第三十七話
先導する玄カガチの足が止まった。
道の先、山頂側から黒い人影が走ってくる。全身真っ黒の装束を着込み、口元も黒い布で覆っていた。
一人が矢を放ってきた。
「!」
すかさず大剣で矢を弾き、陽向が黒い集団と相対する。
五十鈴を攫った男たちの仲間なら、容赦しない。
両手で大剣を構えながら、水の精霊にも呼びかけた。
「水の精霊よ、我が呼びかけに応え、力を貸し給え!
水刃!!」
水の刃が襲撃者たちに飛んでいくのを追い、陽向が足を踏み込んだ。
激しい剣戟の音が辺りに響く。
駿河は火矢を放ち、楓も襲ってきた男の剣を二振りの短剣で受け止めていた。
彼らから少し離れた場所で、玄カガチも軽い身のこなしで攻撃を躱し苦無を投げている。
一人、また一人と男たちが倒れていく中、さらに森の中から黒い影が飛び出してきた。
「…ちっ、援軍か!?」
舌打ちしながら、陽向が目の前の男を倒そうと大剣を振るう。
新手に意識を割かれていた為か、手元が狂って襲撃者の首を刎ねた。
血飛沫が上がる。
頬に返り血を浴びたまま、新たな敵に向き直った。倒した男になど、見向きもしない。
「生け捕りなら、一人いれば充分だよな?」
口元に凄惨な笑みを浮かべ、陽向は再び大剣を振るった。
戦闘を終えた陽向は、息一つ乱さずに大剣についた敵の血を拭った。
他の三人はさすがに苦しい顔色だったが、負傷した者はいないようだ。
陽向は、駿河が押さえつけている曲者に近寄り、その顎先を蹴り上げた。
「…っぐ…!」
顔を覆っていた黒い布がずれ、その容貌が露わになる。
「お前、北家の人間か?」
「……」
こちらを睨みつける男は、やはり黒い髪に濁った灰色の瞳をしていた。
地に伏している他の男たちも、きっと同様だろう。
「俺たちの、仲間の少女を、攫ったのは、お前たちか?」
一言一言を区切るように、陽向が尋ねた。
「素直に吐かないなら、それでもいいぞ。お前のお仲間は他にもいる」
チラリ、と後ろの地面に倒され縛られている男たちに目をやる。
陽向の本気を悟ったであろう曲者は、それでも口を割らなかった。
襲撃者たちに目を向けた一瞬の隙に、己の舌を噛んで事切れた。
「こいつ…!
火の君!あいつら口に布を噛ませろ!舌を噛むぞ!!」
陽向の叫びに、駿河と玄カガチが男たちの袖を引き裂き猿ぐつわにして噛ませていく。
絶命した男の身なりを検め、楓がため息を吐く。
「まさか、自白しないように舌を噛むなんて…」
「北家の人間との関わりの薄さが仇になったな。目的も考え方も、さっぱりわからん」
苦々しく呟き、陽向は縛り上げられて転がっている男の一人に近づいていった。




