第十一話
大地の力を受け継ぐ北家の響。
神楽族の中でも孤高を貫き、他者との交わりをほとんど持たない北家の現当主である。
漆黒の髪に黒曜の瞳、身に纏う装束もすべて黒色で統一された、五十鈴より二つ年上の一族の若者だ。
幼少時、神楽族本家で育てられていた最後の一人であり、五十鈴の婿候補の一人でもあった。
東家の陽向、南家の駿河、北家の響の三人は五十鈴の婿候補として、一族の未来を担う者として、本家で長老たちから教育を受けていた。
女児であった五十鈴と楓は同じ教育を受けることはなかったが、両親に連れられて遊びに来ていた楓とともに、五人で過ごすことも多かった。
『響に最後に会ったのがいつか、覚えている…?』
楓の問いに、五十鈴はすぐには答えられなかった。
最後に響に会ったのがいつか……。何故だろう、思い出せない。
彼が成人を迎えるまでは、本家に顔を出していたように思う。響より一つ年上の陽向とも同い年の駿河とも、一緒にいたような気がする。
だが、言われてみれば随分長い間、会っていないように思えてきた。響の成人の儀には参列した覚えがあるので、それ以降二年は会っていないことになる。
「成人の儀で…会ったわよね…?」
「私もそう思う。でも、どうも記憶が朧気で…。
五十鈴もそうなら、私の勘違いではなさそうね。これを見て」
そう言って、楓が懐から黒々とした石を取り出した。
「これは…?」
「野営地の直前、元は白兎の魔獣と戦ったでしょう?首を刎ねた時、魔獣の体内から飛び出てきたの」
楓の手の平の上で鈍く光る小石を見つめて、五十鈴は懐中にしまった東家の守り石にそっと手をやった。
陽向から預かっている青い小石に、よく似ていた。
「ここ、北家の刻印が彫ってあるの」
「…!」
楓が指差したのは、目を凝らさなければ見えないような小さな刻印で、しかし確かに北家の力を示すものだった。
「どうして、魔獣の体内から…」
「理由はわからない。でも、現物がこうしてある以上、北家がまったく無関係とは思えない」
「まさか、仙北山の異変も……?」
五十鈴の震える声に、楓はゆっくりと首を横に振った。
「それもまだわからない。
私は普段西家に引き籠っているから、そもそも北家の人間との関わりは薄いの。だから、本家の五十鈴に聞いてみたかった。この石のことは、陽向と駿河にも、まだ話していないの」
黒い小石を懐にしまい直し、楓は五十鈴の瞳を見つめた。
「ここ最近、北家に何かあったとか、そういう話は聞いていない?」
楓の問いに、五十鈴は首を横に振ることしかできなかった。




