第十三話
焚き火の側で、駿河と楓が狩った鳥を捌いている。
枯れる寸前の泉で水を汲み、飲み水と調理用の水にした。明日には麓の村に到着する。今夜は肉を食べ、力を蓄えておかねばならない。
黙々と作業する楓に、駿河が尋ねる。
「楓は、西家を継ぐのか?」
「どうして?西家には兄様がいるのよ?当主を継ぐのは兄様だわ」
「けど、泰貴どのは、体が…」
「兄様は確かに体が弱いけど、西家の正当な跡継ぎだわ。私は、その補佐をして生きていく」
強い気持ちの滲む口調に、駿河は言葉を飲み込む。
「駿河こそ、南家を継ぐんじゃないの?この旅が危険なことはわかってたでしょうに、どうして来たのよ?」
鳥の血抜きを終え、皮を剝ぎ、食べやすい大きさに肉を切っていく。
五十鈴にしっかりと肉を食べさせたい。懐に黒い小石の存在を感じながら、楓は作業を続ける。
「俺は…」
拾ってきた小枝を串状に削り、切った鳥肉を差して焚き火にくべながら、楓はようやく駿河に目を向けた。
「駿河は、家を継ぐことに消極的だと思ってたわ。ただ、体を鍛えるのが好きだから、本家に通って神通力の制御を覚え、鍛錬を積んで弓の腕前も上げた。
本家に五十鈴、それを支えるのは東家の陽向。自分はそれを外から助ける。そんな風に、己の役割を決めているように見えた」
冷静な楓の言葉に、駿河は驚く。彼女の言う通りのことを、考えていたからだ。
「五十鈴は強くなったみたい。さっき、天幕の中で少し話しただけだけど。小さい頃は、あんなに泣き虫だったのに」
幼い頃を思い出すように、優しい微笑みを浮かべる楓。脳裏に、幼少時の風景が浮かんできた。
本家の一人娘である五十鈴に年齢の近い少年少女たち。
大きな屋敷の中庭で、五人で過ごした幼い日々。
大人たちの未来への不安など何も気づかずに、笑って一緒にいた。
何故自分たちが本家に預けられているのか考えもしなかった。強固な守りの中で、幼い自分たちが生き永らえるように、保護されていたのだろう。
楓には四人の幼馴染と同じように、いや、それ以上に大切な兄がいた。
西家の泰貴、生まれつき神通力が高く、その神力の高さに体がついていかずにすぐに熱を出す。
成人まで生きられないだろうと言われていた泰貴は、本家の結界の中で力を安定させ、次期当主としての教育も本家で受けていた。
成長とともに、徐々に体調が安定し、現在二十八歳にまでなっていた。
この前例に倣って、楓たち四人も、本家の保護の中で力を安定させるまで過ごすことが決まったのだ。
仙北山への旅路に、泰貴が守りとして楓に手渡したのは、西家の紋が刺繍された薄黄色の羽織であった。兄の神通力による、旅の加護を祈る思いが込められた羽織である。
『楓、仙北山への旅は危険なものとなるだろう。巫女様の事をお守りしたいのは勿論わかっているけれど、楓も自分の身をしっかり守ること。いいね?』
兄の見送りの言葉を思い出し、楓の胸に温かい気持ちが灯る。
駿河に再び問う。
「もし、一族の中に裏切り者がいたら、駿河はどうする?」




