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咲良のスキャンダル

フローライト第五十七話

全国のライブツアーに成功した奏空のグループ○○は、テレビのレギュラーなど人気はまだどんどん上昇していた。そして八月になり、例年にないほどの猛暑日がつづいたある日、やはり怖れていたことが起きた。


<アイドルグループ○○の天城奏空、かつての父の愛人とツーショット>


それは夜中に奏空と一緒にコンビニに行った時のものだった。


(誰が撮ったんだろう・・・)


まったく気づかなかった。いつも警戒はしていたのに・・・。


でもどうしようと思う。これを奏空の母の明希が見たら・・・。


(覚悟を決める時か・・・)と咲良は思った。自分は田舎に戻ればいい。ただそれだけのことだ。利成と明希の夫婦関係に何かしらの亀裂がまた入るのかもしれないけれど、それこそ自分の知ったことじゃないと咲良は思う。


 


その日の夜の明希の様子は特に変わったこともなかった。多分あの記事をまだ知らないのだろう。


食事を終えると先に帰宅したのが利成だった。キッチンで後片付けをしていたら利成が入って来て、耳元で「終わったら仕事部屋にきて」と言われた。


片付けを終えてから利成の仕事部屋をノックした。


「どうぞ」と声が聞こえてから咲良はドアを開けた。


「入って、そこに座って」と利成が部屋の隅の小さなソファに視線を送る。咲良がそこに座ると利成も机の前の椅子に座った。


「何で呼んだかわかる?」と聞かれて咲良は頷いた。


「そうか・・・」と利成が考えるような顔つきになる。


「何て言ったらいい?明希さんはまだ知らないみたいだよ」


「そうだね」


「明希さんは前の時はどうだったの?前の時の記事は嘘だって言ったの?」


「否定も肯定もしなかったよ。でもどちらかというと肯定に取られたかもしれないね」


「そうなんだ。じゃあ、否定しとくよ」


「・・・奏空が何て言うかだね」


「奏空も否定してって言うよ。後、奏空とのことも否定するし・・・」


「どうする気?」


「田舎に帰る」


「そうか・・・それは奏空が承知しないと思うよ」


「そんなの関係ないよ。奏空は・・・これからなんだから」


咲良はうつむいた。自分なんかのせいで奏空の行く先を壊したくない。


「咲良もこれからだよ」と利成が言う。


咲良が顔を上げると優しい表情の利成がいた。


(あーやめてよ・・・そういう顔は反則でしょ)と思う。


暫しの間沈黙が続いた後、階下から奏空の声が響いてきた。


「帰ったみたいだね」と利成が言う。


「呼んでくる?」


「いいよ、きっと咲良が部屋にいなかったらここに来るよ」


利成の言う通り、奏空が利成の部屋のドアをノックすると同時に開いた。


「また何?」と奏空が咲良の方を見ながら中に入って来た。


「奏空、ドアちゃんと閉めて」と利成が言うと、奏空が振り返ってドアを閉めた。そして咲良の隣にドカッと座った。


「何か深刻そうだね」と奏空が二人を見比べる。


「あの記事知らないの?」と咲良はのんきそうな奏空を見た。


「記事?」


「週刊誌!見てないの?」


「あーあれ?言われたよ。それで遅くなったんだもん」


「もう!のんきすぎ!」と奏空の膝を思いっきり叩いた。


「痛いって咲良」と奏空が膝をさすると、利成が「プッ」と吹き出した。


「利成も!」と咲良が利成を睨むと「ん、ごめん」と利成が椅子に座り直した。


するとドアがノックされて全員が一瞬沈黙した。「はい?」と利成が立ち上がってドアを開けた。


「奏空いる?」と明希が中を覗き込んで咲良と目が合い少し驚いた顔をした。


「みんなでどうしたの?」


「何でもないよ。何?」と奏空が返事をした。


「ご飯、どうするの?」


「あ、食べるよ」と奏空が立ち上がった。それから「咲良も」と振り返る。


「私は食べたよ」


「でも俺につきあって」と腕をつかまれた。一瞬利成と目が合う。


「良かったら咲良さんも一緒にお茶しましょ」と明希が言った。


 


三人でダイニングテーブルを囲みで咲良は明希が入れてくれたお茶を飲んだ。奏空は明希の作った料理を食べている。


「何か咲良さんも家族みたいな感じがしてきたよ」と明希が笑顔で言った。咲良は「ありがとう・・・」と答えながら心が少し痛んだ。


(純粋なのは奏空もだけど、明希さんの純粋はちょっと違うからな・・・)と思う。


シャワーを浴びてから部屋に戻ろうとすると、奏空の部屋のドアが開いて「咲良、こっち」と呼ばれた。


奏空の部屋のベッドの上に座ると「さっきの話し、田舎に帰るって本当?」と聞かれた。


「本当だよ。利成に聞いたの?」


「そう。絶対帰さないからね」


「だってもうこうなったら仕方がないでしょ?帰るしかない」


「何で?」


「奏空にこういう彼女がいるなんてバレたら今後のことに響くでしょ?」


「もうバレたよ。今日事務所との話し合いの時に言ったし」


「は?何で?そんなこと言ったの?」


「言ったよ。咲良が彼女だって。それに一緒に暮らしてるって」


「もう何でそんなこと言うのよ」


「隠すつもりはなかったから。咲良とは結婚するつもりだって言ったよ」


「えー、もう奏空?芸能界甘く見てない?いくら二世でもね・・・」


「甘いも苦いもないよ。そのままで俺は行く。アイドルがダメならまた別の表現方法に変えればいいだけだよ」


「別なって・・・あなた一人じゃないでしょ?他のメンバーはどうなるのよ?」


「それはまた話しあうよ」


「・・・・・・」


「咲良はね、最初から作られている枠の中からはみ出すと、生きていけなくなるって不安なんだね」


「不安だよ、そりゃあ。奏空は今一番大事な時期でこんな私とのことでつぶしたくない」


「”こんな私”って?誰のこと?」


「私は私のことだよ」


「そう・・・咲良は俺と一緒にいるのが嫌なの?」


「嫌じゃないよ。一緒にいたいよ。でもそれとこれはわけて考えないと」


「んー・・・せっかく少し良くなったのに・・・」と急にため息をつかれた。


「何のこと?」


「じゃあこうしよう」と奏空が大きな声を出してから続ける。


「咲良、まず俺がアイドルなことを一旦忘れて。普通のただの男だと思ってみてよ」


「何で?」


「いいからそうして。頭の中のもの一回捨てて」


「・・・・・・」


「捨てれた?そうしたら俺のこと見て」


咲良は奏空を見つめた。奏空も咲良を見つめてくる。


「どんなふうに見える?」


「どんな風って・・・奏空は奏空だよ」


「そうだよ。ただの俺。誰でもない」


「・・・・・・」


「わかる?」


「わかんない」


「・・・んー・・・困った」と奏空がベッドに寝転んだ。


「私も困ったよ。奏空がわからないみたいだから」


「あーこういう時、利成さんなら上手くいうんだろうな」


「利成?利成だって上手くなんか言わないよ」


そう言ったら奏空が寝ころんだままじっと見つめてきた。


「咲良がやっと俺のこと見てくれるようになったのに・・・」と手を伸ばしてくる。


その手を握って「奏空のことは大好きだよ」と言った。するとそのまま奏空に引き寄せられて咲良は奏空の上に倒れこんだ。


「奏空、せっかくここまで来たんだから、もっと有名になってお金持ちになりなよ」


咲良は奏空の髪を撫で上げた。


「ままごとのような世界で有名になってもどうしようもないよ」と奏空が咲良の頬を撫でて来る。


「えーままごとって何よ?みんな一生懸命やってるのに。それに私みたく一生懸命やっても全然売れなくて田舎に帰っちゃう人だっていっぱいいるのに」


「咲良は帰らせない」


「・・・・・・」


奏空が身体を起こし、今度は咲良が奏空の下になる。


「大丈夫、俺が何とかするから。咲良は心配しないで今まで通りにしていて」


「・・・明希さんは?バレたらどっちみちここにはいられない」


「そうだね、明希にも俺から言うよ」


そう言ってから口づけてくる奏空・・・。


ああ、奏空、私だって帰りたくないよ・・・・・・。

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