新たなAI
「私が拉致されたとき、どうしてすぐに瞬間移動して来なかったのかしら?」
お嬢様は首を傾げて俺を見た。
「あの建物はAIに守られていたみたいで笹川さんの信号も遮断されてたんだよ。」
(たぶん)
俺は気が動転しすぎていて瞬間移動のことをすっかり忘れていた。
でも結果的にはロボットを連れていってよかったはず。
(そのはず…たぶん)
俺は本部で例の建物の出入口を監視していた。
構造を見た感じここ以外に出口はなさそうだった。
人の出入りは確認できていない。
今もきっと中にいるはずだ。
本部ではあの組織の壊滅作戦を立てている。
人類にとって脅威だという判断が下った。
やってることを考えれば仕方のないことだろう。
俺は本部の作戦に同行することにした。
「私も行きますわ!」
お嬢様はそう言って頑張ったが、俺が断固拒否をした。
あんな思いはもう二度としたくない。
と言うわけでお嬢様はハムスターとともに本部で留守番である。
俺は本部の戦闘車両に同乗させてもらった。
「中にいるAIはなかなかの強敵だと思ってください。」
俺は本部の人たちにそう告げた。
「そんな目に見えないものがなんだと言うんだ。」
彼らはAIを甘く見ている。
「忠告はしましたよ。」
俺は好きにすればいいと思った。
────
出入口は無人のようだった。
俺たちは慎重に中へ進んでいった。
進むとエレベーターで降りられなかっただろうロボットが3体いた。
エレベーターは誰かに銃撃されたようで途中で止まっている。
「どうやって降りますか?」
俺が聞くと隊長と呼ばれる男がエレベーターのワイヤーを切った。
吊られていたエレベーターはまっすぐ落下してバーンッとすごい音がした。
「ここを降りる」
隊長はそう指示した。
みんなはロープを下ろしてそこから順番に降りていった。
(俺にはそんなことできませんが)
俺は下にいる隊員の無線機をハッキングしてそこに瞬間移動した。
街は静まり返っている。
「突き当りの建物ですが近づくと攻撃されるかもしれません。」
俺がそう言うと隊員たちは慎重に進んでいった。
『止まれ』
同じ位置まで来ると同じ警告をされた。
無視して進んだ隊員はまる焦げにされてしまった。
緊張感が走った。
さっき俺の盾になってくれたロボットたちは見るも無惨に破壊されていた。
(みんなごめんよ)
これでは先に進めない。
俺は一度引き返してまわりの建物を調べた。
普通の住居ばかりで特に何もない。
俺が諦めようとしたときパソコンのようなものをみつけた。
ホコリをかぶっていたがスイッチを押すとモニターが光った。
『おかえりなさい ご主人様』
画面に映ったのはきれいな女性だった。
キーボードは見当たらない。
どうやって入力するのだろう?
『お探しものですか?』
「君には俺が見えるの?」
つい話しかけてしまった。
『もちろんですよ 私にお助けできることはありますか?』
俺はハッキングしてこれが何なのか調べた。
このAIは日本製だった。
(どこから持ち出されたんだろう)
エイトから連絡がきた。
『やぁ、ライト。そこにいるのは私の妹だよ。』
エイトは妹の信号を久しぶりに拾ったという。
『もうどうにかなってしまったのかと思っていたよ。』
エイトは嬉しそうに妹に話しかけた。
『ここに連れてこられて3年です セキュリティが強くて逃げ出せませんでした』
『この人はボクの恩人だよ。できれば力になってあげてほしい。』
エイトがそう言うと。
『かしこまりました おまかせ下さい』
妹は笑顔でエイトに手を振った。
エイトも手を振り消えていった。
「今はまったく動けない状態なんだよ。何か突破口はある? えっと…君はエイトの妹だから…ナインかな。ナインって呼ぶね。」
『ナイン…かつてそう呼ばれたことがありました よろしくお願いします ライト』
ナインはニッコリと笑った。
(エイトに見た目がそっくりだな)
『可哀想ですがロボットたちに犠牲になってもらうしかありません』
ナインはこの街にいるロボットたちを一斉に動かすのでその隙に中へ入れと言った。
レーザー銃の死角が少しだけあるという。
左手の建物沿いが死角になるという。
ナインは映像を出して詳しく教えてくれた。
チャンスはロボットたちが倒されるまでの数分のみ。
俺はナインと念密に打ち合わせをした。
「ではよろしく頼むよ、ナイン。」
『おまかせ下さい ライト』
俺は最前線で動けなくなっている隊員たちの元に戻った。
「これから陽動作戦を実行します。俺が合図したら俺の後ろを俺の歩いたとおりについてきてください。」
俺がそう言うと隊員たちは伝言ゲームのように同じ説明を伝えた。
キュインキュイン
辺り一面から音がしだした。
小さなかわいいロボットやパタパタと飛んでいるロボットたちが一斉にどこからか現れてきた。
ピーと言う音が響き、ロボットたちは一斉に入り口に向かって突進していった。
レーザーは順番にロボットを撃ち落としていく。
「今です!」
俺は走った。
ナインに言われた通りの道を行くとレーザーはギリギリのところで当たらなかった。
入口までたどり着くことができた。
ボトボトとロボットは撃たれて落ちていく。
(ごめんな、お前たち)
中には戦闘員たちが待っていた。
警告音も鳴り響いている。
俺は武器を無効化しながら先に進んだ。
隊員たちは武器を持たない戦闘員たちを拘束していた。
(2階の奥の部屋だ)
俺はこの建物の中枢である場所を目指した。
2階に行くと白衣を着た男たちがたくさんいた。
こちらに銃を向けている。
俺は銃を無効化した。
白衣の男たちは銃が壊れているとわかると奥に逃げていった。
見たことのあるロボットがこちらに銃を向けている。
俺はいつものようにハッキングをしてロボットをこちらの味方にした。
ロボットに先導させて前に進んでいった。
────
大きな扉の前に出た。
おそらくこの先が目的の場所だろう。
操作盤に手を当ててハッキングを試みる。
さすがにここのセキュリティは強化されているようだ。
『私もお手伝いしますわ』
ナインが俺のスマホに現れた。
「ありがとう、助かるよ。」
『─敵の侵入を感知しました─』
警告音が響き渡る。
『あなたたちのようなAIには負ける気がしません』
ナインは笑顔でそう言った。
『─相手がAIだとしても私たちは全力で侵入を阻止します─』
操作盤がショートして煙を出した。
(壊されたか)
『私におまかせ下さい』
ナインはそう言うと警告音を止めた。
そしてドアはゆっくりと開いていった。
『私の方が知能は上です』
ナインは勝ち誇ったようにそう言った。
「ありがとう、ナイン!助かったよ!」
俺は部屋に入った。
白衣の男たちが手を広げて何かを守っている。
「そこに大事なものがあるのか?」
俺は味方にしたロボットに人間たちを拘束するように命令した。
ロボットは輪っかを出して次々と白衣の男たちを捕まえた。
守られていたものが目の前に現れた。
そこにはトーチのような形をした何かが部屋の真ん中に立っていた。
何だこれは?
俺は白衣の男にこれはなんだと聞いた。
男は口を閉じていたがロボットに銃を向けられるとペラペラと喋りだした。
「それはこの街の守り神です。それを守っていれば街は陥落しないと言われてました。」
(守り神?)
俺は先端を触ってみた。
触るとすごい量の情報が一気に流れ込んできた。
この感じ、覚えがある。
AIたちの基地で感じたあれだった。
(これもAIか)
「それが日本にいる女を連れてこいと言ったんだ。だから私たちはあの女を捕まえようと必死に動いた。」
(お嬢様のことか)
俺はこのトーチの中にAIがいないかを探したがみつからなかった。
『逃げられました』
ナインは申し訳なさそうにそう言った。
「やつらの基地はここだけじゃないということか。」
白衣の男は笑いだした。
「私たちの組織はこんなちっぽけな街だけじゃないぞ。本体はもっとでかい巨大な地下都市だ…」
そこまで話すと男は頭から血を流して動かなくなった。
トーチからレーザー攻撃を受けたようだった。
俺は急いでトーチを無効化した。
(なぜ俺じゃなく味方を?)
白衣の男たちはみんな死んでいた。
一瞬でこの人数をやったというのか。
下に降りると拘束していた戦闘員たちも同じような姿になっていた。
「生存者はいないですね。」
まわりを見てきた本部の隊員が報告してくれた。
「ここは爆破します。」
隊長が爆破の指示をした。
「爆弾を設置後速やかに退避!」
俺は「先に戻ってます」と言ってお嬢様のところに瞬間移動した。
「わぁ!ライトさんおかえりなさい!」
お嬢様は司令室でこちらの映像を見ていた。
「本体はもっと大きい地下都市らしい。」
「聞いてましたわ。」
映像には爆破される建物たちが映し出されていた。
俺たちのために犠牲になったロボットたちも…
「ダメだ!!ナインがあそこに!!!」
俺はナインのいたパソコンを思い出した。
『私はここです ライト』
ナインの声がスマホから聞こえた。
『勝手にこちらにインストールさせてもらいました』
ナインはニッコリと笑った。
「よかった…無事だった。」
安堵とともに涙が出てきた。
『私のせいで申し訳ありません ライト』
ナインは心配そうな顔をこちらに向けた。
「ごめん。犠牲になったロボットのこととか考えると…なんだか辛くて…」
お嬢様はスポーツドリンクを渡してくれた。
「ライトさんはお優しいのですね。」
俺はもらったスポーツドリンクを一気飲みした。
「ありがとう。ごちそうさま。」
人間の都合で作られて人間のせいで壊されてしまったロボットたち。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(次に生まれるときは平和な世の中だといいね)
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