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竜の待つ都  作者: 紫月 京
第二章 たどり着いた北の村

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第二十九話


一方の男部屋。

駿河のにやつく顔が、視界にちらつく。

「…うるさい」

「何も言ってないぞー」

「視線がうるさい」

村長の屋敷の客間であろうこの部屋に、今夜は泊まる事になった。そう何度も使う事はないだろう部屋は、華美な家具のない、質素な部屋だった。

粗末な寝台に腰を下ろし、陽向は大きく息を吐き出した。


『…衣を脱がせて…』


楓の言葉とともに、こちらを見つめていた五十鈴の瞳を思い出す。

いや、今思い出してはダメだ。

明日には出発だというのに、眠れない夜を過ごす気か。

自身に必死に言い聞かせながら、心を落ち着かせようと目を閉じる。

すると、唐突に五十鈴の寝顔が脳裏に浮かんできて慌てて目を開けた。ガバっと立ち上がる。

「おわっ!…何だぁ?どうした?」

立ち上がった陽向に驚いたのか、矢の確認をしていた駿河が素っ頓狂な声を上げる。

「ちょっと…走ってくる」

「はあ?今からか?」

「先に寝てていいぞ。ちょっと頭を冷やしてくるから」

陽向の様子に、駿河が小さく笑う。

「それ、走るくらいで落ち着くのか?」

「…っ」

にやにやから、幼馴染としての優しい笑顔に変わった駿河が、肩を竦める。

「あれは、まあ、ちょっとした楓の意地悪だな。忘れろ」

「意地悪?」

「五十鈴の看病を、楓に譲らなかっただろ?本当なら、女同士、楓が五十鈴に付きたかったんだと思う。けど、癒しの術は水の力だから、お前に任せたんだ」

南家の刻印の入った矢をすべて矢筒に収め、駿河が陽向を見つめた。

「明日からまた、危険な道のりになるんだろう?今夜くらいは、楓に譲れって、部屋から追い出す為にあんな事言ったんだろ」

「あー…」

言われてみれば、【結ノ里】にたどり着くまでの間も、何やかやと五十鈴の面倒を自分が見てしまっていた気がする。

同い年ではあるが五十鈴の事を妹のように可愛がっている楓には、面白くなかったのだろうか。

ふうと息を吐き、再び寝台に腰を下ろした。



五十鈴に渡した東家の守り石は、きちんと彼女を護ってくれるだろうか。

今の自分に出せる最大の神通力で、祈りを込めた青い小石。

仙北山に、どんな危険が待っているかわからない。

登山口の戦闘跡も、山頂の火の手も、都から来た役人もこの村の大人たちも。

気にかかる事ばかりだ。

どんな異変があっても、五十鈴の事は守り抜く。

窓から見える月に向かって、陽向は心に固く誓ったのだった。



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