第二十六話
村長の屋敷の奥の部屋に、玄カガチを除いた四人が集まっていた。
沈黙が流れる。
玄カガチは自分の家で山登りの装備を整えると言って駆けていき、四人はこの屋敷で夜を過ごす事となったのだ。
ふうと息を吐き、五十鈴が三人の幼馴染を見つめる。
陽向は大剣の手入れを、駿河は長弓を磨き、楓は糧食の確認をしていた。
「みんなに、話しておきたい事があるの」
それぞれ作業していた三人が、手を止めていっせいに五十鈴を見る。
五十鈴は大きく息を吸い、深く吐き出し、三人を順に見つめた。
「…私、小さい頃から、竜神様のお声が聞こえるの…」
幼馴染たちを直視できずに、膝の上で組んだ手に視線を落とす。
指先が震えてくる。
この話を三人にするのか、ずっとずっと迷っていた。
幼い頃に父から言われた言葉。
『五十鈴が竜神様のお声が聞こえることは、誰にも言ってはいけないよ』
その言いつけをずっと守ってきた。
陽向にも、駿河や楓にも、勿論響にも話した事はなかった。
けれど、竜神の姿を夢に見てしまった今、隠したままではこの先に進めない気がしていた。
五十鈴の言葉をどう捉えたのか、三人は無言のままだ。
心の臓がうるさいくらいに鳴っている。
早く、何か言ってほしい……。
「…俺は、何となく気づいてた」
陽向の言葉に弾かれたように顔を上げる。
今、何と言った?
「ひな…水の君?」
「陽向でいい。この屋敷内に、他の気配はない、五十鈴」
「気づいて、た…?」
「竜神様のお声が聞こえるとか、そんな具体的な事がわかってた訳じゃない。けど、お前が何かを一人で抱え込んでいる事には、気づいていた」
座る五十鈴の目の前で、陽向が床に膝をつく。
青い瞳が、じっと五十鈴を見つめていた。
「昔から、お前は隠し事が下手だったからな。何かを話したいのに、言えない苦しそうな顔を、何年もしていた」
「私は、気づかなかったわ。本家に赴く事が少なくなっていたのも理由でしょうけど」
「俺もだ」
悔しそうな駿河と楓に、陽向が苦笑を浮かべる。
「俺だって、成人してからは…いや、親方様と奥方様が亡くなってからは、本家に寄りつかなかったんだ。ただ、たまに長老たちに呼び出された時に会う五十鈴は、いつも辛そうな目でこっちを見てた」
そして、楓が陽向と同じように、五十鈴の前に座り込んだ。
そっと、手を握られる。
「五十鈴、秘密を抱えるのは苦しかったわね。気づかなくて、ごめんなさい」
「…楓」
「しかし、なんだって隠してたんだ?竜神様のお声が聞こえるなんて、凄い事じゃないか」
不思議そうな駿河の言葉に、五十鈴は泣き笑いのような表情になった。
「…父様が…誰にも言ってはいけないって…」
「御館様が…」
首をひねる駿河の肩を、楓が叩く。
「五十鈴を利用されない為でしょう。親方様の、お父上としての愛情だわ」
「そうだろうな。
五十鈴は始まりの巫女様の先祖返りと言われる見た目をしている。それだけでも、欲しがる権力者はいるだろうが、竜神様のお声まで聞こえるとなると、どんな奴が寄ってくるか、わかったもんじゃない」
陽向の推測に頷き、五十鈴は言葉を続けた。
「だけど、だんだんと、竜神様のお声は聞こえなくなっていたの」
指先の震えは、止まっていた。




