第十二話
「二人とも、火を熾した。早めに食事と水分を摂って、明日に備え…」
陽向が天幕の中に入ってきた時、二人の少女は無言で見つめ合っていた。
「どうした?」
天幕内に漂う空気に、陽向が首を傾げる。
「何でもないわ。食事ね、わかった。準備を手伝うわ」
楓がさっと立ち上がり、五十鈴を振り返る。
「さっき仕留めた鳥の肉を焼くわ。五十鈴はもう少し休んでなさい」
そして、天幕を出て行く。
後には五十鈴と陽向の二人が残された。
今まで楓が座っていたところに、陽向が腰を下ろす。
「楓と何を話してたんだ?」
五十鈴は迷った。今聞いた話を陽向にするべきかどうか。
確かなことがまだ何もわからない。しかし何も言わなければ、陽向は心配するだろう。
恐る恐る、口を開く。
「…陽向は、旅が終わって都に戻ったら、私の婿になるの…?」
何を言っているのだ、自分は!しかもこんなに震えた声で!
思わず頭を抱えそうになった五十鈴は、陽向の顔を見ていられずに視線を下げた。
彼の顔から目を逸らさなければ、真っ赤になった陽向という珍しいものが見られたのに。
「い…五十鈴…?そういう話を、あー、楓と…?」
「いや、あの、待って…?ちょっと、今のはナシというか…あの、忘れて…?」
ガバッ、と立ち上がり、
「わ、私も、準備手伝ってくる…っ」
と、天幕を出て行こうとする。
その腕を、陽向が掴んで引き戻す。
「……っ!」
振り返った五十鈴の目に飛び込んできたのは、思いの外強い視線を向ける陽向の姿で…。
どうすればいいのかわからずに立ち尽くす五十鈴の手を引き、陽向が息を吐く。
「とりあえず、座ってくれ。食事の準備は二人に任せておこう」
落ち着かせるような陽向の声に、五十鈴は黙って再び腰を下ろした。
ガシガシと頭を掻き、五十鈴を見て、視線を外し、また五十鈴を見つめ、という動作を繰り返していた陽向が口を開く。
「すまん。ちょっと、驚いて。お前から婿についての話を振られるとは思ってなくて」
「こ、こっちこそ、ごめん。あの、今はそれどころじゃないから、本当に今の話は忘れて」
「それどころじゃないって?」
途端に鋭くなった陽向の視線に肩が跳ねる。
「もう一度聞くぞ。楓と、何を話していた?」
先を見通す水の力。海の青をした陽向の瞳に、五十鈴は吸い込まれそうになる。
誤魔化せる気がしなかった。




