表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

冒険

「ライトさん見てください!」


お嬢様は訓練室に次々とキャンプ用品を出した。

「これで冒険に行けますわ!」


お嬢様はテントで寝泊まりしながら旅でもするつもりでいるようだ。


「熊とかゴリラが来たら死ぬかもよ。」

俺は真顔で言った。


「そんなっ!」

お嬢様はそんなことをまったく考えていないようだった。

「テントじゃ強度不足ですわ。」

(そうじゃないんだけど)


俺は試しに寝袋に入ってみた。

「自信作ですわ!ここにあるベッドの素材を意識しましたの。」

確かに寝心地はすごくいい。

これならテントの中でも爆睡できそうだ。


「お風呂とかどうするつもり?」

俺が聞くとお嬢様はうなだれた。


「すっかり忘れていましたわ…」

お嬢様はがっかりした様子でキャンプ用品を次々と片づけた。

「もう少し考える時間をくださいませ。」

お嬢様は花畑の上に椅子を出した。

背もたれを倒して寝そべって座れる椅子は気持ちよさそうだった。

(そっとしておこう)


俺は暇をみつけるとエイトと通信してゲームをするようになった。

エイトはゲームというものを全く知らなかった。

俺が説明すると昔の情報から探してきて俺のスマホにインストールしてくれた。

オセロや将棋などオンラインで対戦できるものだ。

はじめは余裕で勝てたが、最近強くなってきて負けることも多くなった。

(さすがAIだ)


エリスはその様子を遠巻きに気にしていた。

俺は「エイトと話す?」と聞いたが、エリスはまだ心の準備が…とか言って避けてきた。

エリスなりに複雑な思いがあるのだろう。

俺からはそれ以上エイトについての話はしなかった。


(お嬢様の冒険ってどこへ行くつもりなんだろうか)

行くあてなんかない。

エリスもこの島から出たことはないと言っていた。

島の運営は本部と呼ばれるところでやっているらしい。

島の南東に本部は位置している。

会議などで集まる必要があるとフローロードで行くのだという。

それもほとんどはオンラインで済ませてしまうため年に数回しか外に出ないという。


便利すぎて歩くことも忘れてしまうんじゃないかと俺は思った。

このままだといろいろな器官が退化してしまうのではないだろうか?

俺はそんな心配をしつつ、お嬢様の冒険の準備を見守った。


お嬢様を悩ませているのは泊まる場所がないということだった。

俺だけならネットワークさえ繋がっていれば遠くに行ってすぐに帰ってくることもできるが、お嬢様はそうもいかない。

RPGとかなら各町に宿屋のようなものがあるが、この世界にはまったくない。

店すらない。


この前行った公園のような緑化された空き地を利用しようと思っているようだが、危険がまったくないとは限らない。

人間たちはまだ外には出てこないがゴリラのような生物がウロウロしている可能性は高い。

この前も玄関ホール前で狼を見た。

汚染で変異した動物たちが緑化した中に入ってきているようだった。

お嬢様の魔法で俺たちの知っている姿に戻っているらしい。


「ライトさん!完成しましたわ!」

お嬢様は小さな小屋の前にいた。


「必要なものは用意しましたわ。」

お嬢様はとても満足気に小屋のドアを開けた。


俺は中に入ってみた。

二段ベッドに小さなテーブルと椅子2つ。

「この扉は?」

開けてみるとシャワー室だった。

「ここにあるシステムをそのままコピーしましたの。」

「すごいな。」


これだけのものを出したり片づけたりするだけでかなりの時間を要するんじゃないかと思った。


「持ち運びを心配してらっしゃいますわね!」

お嬢様に出るように言われた。

お嬢様はスマートウォッチをいじり、

「これで出し入れができます!」

と、スマートウォッチを操作した。


小屋は吸い込まれるようにスマートウォッチの中に入っていった。


俺は驚いて声が出なかった。

(お嬢様すごすぎるだろ)


「この収納システムを応用していろいろなものをここに入れましたわ!」

スマートウォッチの操作でクローゼットや自動販売機が出てきた。

(なんでもアリですね)


「これでいつでも冒険に出れますわよ!」


俺はマップとネットワークを駆使して緑化がどこまで進んだのか調べた。

マップに緑化済のところが出ればいいのに、と思ったらマップに木のマークが出るようになった。

チートでマップがアップデートしたようだ。

(さすがチートクオリティ)


それならば、とフローロードの出入口もマップでわかるようにした。

(完璧だ)


お嬢様が出かける気満々なのでエリスたちに説明しに行った。

エリスは「なんのために?」と言ったが、すぐに、

「ここにいてもしかたないか。」と言い直した。


その日の夜は4人で晩御飯を食べた。

食べたと言ってもタブレットを口に入れるだけだったが。

お嬢様はこれからの野望を話した。

「私はこの世界に緑を取り戻したいと思っておりますわ!」

それはとてつもなく時間のかかることだろうと俺は思ったが、目を輝かせながらそう言うので黙っていた。


────


朝になり、支度を済ませた俺たちはエリスたちに挨拶をしてフローロードに向かった。

マップを確認して緑化している最前線へ行ってみることにした。


「いつでも帰ってこいよ。」

エリスはちょっぴり寂しそうにそう言った。

俺たちは「またね」と言ってフローロードに飛び込んだ。


前回より遠いのでその分楽しむことができた。

数分で目的地に着いた。

お嬢様は早すぎるとちょっと不満気だった。


着いた先は大きな空き地だった。

広くて何もない。


そのまわりには建物が囲むように建っていた。

お嬢様は空き地の真ん中に小屋を出した。

「ここを拠点にしてまわりを探索しましょう!」


俺たちは小屋のまわりを歩いてみることにした。


特に何もない。

いつからここの人たちは外に出なくなってしまったのだろうか。

建物の中には人が住んでいるようだった。

しかし玄関らしきものはない。

移動はすべてフローロードなんだろう。


明かり取りの窓のようなところからこちらを覗いている人がいた。

俺が気づいてそっちを見るとすぐに隠れてしまった。

今まで外に人がいることなんてなかったのだろう。

(怖くて当たり前だな)


お嬢様はそんなことを気にもせずにそこかしらに花を咲かせていた。

俺たちが通りすぎると同じ窓からまた誰かが覗いていた。

(怖がらせていたら申し訳ないな)


お嬢様は人が住んでいる建物の邪魔にならないような場所を選んで大きな空気清浄機のようなものを出した。


「こうやって行く先々でこの機械を出せばもっと早く緑化が進むと思うの。」

機械から出てくる空気は確かに美味しい気がした。

(小さなことからコツコツとですな)


「これって電力はどうなってるの?」

「えっと…」

お嬢様はそこまで考えて出していなかったようだ。


「多分必要ないわ!私が壊れないで頑張ってねって言っておいたので…きっと大丈夫だわ。」

お嬢様の魔法はなんとなくで作用しているようだ。


お嬢様は鳥を見かけると木を出した。

その木はブルーベリーやブドウの実をつけた。

(どっちも低木なんだけどな)


デタラメだけど鳥たちは喜んでその実を食べているようだった。

お嬢様はそれを見て嬉しそうに微笑んでいた。


────


小屋のまわりをぐるっと一周した。

今日はこのへんで休むことにした。


お嬢様はシャワー室にパジャマらしいものを持って入った。

パジャマ姿になって出てきたお嬢様は、

「私、上のベッドがいいわ!いいでしょ?」

と、聞いてきた。

俺はどっちでもよかったので頷いた。


「こういうの憧れてましたの!」

まるで修学旅行にでも来ているような感じだった。


俺もシャワーを済ませてベッドに入った。

いつもの素材でできているようでとても気持ちがいい。

俺は久しぶりに歩いて疲れたみたいですぐに眠りについてしまった。


夢をみた。

お嬢様がたくさんの動物たちに囲まれて餌をあげている夢だった。


夢の中でもお嬢様は笑っていた。



────

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ