第二十七話
物心ついた頃から、頭の奥に響いてくる声が聞こえていた事。
こちらの言葉は届かなかったが、大きな安心感を与えてくれていた事。
両親に尋ねると、それは竜神様のお声だろうと言われた事。
修練を始める前ではあったが、神通力の扱い方を父に習い、心も安定し、もう少しでこちらの声が届きそうだと感じていた事。
両親が突然亡くなった三年前から、少しずつ、その声が聞こえにくくなってきた事。
そして、一月前の成人を迎える頃には、声はまったく聞こえなくなった事ーー。
長い話を、三人は黙って聞いてくれた。
自分の気持ちを整理しきれずに話した為、上手く伝えられたか自信がない。だが、今夜の内に、三人にはしっかり話しておきたかった。
目線を上げ、幼馴染たちの顔を順に見つめる。
「この三日、いえ、私には実感はないんだけれど。眠っていた間に、夢を見ていたの」
「夢?」
「ええ。村の入口で倒れる直前、竜神様のお声が聞こえた気がするの。
それから、夢を見ていた。竜神様の、真っ黒に染まった影」
「「「!!!」」」
三人が同時に息を呑んだ。
不吉な夢の内容に、言葉もないようだ。
「この村に着くまでに襲ってきた魔獣が、瘴気に覆われていたでしょう?竜神様の影も、黒い瘴気に覆われているように見えた。そして、言われたの。『我を解放せよ』って」
「解放…」
考え込む楓の顔を見ながら、五十鈴は続ける。
「伝承では、竜神様の御身は銀色に輝いているはず。どうして漆黒の闇のような色になってしまっているのか、何からどうやって解放すればいいのか、わからない事だらけ。
だから、行かなきゃ。仙北山に登って、竜神様の御身がどうなっているのか、確かめる」
強い決意を声に滲ませて、五十鈴は話を終えた。
静寂が室内に流れる。
最初に沈黙を破ったのは、陽向だった。
「話してくれて、ありがとう、五十鈴。お前が抱えていた苦悩に、気づいてやれなかった。すまん」
五十鈴は首を横に振る。
「陽向が謝る必要なんてないわ。私が、臆病だっただけだから」
「俺たちは、一緒に仙北山に登る。竜神様のご無事も確かめなければならないし、新たに上がった火の原因も調べなければならない。これまで以上に厳しい道行きになるかもしれない」
そう、一刻の猶予もないのだ。本当なら、今夜の内に出立したいくらいだった。
しかし、焦ってもいい事など一つもない。準備不足が、どんな不測の事態を引き起こすかわからないのだ。
「それじゃあ、今夜はしっかり休んで、夜明け前に村を出ましょう」
場の空気を変えるように、楓が明るい声を出す。
「五十鈴、体を拭いてあげる。陽向たちは隣の部屋で寝てちょうだい」
「いや、五十鈴の世話なら俺が…」
陽向の言葉に、楓がじっとりとした目を向けた。
「衣を脱がせて、体の汗を拭くのよ?殿方に見せられる訳ないでしょ」
そう言われて、陽向は慌てて立ち上がり、駿河の袖を引っ張りながら部屋を出て行った。
動揺の為か、扉の角に足や腕をぶつけながら。




