第三十話
朝日が昇る前、五十鈴は静かに起き上がった。
昨夜楓に汗を拭いてもらったお陰か、玄カガチの粥の効果か、体が軽い。
白い修練着を着込み、懐に両親の形見である護身用の小刀、陽向から預かった東家の守り石、己の神通力を込めた防御用の呪符を、順に入れていく。
腰に刀を差し、黒い外套を纏って、最後に麻の帽子を深く被った。
「よし」
糧食や水筒を入れた荷を背に負い、貸してもらっていた部屋を出る。
扉の外で、同じく装備を整えた楓が待っていた。
「準備はいい?」
「ええ」
力強く頷き、二人で村長の屋敷を出る。
屋敷の入口で、陽向と駿河が待っていた。どちらもきっちり武装している。
その横に、玄カガチの姿も見える。
「よく眠れたか?」
「ええ、ぐっすり」
陽向の問いに頷き、ソワソワと視線を彷徨わせる様子に首を傾げながら、玄カガチへと目を向けた。
「私も、クロと呼んでいいのかしら?」
「ああ、いいぜ。よろしくな、お姫さん」
黒い絹の装束に身を包み、黒い篭手と胸当てをつけた玄カガチが、右手を差し出してきた。
「…?」
「握手。俺は足手まといにはならない。あんたたちこそ、俺の速さについて来いよ?」
軽い口調でそう言い、少し強引に五十鈴と握手を交わして、少年は陽向に向き直った。
「行くぜ」
「道案内、よろしく頼む、クロ」
「ああ、任せとけ!」
そして五人に増えた一行は、村の最奥にある仙北山への登山口を目指して駆け出した。
走り去る五人の背中に突き刺さる視線。
気配を感じ取るのに敏い陽向たちが、察知できないほどにその存在感を消した青年が一人、立っていた。
黒い装束に身を包み黒い外套を纏っている。上から下まで、闇のような黒だった。
口元を、同じく黒い布で隠していた。
黒々とした瞳が、一行の真ん中を走る五十鈴を見つめている。
「…やっと、会えるね」
小さく呟き、青年は踵を返した。




