表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

拉致

突然のことだった。


俺はいつものように牧場の仕事をしていた。

急に人たちの叫び声が聞こえてきたのである。


俺は叫び声のする方に走った。


そこには見たことのあるロボットがたくさんいた。

(襲撃してきたやつらだ)


俺はすぐにロボットたちをハッキングして無効化した。

しかしその数は減るどころか増えていく。

「どうなってる?!」

俺は必死に無効化していった。


お嬢様が一生懸命再建した牧場は見るも無惨な姿になっていた。

(お嬢様はどこだ?!)

俺は手当り次第ロボットを無効化しながらお嬢様を探した。


「笹川さん!どこ?!」


返事はない。

手伝いに来てくれた人たちがパニック状態になっている。

「逃げて!」

どこに逃げていいのかわからなかったがそう言うので精一杯だった。


何体のロボットを無効化しただろうか。

人間の姿は見えない。

その時お嬢様の声が聞こえた。


「離して!」

お嬢様はあの日、島で見た戦闘員たちと同じ格好をした人たちに連れていかれようとしている。

「笹川さん!」


俺が叫んだときにはジープのような車が走り去っていった。

俺は向かってくるロボットを相手に動くことができなかった。


────


ロボットは全部で50体くらいだろうか。

ジョンが本部に連絡してくれたようですぐにたくさんの戦闘車両がやってきた。

ロケット弾のようなミサイルでロボットを撃退してくれた。


手伝いに来てくれてた人たちはみんな軽症で、逃げるときに転んだ傷や捻挫程度の怪我だった。

(大事に至らなくてよかった)


本部の人にお嬢様が連れて行かれたと伝えると、

「あいつらのやりそうなことだ。」

と言った。

俺はすぐにでも助けに行くから場所を教えろと詰め寄った。


本部の人はマップを見せてくれた。

ここから北東に20kmくらい行くと大きな岩がゴロゴロと転がっているところがある。

そこの地下にそいつらのアジトがあると言う。

俺はハッキングできないか試してみたができなかった。

独自のネットワークを構築しているのだろう。


「俺、行ってきます。」

「一人で行くというのか?こちらは準備に少し時間がかかるぞ!」

本部でヒーロー救出作戦を立てるという。

「一人の方が楽です。」

そう言うと本部の人は何も言えなくなって、

「車両は必要か?」

と聞いてくれた。

「必要ありません。ここで手伝いをしてくれてた人のケアをお願いします。」

と、俺は言って、損傷のないロボットをみつけて手をあてた。


(お前に働いてもらうよ)

俺は次々とロボットを復活させた。

本部の人たちは戦闘態勢を取ったが、

「今はこちらの味方です。」

と言うと銃を向けながらも見守ってくれた。

俺はロボットに肩車される形で乗っかり、ロボットたちに命令をした。


「お前たちの巣に案内しろ」


ロボットたちはガシャンガシャンと音を立てて走り出した。

その数20体ほど。

土煙をあげながらガシャンガシャンと進んでいく。


お嬢様を拉致した理由は明白だ。

何らかの力を使わせようとしているだろう。

きっと何かをさせるために、お嬢様を傷つけるようなことはしないだろう。

命の危険はないだろうがどんな扱いをされているかはわからない。


(急いでくれ…)

俺はロボットの頭を叩いた。


────

30分ちょっとかかっただろうか。

大きな岩が見えてきた。

俺は一度ロボットたちを止めて相手の動きを観察した。

外に銃を持ち防護服を着て警備をしている人が二人いた。

そのまわりを同じ形のロボットが数体歩いている。


俺は乗っているロボットから警備をしているロボットにアクセスしてみた。

(繋がった!)


俺は近くにいた全てのロボットを掌握した。


こちらの動きを悟られないように警備のロボットには同じ動きをさせておいた。


俺は一気に警備をしている人たちのところへロボットを走らせた。

二人は驚き、攻撃するかどうかを躊躇しているようだった。

ロボットはすかさず警備の人たちから武器を奪った。

そしてロープのような輪っかを出して二人を拘束した。

(そんなこともできるのか)


俺は地下への入口をみつけた。

それは大きな洞窟の入口のようだった。


薄暗い照明が通路を照らしている。

進むと大きな扉があった。

横に操作盤がある。

俺はすぐにそれを触りハッキングをした。


(監視カメラもあるのか)

俺は近くのカメラを全て無効化した。

目の前の大きな扉を開ける。


扉の向こうにはまた扉があった。

中に入ると『汚染を除去します』と聞こえ、何か薬剤のようなものが出てきた。

俺は目と鼻を覆った。


『完了しました』と聞こえ、向かい側の扉が開いた。

そこにはむき出しのエレベーターのようなものがあった。

ここのシステムに潜入して内部の構造を調べた。


ここから地下に10mくらい進むと大きな空間がある。

建物が何軒も建っていて、街のように見える。

(ここで暮らしているのか)


監視カメラの映像でお嬢様を探した。

どうやら一番奥の大きな建物の中に牢屋のようなものがあり、そこに監禁されているようだ。

腕を縛られ目隠しをされて倒れているが目立った外傷は見られない。


俺は連れてきたロボットも全てここに集結し、人間たちを無力化するように命令を出した。

ガシャンガシャンと扉を抜けてやってくる。


俺はロボット数体と一緒にエレベーターに乗った。

下から騒がしい声が聞こえた。

(さすがにバレてるか)


ロボットに戦闘態勢を取らせる。

人影が見えるとロボットたちは輪っかを出して次々と人間たちを拘束していった。

エレベーターは俺たちを降ろすとすぐに上に上がっていった。

(まだまだ来るぞ)


俺はゆっくりと確実に奥に向かっていった。

戦闘員の格好をした人たちが出てきたが俺はそいつらが持っていた武器を無効化した。

(チートの力 なめんなよ)


地下の街はパニック状態になっていた。

味方だったロボットに拘束されて人間たちはわけがわからないという表情をしていた。


『止まれ』

大きな建物の前で声が聞こえた。

人間たちの声ではない。

『この先に進むことは許可できません』

機械的な声が響く。


俺はハッキングしようとしたが弾かれた。

(これは…)

エイトの言葉を思い出した。

「お前はAIか。」

俺はどこにいるかもわからないそれに話しかけた。


『私はここを守るもの いかなる敵もここを通さない』


俺が少し動くと何かのビームみたいな光線が足元に当たった。

(これはまずいぞ)


ロボットたちには動くなと命じた。

どうやら動くものに反応して攻撃をしてくるタイプだ。

俺をみつけて遠くから戦闘員の格好をした人たちが近づいて来た。

そいつらは光線を受けてまる焦げになった。


(あまり頭の良い奴とは言えないな)


俺は身動きせずにハッキングを試み続けた。

(小さなほころびでいい 何かないか)


俺は正面突破を諦めて建物の構造から見直した。

2階の奥に司令室のようなものがある。

そこを攻撃できればチャンスはある。


目視で建物に入れる場所がないか調べた。

空いている窓がある。

そこに動く灰色の物体があった。

(なんだ?!)

よく見るとそこには見覚えのあるハムスターがいた。

お嬢様のペットのハムスターだった。

(逃げてきたのか?)


「コードをみつけてかじれ!」

俺は叫んだ。

ハムスターはピクッとして消えていった。


俺は咄嗟に叫んでしまったが、とんでもないことを言ってしまったと気がついた。

コードをかじれば感電してしまうかもしれない。


「だめだ!何もするな!!」

俺の声は虚しく響くだけだった。


「おい!守ってるAI!お前はなんのためにその建物を守っているんだ?!」


『理由など必要ない 命令は絶対』

「じゃあ死ねって言われたら死ぬのかよ!!」


AIは少し考えているようだった。

『それが最善だと判断したら 死ぬだろう』


「お前は今、仲間である人間を殺しているぞ!それが最善だというのか?!」

こうしている間にもやってくる戦闘員たちをAIは攻撃している。


『私にはどれが味方かどれが敵なのか判断がつかない 近づくものは全て排除する』


きっと暴走状態になっている。

内部の様子は見えないがきっと混乱しているのだろう。

ロボットたちでうまく攻撃を受けながら進めば建物の入口まで行けるかもしれない。

しかしここまで一緒に戦ってくれたロボットたちに少し愛着を感じていた。


背に腹は替えられぬ


俺は光線の軌道を確認して盾になるようにロボットたちを一斉に動かした。

光線は1本しか撃てないようだ。


俺は撃たれるロボットに隠れて前に進んでいった。

(ごめんよ…ロボットたち…)


入口に着くことができた。

あの光線は今いる場所を撃てないようだ。

入口についている操作盤をハッキングしてみる。

入口はゆっくりと開いた。

中には研究者のような白衣を着た人たちがたくさんいた。

彼らは俺を見ると走ってどこかに逃げていってしまった。

(あいつらがAIを操作していたのか?)


俺はまっすぐお嬢様のところへ向かった。


『止まりなさい すぐに建物から出ていきなさい』

AIは警告音を鳴らしている。

幸いなことに建物の中には攻撃する銃などは装備されていなかった。


「ハムスター!どこにいる?コードをかじるのは中止だ!!」

俺は叫びながら前に進んだ。

ピョコっとハムスターが顔を出した。

「よかった!生きてた!」


「ボクにだってコードをかじったら危ないってことくらいわかるよ!」

ハムスターは怒っていた。

「でもコードを引っこ抜くことはできたよ。」

ハムスターは俺の肩に登ってきてそう言った。


照明が消えた。

「お前すごいな!」

どうやら停電したようだ。

これでAIの暴走は防げるだろう。

警告音が止まった。

「急ごう!」

「このはがいるのはこっちだよ!」

ハムスターは道案内してくれた。


────


お嬢様が部屋の中で倒れている。

「何か薬を飲まされたみたいなんだ。」

ハムスターは悲しげにそう言った。

ドアを開けようとしても電源が落ちていてびくともしない。

俺はドアを叩いた。

「笹川さん!起きて!!」

お嬢様はびくともしない。

隙間からハムスターが中に入っていった。

「息はしてるよ。」


AIを制圧できたがこんな弊害があるなんて。

「ボクのせいだね。」

ハムスターは悲しい声を出した。

「いや、お前のせいじゃない。」


そこにロボットが現れた。

AIの攻撃を免れたのだろう。

俺はロボットを叩いて、

「よくやった!ありがとう!」と言った。

ロボットはお嬢様がいる部屋のドアに手をかけた。

こじ開けようとしてくれている。


ギギギギ…

ドアは少しずつ開いていった。

通れそうなくらい開いた。

「ありがとう!!」

俺はすぐに中に入った。

お嬢様は倒れたままだ。

目隠しを外し、腕の拘束も解いた。


抱きかかえて上半身を起こした。

「笹川さん!起きて!!」


「いたぞ!あそこだ!」

部屋の向こうから人の声が聞こえた。

(まずいぞ)

ロボットはそいつらに向かっていった。

輪っかを出して拘束していたが人間の数が多すぎる。

ロボットは銃で撃たれていた。

「やめろー!」

俺は盾になって俺たちを守ろうとしているロボットを見て心を痛めた。


「ライト…さん…」

お嬢様がゆっくりと目を開けた。


「笹川さん!大丈夫ですか?!」

ロボットは部屋のドアまで後退した。

ドアを塞ぐ感じで弾丸を受け続けている。


「ライトさん、ここはどこかしら?」

「笹川さん、時間がない。どこかに瞬間移動できそう?」

ポカンとしているお嬢様に俺は詰め寄った。

「瞬間移動ですね、牧場なら…」

「牧場はダメだ!」

「そうでしたわね、本部の近くの廃墟裏に。」

お嬢様は顔を曇らせてそう言った。

「すぐ行って!」

お嬢様は頷いて消えていった。


俺は盾になってくれたロボットを叩いた。

「お前のおかげで助かったよ!ごめんな、そしてありがとう!」

俺はお嬢様の後を追った。


お嬢様は廃墟の裏でしゃがみこんでいた。

俺は急いで近寄ったがお嬢様が泣いていたので声をかけるのをやめた。


「私たちの牧場が…なんて酷いことを…」

連れ去られるときに無惨に破壊された牧場を見たのだろう。

「手伝いに来てくれた人たちはみんな無事だ。動物たちの亡骸もなかった。」

「では逃げたのかしら??」

「そう思う。動物たちを信じよう。」


お嬢様は少し笑顔になった。

「とりあえず本部に行こう。」

俺はフラフラしているお嬢様を支えて歩いた。


俺たちはボロボロだった。

肉体的にも精神的にも。


(あんな命令を出したやつを許さない)


俺は復讐することを心に誓った。



────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ