第二十五話
少年の真っ直ぐな問いかけに、五十鈴は咄嗟には答えられなかった。
言葉に詰まる五十鈴に何を思ったのか、玄カガチは首を横に振った。
「いや、やっぱり、いいや。水の君たちがあんたの事をとても大事にしてるみたいだから、聞いてみたくなっただけなんだ。
始まりの巫女様は白銀の髪をしてたっていうから、そうなのかな、って…」
何と答えるべきか、五十鈴は迷う。正直に素性を明かすべきか、隠し通すべきか。
陽向たちと自分とでは、この少年との時間に三日の隔たりがある。
気を許しても大丈夫な相手なのか、判断がつかなかった。
葛藤する五十鈴を助けるように、陽向が口を開く。
「白の君、俺たちは明日の朝には仙北山に登る。クロにもついて来てもらおうと思ってる。その道中で、クロと交流してみて、決めればいい」
陽向が山頂への道に同行させようと決めているのなら、信じてみてもいいのかもしれない。
そして陽向は駿河に目を向けた。
「それで、さっきの続きなんだが…」
「ああ、登山口の戦闘の跡な。防具の破片や衣の切れ端なんかが散乱してたんだ。クロが言うには、村長をはじめとする村の大人たちの装備に見えるって事なんだが」
駿河の確認に、玄カガチも首を縦に振った。懐に手を入れ、土汚れのついた布の切れ端を取り出して五十鈴に見せる。
「そう。これ、村長が着てた装束の色に似てるんだ。ここに、わかりにくいけど刺繍も見える。村長の家を表す紋だ」
少年が差し出した布には、うっすらと血の跡が見えた。
「多分だけど、都から来たあの役人と戦ったんじゃないかと思うんだ。どこかで、あいつが竜神様の御力を奪おうとしてる事に気づいたのかも」
「ただ、遺体はなかった。戦闘があったとすると、その後村の大人たちはどうなったのかがわからない」
続けた駿河の言葉に、背筋が寒くなる。
村の大人たちを連れ去った役人とは、何者なのか。
村長たちは無事なのか。今どこにいるのだろうか。
考え込む五十鈴の横から、陽向が手を伸ばしてきた。
そっと、五十鈴の握りしめた拳の上に温かい手が重ねられる。
「…っ」
「三日の間に、俺たちは共に戦い、会話し、この旅の間だけでも共闘しようと決めた。けど、白の君はまだ、不安だな?もっと交流する時間を持たせてやりたいが、その暇がない」
「……」
「俺が…俺たちが必ず守る。だから、旅の目的は見失わないでくれ。
白の君は、何の為に、ここまで来た?」
静かに問われ、五十鈴は仙北山へと目を向ける。
「…竜神様のご無事を確かめて、都に水を取り戻す」
「そうだな。なら、その事だけを考えろ」
頼もしい陽向の言葉に、五十鈴は素直に頷いた。




