表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふくとアクア部の日常  作者: たんすい
第4章:冷たい家、温かい朝
31/63

フグは食べ物じゃありません!

 放課後の教室で、机に教科書をしまっていると、隣の席の楓が声をかけてきた。


「ねえ彩花、部活はじめたんだって?」


 振り返ると、楓は好奇心まるだしの顔で目をキラキラさせていた。

 いつもズレた質問ばかりしてくるけど、結局笑わせてくれる友達だ。


「うん! アクア部に入ったんだよ。今ね、アベニーパファーっていう小さいフグを飼ってるの。すっごく可愛いんだ!」


 思った以上に声が弾んでしまった。

 本当に可愛いから仕方ない。黄色いお腹がぷっくりしてて、見てるだけで幸せになる。


「へえ」


 楓は首をかしげた。


「フグ? ……え、学校の部活でフグ飼ってるの? それって、もしかして……食べられるフグ?」


「えっ!? 食べるって……!?」


 予想の斜め上から来た質問に、思考が一瞬フリーズする。


「違う違う! アベニーパファーは観賞用なの! 指先くらいの大きさで……でも歯は鋭くて、巻貝はポリポリ食べちゃうけど……!」


 慌てて弁解する私に、楓は「ふむふむ」とうなずいたあと――ニヤリと笑った。


「へぇ〜、なるほどね。じゃあ次はトラフグとかどう? 育ったら鍋パーティー!」


「ちょっと待って!? そんな部活じゃないから!」


 思わず両手をぶんぶん振る。

 でも楓は悪びれない。むしろ楽しそうだ。


「えー、残念。せっかくなら“実用的な部活”のほうがいいのに」


「フグは実用じゃないのっ!」


「うんうん、わかったわかった。……で、今度そのアベニーって子、見せてよ」


 急に真面目なトーンになって、私は思わずにっこりする。


「いいよ! すっごく可愛いから。部室、見にきて!」


 私は人差し指をピンと立てて念を押す。


「絶対に食べたりしないでね」


「しないしない。そんな小さいフグじゃ、お腹いっぱいにならないもん」


「もぉ〜〜っ!」


 教室に抗議の声が響き、楓はお腹を抱えて笑った。

 ……ほんと、もう。


 でも、こうして笑い合えるのは久しぶりだった。

 近藤先生のこと、部の危機……いろんな不安があったけど――

 今、こうして笑ってる自分がちょっと誇らしい。


「で、その可愛いフグの部活、どうなのよ?」


「あ、それなんだけど!」


 私は待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「実は今、部員が足りなくて……あと一人集まらないと、廃部になっちゃうの!」


 パン!と両手を合わせ、楓に拝み込む。


「だから、お願い楓ちゃん! アクア部に入ってくれないかな!?  絶対に面白いよ!」


 必死な私の顔を、楓は数秒じっと見つめ――にこっと笑って言った。


「やめとく」


「即答!? なんで!?」


 心のどこかで、ちょっとだけ期待していた。


「んー。だって私、飼うのってそんなに好きじゃないし、バイトもしてるしね」


「そ、そう……だよね。無理には言わないけど……」


 落ち込みかけたところで、楓が肩を軽く叩く。


「でも応援はしてるからさ。早く新しい部員、見つかるといいね。今度はちゃんと観賞目的の人が」


「うう……がんばるよぉ……」


 泣き言がこぼれたけど、明日は別の子に声をかけてみよう。そう思った。


「……じゃあさ」


 鞄を肩にかけた楓が、ふと振り返る。


「その可愛いフグ、今から見せてよ。せっかくだし」


「え? いいの!?」


 一気に気持ちが明るくなった。


「うん。入部はしないけど、見るくらいなら。ほら、『絶対可愛い』って力説してたじゃん。どのくらい可愛いのか確かめさせてもらうよ」


 楓はイタズラっぽく笑う。


「もし期待外れだったら、フグ鍋ね」


「しないって言ってるでしょー!」


(怒るほどじゃないけど……やっぱりちょっと傷つくな。

 この子は私にとって、ただの魚じゃないんだよ)


 私は楓の腕を引っ張り、廊下へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ