空腹
帝国中心部の街角に、一人の少女が興奮気味に歩いていた。彼女の名前はティアナ・エヴァリス。その外見はあどけない少女そのもの。天真爛漫さと食欲の旺盛さは彼女の特徴で、食の旅と称した冒険の中で舌の肥しさに磨きがかかっていた。
「美味しいご飯、どこかにないかなー!」
ティアナは空を見上げ、雲ひとつない青空に自分の食欲を問いかけた。しかし、街で目に映るのは、ただの食堂や露店。どれも何か足りないように思えた。
そんな時、ティアナはふと目を引かれたのは、町外れの古びた屋敷だった。周囲の人々が「ヴァンパイアが出る」と囁き合うその場所に、彼女は興味を持った。
「ヴァンパイアなら長生きだし、きっと美味しいご飯を知ってるに違いない!」
屋敷の門を開き重い扉を押し開けると、中は薄暗く、物音一つ聞こえなかった。背筋を伸ばし、自分を勇気づけて歩を進めると、柔らかな明かりの中、黒髪赤眼の美しい青年が立っていた。彼の名はルシアン・ノスフェラトゥ。彼は、一人静かに暮らしていた。
「なんの用かな……?」
「あなたが噂のヴァンパイア?」
無邪気な笑顔でティアナは尋ねた。ルシアンは一瞬驚き、続いて溜息をつく。
「いや、違う。私はただの人間だ。」
「えー、そうなの?じゃあなんでヴァンパイアって言われてるの?」
ルシアンは内心、まったくもって迷惑だと思いつつ、彼女の明るさに少しだけ心を和ませる。
「私は魔術の研究をしているんだ。昼間は魔力の消費を抑えるために寝ていて、そのため夜に活動している。だから街の人達に会う事が少ないから勝手な事を言われてるだけだ」
「ふーん、じゃあ、ご飯とかどうしてるの?」
「必要ない。」
驚いたティアナは、目を大きく見開いた。「え、どういう意味?」
「私は食事を取ることで成長する必要がないんだ。魔力と引き換えに生きているから。」
「え?ルーくん、何それ面白い!ヴァンパイアみたい」
ルシアンは、彼女のその反応に微笑みを浮かべる。
「ふっ……君は食事が好きか?どうして私のところに?」
「ご飯大好き!ルーくんがヴァンパイアなら変わったご飯とか知ってるかなーと思ったから来てみたんだけど……作ったりは?」
「私が料理をすることはない、そもそも食べたいと思わないから。」
「えー……ルー君なら美味しいご飯作りそうなのにー」
ルシアンは眉を寄せた。「私にはその腕前はないよ。今まで研究と魔法の勉強しかしてこなかったから。」
ティアナの明るい目がルシアンの心に何かを芽生えさせた。何か新しいことを達成するのも悪くない。しかし、彼には街の喧騒の中で生活する気持ちが理解できなかった。