第二十四話
村長の屋敷の扉が開かれる音がして振り返ると、五十鈴が建物から出てくるところだった。
駿河たちから離れて顔の火照りを冷ましていた陽向は、慌てて駆け寄る。
「白の君、まだ横になっていないと…」
「もう大丈夫だから。風の君たちを呼んでくると言って、なかなか戻らないから。
私が眠ってしまっていた間に何があったか、教えて」
強い決意の滲む赤い瞳に、陽向は気を引き締めた。
小さく頷き、焚き火の側へと五十鈴を促す。
五人で腰を落ち着け、陽向が口を開く。
「まず、仙北山の山頂から新たに煙が上っている」
「!」
「火の君が登山口まで少し様子を見に行った。そして、見つけてきたのが、これだ」
差し出された陽向の手の平の上に、見覚えのある黒い小石が乗っていた。
「これ…」
「北家の刻印が入っている。登山口から少し登ったところに、落ちていたらしい」
思わず、楓に視線を向けてしまう。
「風の君…」
五十鈴の言いたい事をわかっているかのように、楓も頷いた。
「これが落ちていた場所には、激しい戦闘の跡もあったらしい」
そう言って、陽向が駿河に続きを促した。
「魔獣がいないか、人の気配がないか、探りに行ったんだ。仙北山に登る前に、様子を見ておきたかったからな」
「道案内にクロがついて行ってくれたの。竜神様の住処を守るのが、代々彼の家に受け継がれてきたお役目なんですって」
楓の説明に、息を呑む。では、この少年は、北家の縁者なのだろうか。
北家の始祖が興したこの村は、竜神を深く信仰している。竜神の住処を守るという大役を負っているのなら、北家に縁のある家の子供という事になる。
五十鈴の視線を受け、少年が口を開いた。
「俺の家は、竜神様の住処を守り、竜神様に悪意を持つ者を寄せ付けず、神の世と人の世を結ぶお役目を持ってるんだ。これは、その為の正装」
身に纏った装束の袖を摘みつつ、五十鈴に説明してくれる。
「都から来る人間が、竜神様の御力を奪おうとやって来るなんて、思ってもいなかった。だから、最初にあんたたちが村に入ってきた時、石なんか投げちまった。悪かった」
頭を下げる少年が、嘘をついているようには見えなかった。
五十鈴は肩の力を抜き、駿河に目を向ける。
「それで、道案内をしてもらったの?」
駿河は頷く。
「ああ。俺だって、仙北山に来たのは初めてだからな。クロは何度も山に登ってるって言うから、先導してもらった」
「彼は、信頼できる人という事ね?」
五十鈴の確認には、隣から陽向が答える。
「白の君が眠っている間、何度か魔獣が襲ってきた。俺たちも勿論戦ったんだが…」
「ほとんど全部、クロが撃退しちゃったわね。鮮やかな手際だったわ」
クスリ、と楓が笑う。
そんな楓に、玄カガチが照れたように頭を掻いた。
「魔獣退治なんて、軽くこなせなきゃこの北の地では生きていけない。この村で生まれた子供は、立ち歩く頃から生きる為に訓練してる」
帯に差していた苦無を取り出してみせる少年。五十鈴は目を丸くした。
「それが、貴方の武器?」
「見事な投擲の腕前だぞ。魔獣も野生の獣も、あっという間に倒した」
「私たちの食料になったわね」
苦無をしまい、少年は五十鈴に顔を向けた。
「お姫さん、あんたは…巫女様なのか…?」




