第十四話
肉の焼ける匂いが辺りに漂う。
パチパチと、火の爆ぜる音が響く。
重い沈黙がその場を支配している。
ふ、と駿河が声を漏らした。
「裏切り者、って…。何言ってんだ?誰が、何を、裏切ってるって言うんだ?」
引き攣ったような笑みを浮かべ、楓を見返す。
「わからない。可能性の話だから」
「憶測で物を言うのは好きじゃない。確定した話じゃないなら、俺に聞かせないでくれ」
「最悪の可能性は頭に入れておかないと、いざという時に動けないわよ」
「それでもだっ!」
突然立ち上がり、駿河は叫んだ。
頭を振り、余計な考えを追い出すように息を吐く。
「楓、俺はお前と違って頭がよくない。本家で当主の教育を受けていた頃も、机に齧りついているより体を動かすほうが好きだった」
額に手をやり、駿河は続ける。
「大人たちが難しい顔をして話すことも、お前や陽向と違って俺にはさっぱりだった。だから…」
絞り出すような声で、楓に向かってそれでも何とか笑顔を作る駿河。
「俺は、体を鍛えて、この命を懸けてでも、お前らの盾になると誓った」
「……」
「頭を使って考えるのは、お前らのほうが得意だろ?俺は、駒でいいんだ。楓の言ういざという時には、お前らの指示通りに動くさ」
「それが…見知った顔を相手に戦うことになっても?」
「ああ」
拳を固く握りしめて立つ駿河を見上げる楓は、しばらく彼を見つめた後で息を吐き出した。
「わかった。この話はもう、しない。でも、可能性だけは頭に入れておいて。お願い」
「…了解」
焼ける肉に視線を戻し、楓は今後の旅への不安が胸に立ち込めるのを押さえられなかった。
一方、天幕の中では五十鈴と陽向が無言で向かい合っていた。
こちらも重たい沈黙が流れている。どちらが先に言葉を発するか、お互いに気配を探っている。
陽向の海の青に見つめられて、五十鈴は胸がざわつく感覚を覚えていた。心の奥底まで見透かされそうな、青い瞳。隠し事の上手くない五十鈴が、この幼馴染を誤魔化す事はできそうにない。
だが、何をどう話せばいいのか、わからなかった。
楓に聞かされた話をそのまま伝えるのか。それは明かしてくれた楓への裏切りにはならないのか。
それとも、楓は五十鈴から陽向に伝わる事を期待して話したのか。
考えるほどに、どうすべきかわからなくなっていく。
五十鈴の葛藤をどう受け止めたのか、陽向が軽くため息を吐いた。
「今夜はもうやめよう。明日には麓の村に着くんだ。気持ちを落ち着けてもらわないと困るしな。
だが、楓との話は必ず聞かせてもらうからな」
そして、陽向は立ち上がり、天幕を出て行った。
残された五十鈴は握りしめた己の手に目をやり、どうすべきかを考え続けていた。




