第九話
交代で見張りにつくことになり、五十鈴と楓を先に眠らせた後ーー。
火の番をしながら駿河が陽向に話しかけた。
「陽向はさ、五十鈴とのことどう思ってんの?」
眠りにつく二人を起こさないように、聞き取れないほどの小声で囁く。
「どう、とは?」
返す陽向の声も夜の闇に溶けそうなほど小さい。
「長老たちが五十鈴と婚姻させようとしてるのはわかってるだろ?俺は本家に入るつもりなんてないし、五十鈴のことは妹みたいにしか思えないから、この旅が終わったら婿候補から降りようと思ってる」
「婿候補から降りて、南家を継ぐのか?」
「うーん…。ここだけの話にしてくれよ?」
焚き火の爆ぜる音が闇に響く。
「俺、竜を祀る一族はじきに滅びると思ってるんだ。どんな歴史だって、いつかは終わりを迎える。もう何年も、一族に新たに子供は生まれてない。俺たちが最後の世代だと思ってる。
滅びゆく家を継ぐことに、意味なんてあるのか?」
駿河の言葉に陽向は目を見開いた。この幼馴染がそんなことを考えていたなんて、気づかなかった。
「じゃあ、婚姻はしないのか?」
「そうだなぁ…一族のための婚姻はしたくない。一緒にいたい、生涯を共にしたいと思えるような相手に出会えたなら、考えるかもしれない。
けど、五十鈴も陽向も一族を守ることを考えてるだろ?それを否定する気はないけど、でも心は大切にしてほしいんだ。婚姻するなら、お互いに愛情で支え合える夫婦になってほしい」
南家の火の力を受け継ぐだけあって、駿河には意外と情熱的なところがある。これまでの自分にはなかった考え方に、陽向は黙り込む。
「別に、そうしろ、って話じゃない。幼馴染として、陽向が五十鈴を大事にしてるのは見ててわかるし。ただそれは、将来の伴侶としてちゃんと見てるんだろうか、って」
「……」
駿河の言うとおり、五十鈴のことは大切に思っている。幼い頃、本家で共に過ごした幼馴染。
陽向と駿河、そして響の後をいつも一生懸命追いかけてきていた、可愛い妹分。
将来の伴侶として……?五十鈴を幼馴染でなく、女性として考える?
駿河が言っているのはそういう事だろう。
首を傾げながら、陽向は慎重に答える。
「今はまだ、わからない。五十鈴のことは好きだし大切だ。守りたいと思っている。それだけではダメだということだな?」
「ダメかどうかは知らない。それは陽向と五十鈴の二人で決めることだから。ただ、俺は婿にはならないって事を、陽向に伝えておきたかっただけだ」
「そうか…わかった」
五十鈴が眠る天幕のほうを振り返りながら、陽向は静かに答えた。




