第二十三話
屋敷の外に出ると、駿河と楓が火の番をしていた。
見回りから戻ってきたらしい、玄カガチの姿もある。
陽向が出て来た事に気づき、少年が駆け寄ってくる。
「お姫さんの様子はどうだい?」
「粥は全部平らげた。ありがとう、クロ」
素直に礼を告げる陽向に、少年がくすぐったそうな表情を浮かべる。
「それで、白の君の体調はどうなの?仙北山へは登れそう?」
「まだ様子を見たい。あいつはすぐ無茶をするからな」
「それはお前もだろ。看病の間、休めと何度も言ってるのに、聞きやしない」
駿河の軽口には玄カガチが答えた。
「眠ってるお姫さんに口移しで水も飲ませて、俺が作ってやった粥も『あーん』なんてして食べさせてたんだから、水の君は元気いっぱいだろ」
「!!」
少年の暴露に、楓が両手を口元に持っていく。駿河の顔がにやける。
「へー、ほー、ふーん?口移しに、『あーん』ねぇ?」
「水の君ったら、意外に情熱的だったのね」
からかってくる幼馴染たちに何も言い返せず、真っ赤な顔を隠すように腕で覆う陽向。
縋るように少年を見つめる。
「お前…なんで見て…」
「そりゃあ、あの時はまだ、あんたたちに警戒してたから、部屋を出て行く振りしてこっそり見てたに決まってんだろ?口移しなんて見ちゃって、すぐに警戒解いたけど」
「……」
「クロは、粥を『あーん』させるところも見てたの?警戒解いてたのに?」
「そっちはただの興味本位。あんなに必死で看病してた水の君が、お姫さんの目が覚めたら、どんな態度するのか気になって」
少年の言葉に駿河が手を叩いて笑う。
「それはいい仕事をしたな、クロ!お陰で俺たちは安心できた」
「そうね。二人は大丈夫そう」
微笑む楓に、玄カガチもニッと笑い返す。
三人の会話を聞いていられなくて、陽向は火の様子を見る振りをして、少し彼らから距離を取った。
耳が熱い。玄カガチが言っているのは事実ではあるが、眠る五十鈴に水を飲ませただけで、他意はない。なかったはずだ。
粥を食べさせたのも、本当に、目覚めたばかりの五十鈴の体力が心配だっただけで……。
胸の内で、誰に対してなのかわからない言い訳を重ねる。
脳天気な会話などしている場合ではないのに。眠る五十鈴の顔が思い出される。
早く目覚めてほしくて、何度も水の癒しの術をかけた。
初めは苦しそうな呼吸だった五十鈴が、徐々に落ち着いて健やかな寝息をたて始めた事に安堵し、寝顔を見つめている内に、触れたくなった。
薄く開いた唇に、そっと指を這わせた夜もあった。
誰にも見られていないはずだったのに。
今こうして言葉にされると、恥ずかしくてたまらなくなってきた。
いや、あれは看病だから、とさらに言い聞かせても、もう、自分の気持ちは誤魔化せないような気がしていた。




