第三十八話
男たちのくぐもった悲鳴が上がる。
猿ぐつわを噛まされ、縄で縛り上げられ地面に転がった男の指を、陽向が掴んでいる。
「ほら、素直に吐かないと、もう一本いくぞ?」
あり得ない方向に曲げられた指が、既に三本。
「俺たちの、仲間の少女はどこにいる?お前たちの目的は何だ?」
五十鈴の居場所と敵の目的。何としてでも吐かせる。
指を折った男はこれで四人目だ。口を割らない敵の意思の強さに、ますます五十鈴の身が危ぶまれた。
「水の君、気を失ったわ」
「…ちっ」
男の指から手を離し、次へ向かおうとする陽向の袖を楓が軽く引く。
「待って。無駄な時間だわ。早く山頂へ向かったほうがいい」
チラリ、と楓に目を向ける。
「白の君の救出が最優先。敵の目的がわからないのは不安材料だけど、ここで情報を引き出す事にこだわって時間を無駄にする事はない。
こいつらは、ここに転がしておきましょう。魔獣にでも食わせておけばいいのよ」
思いの外冷徹な言葉に、陽向は目を剥いた。
いつも穏やかな楓の言葉とは思えなかった。それだけ、楓も腹を立てているという事だ。
「風の君の言う通りだな。先を急ごうぜ」
駿河も同意した事で、陽向もようやく視線を道の先へ向けた。
「まだ敵が潜んでいるかもしれない。警戒しながら行くぞ」
「ああ」
「ええ」
頷き合う三人を、玄カガチが呆れたように見ていた。
「…お姫さん、あんたの保護者たち、おっかねぇな…」
休息もなしに駆け続け、いよいよ山頂の鳥居が見えてきた。
あの先に、五十鈴がきっといる。
必ず助け出す。
逸る気持ちを抑えながら走る陽向の目に、鳥居の影から誰かが出て来たのが見えた。
また襲撃かと大剣を構え直し、呪を唱えようとした、その時ーー。
「これはこれは、我が主の御前を穢す、不届き者ではありませんか」
慇懃な口調で、だがねっとりと絡みつくような声で男が話しかけてきた。
その姿に、玄カガチが叫ぶ。
「あいつ!村長たちを連れ去った役人だ!」
陽向の警戒度が跳ね上がる。
ここまで襲ってきた曲者たちとは違い、敵の幹部という事だ。
「おや、【結ノ里】で会った坊やですね。その節は、村の案内をありがとうございました」
濁った瞳で微笑む優男には、不気味な気配が漂っている。
「お前!村長たちはどうした!?」
苦無を構え、詰問する少年に、男は嗤う。
「お答えする義理はないのですが、まあ、いいでしょう。我が主の為の贄になっていただきます」
「贄、だと…?」
いつでも攻撃に移れるように身構えながら、男を窺う。
「我が一族の悲願が、もうじき叶います。尊き伴侶を迎え、新たな竜神となる為の儀式は、もう間もなくですから。
ふふっ、楽しみですねえ。貴方がたにも、特等席をご用意して差し上げますよ」
「何を…」
男が何を言っているのかわからなかった。
尊き伴侶?新たな竜神?
まさか、【神楽京】の守り神に取って代わろうとでも言うのだろうか。
正気の沙汰とは思えなかった。
男が、嘘をついているように見えないのが、より一層気色悪かった。




