第十五話
一夜明け、四人はそれぞれの思いを胸に出立の支度を手早く済ませた。
麓の村まであと数刻。四人の脚で駆ければすぐに着くだろう。何が起きてもいいように、武器を手にし、守りの呪符を懐に忍ばせた。
「行くぞ」
陽向の掛け声で、一斉に走り始める。
先頭に陽向、その後ろから五十鈴が続き、五十鈴を守るように斜め後ろに駿河と楓が並ぶ。
走る速度は落とさずに、陽向が話す。
「仙北山麓の村には、元からいる村民と移住した者たちがいるはずだ。竜神信仰の篤い地だから、五十鈴はしっかり髪を隠しておけよ。神楽の巫女だと悟られるな」
言われて五十鈴は麻の帽子をしっかりと被り直した。白銀の髪をすべて中にしまう。
竜神の棲む仙北山のお膝元、麓の村では都とは比べ物にならないくらい、深く竜神を奉っているという。始まりの巫女の末裔である事が知られれば、現在の異変を何とかしろと、五十鈴が詰め寄られる可能性が高かった。
野営地を出て数刻、運よく魔獣に襲われもせずに、一行は山麓の村へと到着した。
村の名は【結ノ里】。千年の昔から、神域と人里とを結ぶ、古い村である。
朱塗りの門を少し離れた先から見やり、陽向が首を傾げる。
「見張りが立っていない。門には来客や外敵を報せる見張りがいるはずなんだが」
「それに、随分静かなのがここからでもわかるわ」
楓も村の入口の様子を確認している。
五十鈴は腰に差した刀に左手を添え、右手で懐の守り石をそっと確かめた。
「突入する?」
五十鈴の問いに、陽向が頷く。
「ここからでは村の様子も知れないしな。仙北山に登るには、どうせ村に足を踏み入れなければならん。
警戒度を上げていけよ」
周囲に鋭い視線を投げながら、陽向が先頭を歩き出す。
その後を、三人が慎重について行く。
魔獣の気配どころか、人の気配すら感じられない中、一行は朱塗りの門をくぐり、【結ノ里】へと足を踏み入れた。
途端に、乾いた空気が四人を包む。
「水が残っているようには思えないわね」
「人もいないな。村民はどこだ?」
楓と駿河の会話を背に聞きながら、陽向の後に続く五十鈴は、頭の奥が痛むのを感じた。
「…っ」
クラリ、と眩暈が襲うのと、陽向に強く手を引かれたのは同時だった。
「誰だっ!」
陽向の鋭い誰何の声。ヒュンッと何かが風を切る音。
駿河が長弓を構え矢を番えた。楓も呪を唱えようと指を組む。
「お前らこそ、誰だ!?」
声変わり前の少年のような叫び声が響いた。
四人が視線を向けると、ボロボロの麻の服を身に纏った、きついまなざしをした少年が立っていた。
日焼けなど知らないかのような真っ白な肌、漆黒の髪、黒曜の瞳。
紛れもなく、北の果てである【結ノ里】の村民の姿であった。




