第三十一話
【結ノ里】の最奥に、ひっそりと朱塗りの鳥居が建っていた。
千年の昔から、竜神の住処を守ってきた、人の世とを結ぶ、結界の入口。
下から鳥居を見上げ、五十鈴はしばし目を閉じる。
『竜神様、必ず御身の御前に参ります』
心の内で唱え、目を開ける。
陽向が心配そうにこちらを見ていた。
「白の君、大丈夫か?」
「大丈夫よ、ごめんなさい。行くわ」
これまでの戦闘で、神通力を思うように扱えなかった五十鈴を心配しているのだろう。
だが、倒れる前までが嘘のように、体内に力が漲っているのを感じる。
竜神の姿を夢に見た影響だろうか。
先導する玄カガチが小さく叫ぶ。
「魔獣だ!数、三!」
見れば、山道から大型の犬が、黒い瘴気に身を包みながらのっそりと歩いてくるところだった。
五十鈴は鞘から素早く刀を抜き、神通力を込めた。白銀に輝く刀身へ、魔獣たちの視線が向く。
大丈夫。鍛錬と同じように、神通力を扱える。剣の柄を握る手に力が入る。
駿河の放った火矢が赤い尾を引き、楓が呪を唱えて風の刃を撃った。
その後を、五十鈴が力強く足を踏み出し魔獣目がけて駆けた。
「白の君!」
慌てたように陽向が叫ぶが、構わずもう一歩、踏み込む。
身を低く構え、魔獣の急所に目線を集中させた。大きく刀を振りかぶる。
シュパッ、と鋭い音を響かせて、黒く染まった犬型の魔獣の首を刎ねた。
見覚えのある黒い小石が飛び出してきた。地面にかがみ、拾い上げる。やはり、北家の刻印が彫られた石である。久しぶりの戦闘に、少しだけ指先が震えていた。
その隙に、陽向が残り二匹を大剣で仕留めた。
倒れた魔獣の首には、玄カガチが投じた苦無が突き刺さっている。
駿河が魔獣の落ちた首に火をつけた。肉の焼ける匂いが漂う。
ふ、と息を吐き出し、五十鈴は刀身についた血を拭って鞘に収めた。
陽向が近づいてくる。
「怪我はないか?いきなり飛び出すなんて…」
五十鈴の肩に触れ、その身が無事か確認している。
「水の君、過保護だぞ。お姫さん、しっかり戦ってたじゃないか」
魔獣の首から苦無を抜き取り、血を拭きながら玄カガチも近づいてきた。
少年が感嘆したような声を出す。
「お姫さんの得物は、刀なんだな。接近戦とは意外だ」
「そうかしら?」
「体格的に、近接戦闘は不利なんじゃないかと思ってたけど、動きも軽くていいな」
思わぬところを褒められて、五十鈴は目を瞬いた。
「山道の途中、余裕があったら貴方の戦い方も教えてちょうだい」
五十鈴の頼みに、少年は微笑んだ。
「そうだな。戦う術は多く持ってた方がいい。時間があれば教えてやるよ」
魔獣の首がすべて灰になったところで、一行は再び山頂を目指して走り出した。




