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竜の待つ都  作者: 紫月 京
第三章 仙北山での戦い

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第三十六話


仙北山中を陽向が駆ける。

踏み荒らされた獣道を、必死の形相で走っていた。

その後を、駿河と楓が追う。三人が目指すのは山頂の祠だった。



目の前で五十鈴を攫われるという大失態に、護衛である陽向は言葉もなかった。

地に落ちた五十鈴の抜き身の刀。拾い上げると、刀身は輝きを失っていた。

ふらり、と森へ足を踏み出しかけた陽向の腕を、玄カガチが強く掴んだ。

「……!」

「水の君、森に入るな。森は竜神様の領域だ。許可なく入れば命の保証はない」

「だが、こいつらは森から出てきた!」

倒れている男たちを指差し、陽向が叫ぶ。

「だから、おかしいんだ。冷静さを失ったら、お姫さんを助け出せない」

少年の指摘に、頭に血が上っていた陽向はハッと息を呑む。

倒れた男たちを検分していた楓が立ち上がった。

「素性を表すものは何も身につけていないわね。クロ、この中に、都から来た役人の仲間はいるかしら?」

「いや、どいつも見覚えはない。けど、村の人間じゃない。都からは、他にも御山に向かって人が来たんだろう?そいつらじゃないのか」

水不足の原因を探るべく、差し向けられた統治院からの人手。

縛り上げた男たちは、統治院の人間だろうか。

曲者たちとは反対側で、倒した熊型の魔獣の死体を調べていた駿河が、三人に声を掛ける。

「この魔獣からも、やはり黒い石が出てきた。今までの魔獣と同じだ」

陽向と駿河も、北家の刻印の入った石を既に見ている。

二人には内密に五十鈴に話した楓だったが、最早隠す意味はなかった。

「白の君を攫ったのがどんな勢力かわからないけど、北家が無関係とは思えなくなってきたわね」

そして、決意を込めて二人を見た。

「二人とも、ひび…大地の君でいいわね…の顔を覚えてる?」

楓の問いかけに、陽向と駿河の二人は幼い頃の記憶を思いだそうとする。

先に答えたのは駿河だった。

「何か…朧気って言うか…おかしいな、よく思い出せない」

「…俺もだ。本家で一緒に育てられたはずなんだが」

二人の言葉に頷き、楓は玄カガチに視線を向けた。

「クロ、都から来た役人の容姿を覚えてる?」

問われた少年が、力強く頷く。

「ああ。全身黒の装束を着た、三十くらいの優男で、黒い髪だった。瞳の色も、黒っぽかったような気がする。何か、濁って見えたんだよな」

「そう…今の統治院に北家からは参加してない。と、言う事は、村長たちを連れ去ったという役人は、統治院ではなく北家から来た不審者という事になる」

焦れたように、陽向が声を荒げる。

「相手が誰だろうと、白の君を救出に行く。ここで悠長に推測してる場合じゃない!」

「悠長にしている訳ではないんだけど…。白の君が連れ去られた場所に、見当はつくの?」

ぐっと言葉に詰まる陽向。

冷静さを失っている幼馴染にため息を吐いて、楓は玄カガチに視線を戻した。

「クロ、この山に、連れ去った白の君を閉じ込めておけるような場所はあるのかしら?」

しばらく考え込み、玄カガチは答えた。

「御山の頂上、竜神様の住処である滝壺の側の祠かな。祠の隣には、滝壺を管理する家が建ってる」

目的地が決まった瞬間だった。



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