第二十二話
粥を食べ終え体が温まってくると、先程まで見ていた夢が思い出される。
解放を求める竜神の、漆黒の影。
早く陽向たちに話さなくてはと焦るが、何をどう話せばいいのかわからない。
陽向の態度もおかしい。今までこんなに過保護だった事はない。
眠っている間に一体何があったのか。
「え、と…水の君?これまでの事を話してほしい。私も、話があるの」
五十鈴の言葉に、真剣な表情で頷く陽向。
「風の君たちも呼んで、皆で話そう。お前の体調次第では、明朝にでも、仙北山に登る」
「そうね、三日の間に何があったのか、聞きたいわ」
粥の入っていた椀を五十鈴の手から受け取り、陽向が立ち上がる。
「もうしばらく、横になってろ。皆を呼んでくる」
「ええ」
こうして話していると、普段と変わらない陽向に見える。
「すまん、先に一つ謝っておく」
「えっ?」
「クロには、その髪を見られた」
「…っ!」
言われて慌てて頭に手をやれば、白銀の髪を覆っていた麻の帽子が脱がされていた。
蒼白になる五十鈴を宥めるように、陽向がそっと手に手を重ねる。
「大丈夫だ。真名は明かしていない。お前の目が覚めるのを待っていた。
あいつは、今のところ敵じゃない。信用していいだろう。だから、そんな不安そうな顔をするな」
そう言われても、これまで旅先では素性を隠すように言われてきたのだ。すぐには落ち着かない。
「とにかく、休んでろ」
そして、陽向は部屋を出て行った。
一人になった五十鈴は、言われた通りに身を横たえ、軽く息を吐き出す。
始まりの巫女の血を引く白銀の髪を、外の少年に見られた。
【結ノ里】に入ってすぐに相対した少年と、それほど言葉を交わす事もなく倒れてしまった五十鈴には、不安しかなかった。
竜神信仰の篤いこの地で、正体を知られる事が何を引き起こすのか、怖くてたまらない。
目を閉じ、夢に見た竜神の姿を思い出す。
そうだ。恐れている場合ではない。気持ちを強く持たなくては。
解放を望んでいた竜神。
言い伝えでは、それは美しい鱗を持つ、銀の竜であったはずだ。
それが、あの闇のような黒い姿はどうしたことか。
都の水不足と仙北山の異変。やはり何か繋がりがあるのだろうか。
楓に見せられた、北家の刻印が入った石が魔獣の体内から出てきたことも気にかかる。
彼女はもう、陽向たちに話しただろうか。
三日も寝ていたなんて。
どんなに体調が悪かったのだとしても、呑気な自分に腹が立つ。
唇を噛み、目を開ける。
見知らぬ天井を睨みつけながら、五十鈴は竜神を解放する手段について考え続けていた。




