第十六話
北家の始祖が若くして隠居し、子に跡を譲ったのち、移り住んだのが仙北山麓の村と言い伝えられている。
元来他者との関わりが薄く、神楽族の中でも孤立していた北家の初代当主が、竜神に祈りを捧げるために興した村が、【結ノ里】の始まりである。
つまりは、この仙北山麓の村は、神楽族北家の管轄地であった。
北家の特徴が色濃く現れている目の前の少年は、キッと五十鈴たちを睨みつける。
「お前ら、何者だ!?先月のあいつらの仲間か!?」
少年特有の高い声で、詰問する彼の体はしかし、震えているようだった。
「石を投げたのはお前か?先月のあいつらとは何のことだ?」
陽向の言葉に、五十鈴は痛む頭を押さえながら足元に目を向ける。
乾いた地面に、先の尖った石が転がっていた。先ほどの風を切る音は、この石が投げられたものだったらしい。陽向が手を引いてくれなければ、当たって負傷していたかもしれない。
頼もしい護衛の背中に庇われ、五十鈴は村の少年に視線を戻した。
日焼け知らずの肌、黒い髪と黒い瞳。どこか懐かしさを感じさせる、その容姿。幼い頃に見ていたような、奇妙な既視感があった。
一歩、陽向の背から足を踏み出す。
「…っ、待て!」
「大丈夫よ」
陽向の制止を手で止め、五十鈴は少年に近づいた。
背後で、駿河と楓が警戒を解かない気配を感じながら、少年に向けて穏やかな声を出す。
「私たちは、都から来たの。貴方は、この村の人?」
「…都から…やっぱりお前ら…っ!」
「貴方の言う、先月のあいつらというのが何のことか、私たちにはわからない。だから、教えて?この村で何が起きているのか。
私たちは貴方に攻撃しない。…二人とも、武器を下ろして?」
最後は駿河と楓に振り返り、小さく頷いてみせる。
二人は顔を見合わせ、陽向にも目をやった後、不承不承といった表情で武器を下ろした。
だが、警戒した瞳のまま、少年とのやり取りを見つめている。
「ね、攻撃しないわ。だから貴方も、少し落ち着いて。何があったのか話して」
五十鈴の穏やかな口調に、少年も少しだけ表情を緩めた。
「…竜神様の御力を…奪いに来たやつらかと、思って…」
「「「!!」」」
五十鈴の後ろで三人が息を呑む気配がした。五十鈴自身も、少年の言葉には驚愕していた。
竜神様の御力を、奪う……?そんな事、只人にできるのだろうか……。
もう一歩、少年に近づいた。彼が体の横で握りしめた拳が震えている。
この【結ノ里】で、一体何が起きているのか。
「詳しく教えてもらえないかしら。私たちは、おそらく貴方の敵ではないわ。都から来たのは本当だけれど、竜神様の御力を奪うだなんて、そんな事、できるわけもするつもりもない」
優しく諭すような五十鈴の言葉に、少年は恐る恐る、といった表情で、五十鈴と後ろの三人を交互に見やる。
彼の中でどのような葛藤があったのか。やがて、ポツリと、少年が呟いた。
「先月、都から役人が来た。竜神様の御力が必要だと言って、村長たち村の大人を連れて、御山を登っていった…誰も、還ってこない…」




