対決
深夜になった。
俺は地下都市の上をドローンの映像で見ていた。
地上に人はいないようだ。
ドローンを出入口の操作盤に接続させる。
すぐにハッキングに成功した。
「ライト ここです」
そこにはナインがいた。
画面に映っているのではなく、文字通りそこにいた。
いや、俺もこれは実物ではないのでいるという言い方は間違っているかもしれないが。
「こちらです」
ナインは俺の腕を掴み、情報が流れる不思議な空間を進んだ。
目の前に大きな壁が現れた。
「これがタワーのセキュリティです」
(なるほど)
この世界だと本当に壁のような存在なのか。
叩いてみると分厚そうな音がする。
ツルツルの壁で窓もドアもない。
ヒビもなければ傷すらもない。
「これをどうやって攻略するんだい?」
俺は高く上まで伸びている壁に圧倒されていた。
「ドアを探します」
ナインはそう言って笑った。
「もしかしてバックドアとか言うやつかい?」
ナインは頷いた。
プログラミングを組むときに製作者がこっそり中に入るために作るという『バックドア』のことだろう。
俺の知識ではそんな感じなのだが。
このセキュリティを作ったのは確かAIではないのか?
「なんのためにそんなものを作ったと思うんだい?」
俺は不思議に思って聞いてみた。
「完璧だと思っても不測の事態を考えるのが優秀なプログラマーです 中で何かあったときに外からの支援が入れないと困るでしょう」
と、ナインは言った。
AIは中にいるという設定での話か。
それならなんとなくわかる気がする。
俺たちは手分けしてドアを探した。
どこを見てもツルツルの白い壁だった。
目が疲れたと思った瞬間俺は倒れてしまった。
「ライト 大丈夫ですか?」
ナインが心配して近づいてきてくれた。
「大丈夫。平衡感覚がおかしくなっただけだから。」
倒れた目の前に黒い点がある。
「これ、なんだと思う?」
俺はその黒い点を触ってみた。
モザイクがかかったように壁が動いてドアが現れた。
俺はびっくりして起き上がるのを忘れていた。
「みつけたな。」
ナインは笑いながら腕を引っぱり起こしてくれた。
「怪我の功名ですね」
(なんか違うけど)
ナインはそのドアに両手をあてた。
ドアはキラキラと光って消えた。
「では入りましょう」
俺たちは四角く開いたところから中へ入っていった。
中はどこかで見たことがあるような感じがした。
映像や文字が所狭しと流れている。
中にはお嬢様の写真もあった。
ナインに導かれるままついていった。
目の前に見たことのあるトーチのようなものが現れた。
(これだな)
『侵入者を発見』
警告音が流れた。
ナインは「うるさい」と言って指をパチンと鳴らした。
警告音はすぐに鳴り止んだ。
(ナインかっこいいぞ)
『あなたはAIですね もう一人はなんですか?』
「俺は人間です。」
『人間はここには入れません』
「あなたが知らないだけですよ」
ナインはそう言ってニヤリと笑った。
(なんか怖いんですが)
『あなたが救世主の仲間ですか 理解しました』
「笹川さんはお前には渡さない。絶対に。」
『救世主は私と共にこの世界を救う運命にあります 邪魔をしないでください』
「笹川さんはこの世界を救うかもしれないがお前と一緒じゃない。絶対に。」
まわりで流れていた情報が一斉に消えた。
「ライト!来ますよ!」
ナインが叫んだ。
(え?何が??)
その瞬間、足元に何か当たった。
(いや、聞いてませんけど)
AIは何かわからないものをどんどん飛ばしてくる。
白い壁はいつの間にか黒い点だらけになった。
(あたるとまずそうだ)
俺はチート能力を全開にして(絶対に当たらない)という設定にした。
黒い何かは俺に当たる前にシュッといって消える。
「反撃を開始します」
ナインはそう言うと、トーチに向かって何かを出した。
トーチにはバリアがかかっているようだった。
「あれを壊します」
ナインは絶え間なくトーチに何かを撃ち続けている。
俺はそれを解析した。
電気信号の何かだった。
俺は真似をしてそれをトーチに向かって撃ってみた。
バリンッ
バリアが壊れたようだ。
「ライト 強いですね」
ナインはニコッと笑った。
『なぜAIが私を倒そうとするのですか?分析すれば救世主を使い世界の再構築をはかることが最善だとわかるでしょう?』
「そうかもしれませんが、絶対にそうではありません」
「救世主は人間です 人間のためにならない人工知能なんて要らない」
ナインはそう言い終わると特大の何かを作ってトーチにあてた。
『人間の…ため…バカな…』
トーチは崩れ落ちた。
それと同時に壁も崩れだした。
「終わりました 逃げますよ」
ナインはそう言って俺の腕を引っぱった。
俺たちは壁から外に出た。
壁はボロボロと崩れ落ちていった。
ナインは悲しそうな顔をしていた。
AIがAIを倒すのは気持ちのいいことじゃないだろう。
「嫌な仕事を頼んで悪かったね。」
俺はナインに謝った。
ナインは笑いながら「戻りましょう」と言った。
俺はネットワークから抜け出した。
戻るとお嬢様が心配そうにこちらを見ていた。
「ライトさん!おかえりなさい!!」
「ただいま。タワーを倒してきたよ。これできっと笹川さんを狙う人はいなくなる。」
俺がそう言うとお嬢様は抱きついてきた。
「息をしていなくて、死んだかと思いましたわ!!!」
(呼吸が止まっているなんて俺も聞いてないけど)
泣きながら俺の背中を叩くお嬢様はいいにおいがした。
────
その日俺はすぐに眠ってしまった。
笹川さんも眠そうにしていたのですぐに寝ただろう。
(これで島に帰れるかな…)
ドーンという大きな音で目が覚めた。
眠い目をこすって起きた。
お嬢様も「何事ですか?」と言って起きてきた。
ドーン
ドカーン
外から大きな音がする。
急いで外に出ると本部の人たちも外に出ていた。
「襲撃だ!迎撃態勢に入れ!!」
隊長が叫んでいる。
(襲撃って誰が??)
俺は本部の外側が見える位置に移動した。
塀の向こうはロボットだらけだった。
その後ろには戦闘車両がたくさん並んでいる。
こちらに向けてロケット砲を撃ってくる。
お嬢様のバリアは完璧でこちらは塵一つ落ちてこない。
道路ではこちらに入ろうと試みる車両の姿もあった。
見えない壁に阻まれていてこちら側には来れていない。
(なんだって言うんだ?)
ロボットからして地下都市から来たのだろう。
タワーを破壊されて逆上しているのか。
「黒田!お前を許さん!!出てこい!」
老人と思われる声が響いた。
俺はとりあえずロボットを無効化した。
後ろに控えているロケット砲を積んだ車両も無効化した。
戦闘員たちは動かなくなった車両にパニックを起こしている。
中には走って逃げる者もいた。
戦闘員たちが持っているすべての武器も無効化した。
(チート能力者を怒らせると怖いぞ)
俺は老人の声がする方へ進んだ。
「呼んだか?」
「黒田め!よくも守り神様を破壊したな!!許さん!!」
「笹川さんに危害を加えるものは俺が許さない。」
老人の姿は見えない。
どこかの車両の中にいるのだろう。
「文句があるなら出てきて堂々と話せよ。」
俺は無効化されて動かなくなった戦車のようなものに登った。
「いるんだろ?じぃさん!」
静まり返った中で俺の声は響きわたった。
ガチャっと音がして隣の車両から老人が出てきた。
銃を向けてカチャカチャとやっている。
「無効化したよ。」
俺は老人を見下ろしてそう言った。
老人はその銃で殴りかかってきた。
俺は老人から銃を奪った。
戦闘員たちは走って逃げていく。
「仲間は逃げる選択をしたようだよ。」
老人は、「お前たち!戦え!憎き黒田をやっつけるんじゃ!!」と叫んでいたが聞き入れる者はいないようだった。
本部から一人の初老の男が出てきた。
「ドミニク殿…お久しぶりです。」
老人は顔を上げてその男を見た。
「お前は…ハスラーか?」
「少しお話をしませんか?」
ハスラーと呼ばれた男は老人を本部の中へ連れて行こうとした。
老人は見えないバリアで先に進めなかった。
「なんじゃこれは?!」
「悪意がある者はここから先に進めません。」
俺がそう言うとハスラーは「ではここで。」
と言って話を始めた。
「ドミニク殿、あなたがしているのは反逆行為です。黒田くんともう一人の女の子はこの大陸を助けにきてくれた人たちです。その二人に危害を加えようとするのは反逆以外の何物でもありません。」
老人は震えていた。
「あの女の子はあなたが望むものを用意してくれたでしょう?それなのにまだ必要なのですか?なぜ必要以上に求めるのですか?」
「わしは…守り神様を…」
「そんなもの、とっくにいないとわかっていたでしょう?その守り神があなたたちに何をしてくれたと言うのですか?」
「わしらを守っていてくださった!守り神様は…」
「何から守ったと言うのです?私たちからですか?私たちからあなた方に何かをしたことがありましたか?それとも大気汚染から守ってくれましたか?飢えから守ってくれたのですか?」
老人は言葉も出せずに震えていた。
「AIは確かに私たちの生活をより良きものにしてくれる。しかし支配されてはいけない。守り神なんていないんですよ。」
老人は地面に膝を落とした。
泣きながら「なんのために人生を捧げてきたのか。」と言った。
「これからやり直せばいいだけですわ!」
いつの間にかお嬢様が後ろにいた。
「私、どうしてもおにぎりが食べたいのですよ。あなたの街の上に作った施設に行かなくてはいけないのですわ。」
お嬢様は老人の目の前にしゃがみこんだ。
「大事なものを奪われた気持ちはわかりますわ。私もあなた方に大事なものを壊されましたもの。」
老人はお嬢様の顔を見た。
「でも作り直しましたわ!あなたの街の上に!新しい施設も作りましたの。ワクワクしませんか?新しいことを始めるのって!
食べるって本当に素晴らしいことなんですよ!幸せを感じることができる素晴らしいことですわ!」
お嬢様は老人を立たせて続けた。
「一緒にこの大陸を復活させましょう!地下都市もロックの本部もみんな一緒に!だってみんな同じ人間ですわ!分ける必要なんてありませんでしょ!」
「わしを許すというのか?何度も裏切っておるのに。」
お嬢様はニッコリと笑って続けた。
「ここは悪意があるとくぐれない見えない門がありますの。今なら通れると思いますわよ。」
お嬢様は老人を引っ張っていった。
老人は止まることなく本部の敷地内に入った。
老人も驚いている。
ハスラーは「おかえりなさい。」と言って老人と握手をした。
老人はまた泣きだした。
「やり直せるかの…またみんなで…」
「大丈夫ですわ!私がいますもの!」
お嬢様はドヤ顔で笑いだした。
「救世主様!」
老人は神でも崇めるような目でお嬢様を見た。
(信仰先が変わっただけなんじゃ…)
────
俺は地下都市から来たすべての車両を動けるようにした。
ロボットたちも(人間に危害を加えない仕様)にして地下都市に戻した。
本部はまた静かになった。
「もう少し寝たいんだけど。」
「私もですわ。」
空はうっすら明るくなった。
朝が来たようだ。
「仮眠をとってから鮭を捕獲しに行きましょう!」
お嬢様はそう言って小屋に入っていった。
(次は海苔が欲しいって言いそうだな)
俺もベッドに向かった。
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