特別に名乗って差し上げましょう。
我が名は湊。一族の悲願を叶える為、主に仕え、千年の歴史に蓋をする者」
「歴史に蓋、だと?」
息を整え、湊と名乗った男の様子を窺う。
やんわりとした口調とは裏腹に、一切の隙がなかった。
「我が一族はね、呪われているのですよ。遥か始祖の時代から、抗えない血の呪いに、侵されている」
どこか遠くを見つめるような男の言葉に、気持ちを揺さぶられそうになる。
「水の君!」
駿河の声が飛んでくる。
ハッとして、湊の放った黒い炎をすんでのところで避けた。
長弓を支えに、駿河が立ち上がったところだった。
「成程、水の君、ですか。やはり貴方は、我が主の道行の妨げとなる。水の清らかさなど、主には不要。
儀式へご招待するつもりでしたが、ここで死んでいただいた方がよさそうですね。…ねぇ、東の二の君」
「!!」
正体を悟られた。だが、今はそんな事よりも…。
男の口調が変わった事に気づき、陽向は口の中で呪を唱えた。
『水の精霊よ、我が呼びかけに応え、力を貸し給え』
「水刃!!」
陽向の放った水の刃の後を追うように、南家の火矢が飛んでくる。
両手の平を体の前に突き出し、湊が黒い障壁を出す。
水刃と火矢を、飲み込んだ。あの障壁が、すべての攻撃を吸い取っている。
何とか、湊に術を使わせないようにしないと、勝機が見えない。
唇を噛み、陽向は駿河に念を飛ばした。
一族の修練の中で、自分たちだけが習得した技だった。
『駿河、こいつの障壁を引き受けられるか!?』
『やってやる!』
絶え間なく、駿河が矢を放つ。
湊は右手と左手それぞれで黒い障壁を発生させていた。駿河の火矢を右手で吸い取っている男に、左手側から楓が風刃を放ってきた。
チラリと目をやれば、玄カガチから回復の秘薬を飲ませてもらっていた楓が、鬼気迫る顔でこちらへ血だらけの手を突き出していた。
『楓!左手の障壁を頼む!その隙に攻撃する!!』
『わかった』
右手と左手、それぞれに攻撃を受けさせながら、陽向は湊の正面から斬り込んだ。




