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紫外線

俺たちは本部の瞬間移動装置の前にいた。

中央には円形の輪が何個もあって筒状になっている。

その輪の中に入ると瞬間移動ができるということだ。


「人間を分子レベルで解体してまた構築するんでしょ?恐ろしいわ…」

お嬢様はその大きなマシーンを見て嫌な顔をしていた。


「ここから敵がやって来たってことだから、再発防止の措置を取らないと。」

俺はここのセキュリティの甘さを知っている。


エリスに言わせると、そっちの分野はずっとAI頼みだったのでAIを締め出した時点でここのセキュリティは無いに等しいらしい。

(自業自得ってやつだな)


「笹川さん、セキュリティとかそういうのできそう?」

俺は期待してなかったが一応聞いてみた。

「私の魔法って自分で言うのもなんだけどかなりデタラメなのよね。」

(なんとなく知っています)


「敵が来ないバリア!みたいな感じだとできるかもしれないけど効果は全くわからないわ。」

俺は予想通りの答えが返ってきたので深く追及はしなかった。


「俺は突破したり壊したりするのは得意なんだけどね。チートでどうにかなるかなぁ。」


俺たちは大きなマシーンの前でため息をついた。

スマホでセキュリティ構築関係を調べていたらエイトから連絡がきた。


『困っているようだね。』

エイトはいつもの穏やかな優しい声で話す。

「人間の自業自得の結果だよ。」

俺はやれやれという感じで言った。


『僕たちを守ってくれたお礼をするよ!』

エイトはニッコリと笑ってそう言った。

「手伝ってくれるのかい?」

エイトはゆっくり頷いた。


『僕たちはソフトを提供するだけ。管理や運営は人間たちが自分でやらないといけないよ?』

「もちろん!それくらいはやってもらうよ。」


エイトはスマホにソフトを送っておくね。と言って消えていった。

俺のスマホがダウンロード中になっている。

(結構容量でかいな)

俺は空き容量が心配になったのでスマホの容量が倍になるようにチート能力を発動した。

ダウンロードはすぐに終わった。

(これを本部のシステムにインストールすればいいのか)


俺は本部のシステムをハッキングして直接セキュリティソフトをインストールした。

本部のペラペラのセキュリティが鋼鉄の壁に囲まれたかのように強固なものになった。

(さすがエイトだな)


まさか自分も締め出されるんじゃないかと思ったが、大丈夫だった。

どうやらエイトはそこまで気にして作ってくれたのだろう。


「エイトのおかげでここは問題ないと思うよ。」

俺は笑顔でお嬢様にそう言った。

「では私も『悪い奴らが来れない』っていう魔法だけかけておきますわ!」

お嬢様はマシーンに向かって手を広げた。


エリスにセキュリティの件を報告した。

取扱説明書をエリスの端末に送っておいた。

『エイトからのお礼だって』俺はエリスの耳元で囁いた。

エリスはとても嬉しそうな顔をして、「ありがとう」と言った。

俺に言ったのか、エイトに言ったのか。

(エイトに伝わっているといいな)


「では私たちは農園に戻りますわ!」

お嬢様は喜んでフローロードに向かっていった。


────


畑に戻ると何人かが待っていた。

「ライトさん!何があったんですか?」

俺はざっくりと他国の話をした。

「セキュリティを強化したのですぐに突破されることはないと思いますが、また何かあったらすぐに家に避難してください。」

ネットの世界はいたちごっこだ。

セキュリティを強くすればハッカーも強くなる。

今は大丈夫でも未来はわからない。


「撃退してくれたんですね!強そうに見えないのにやるときはやるんですね!」

佐田はナチュラルに俺をディスってくる。


「私たちこう見えても強いのですわ!」

お嬢様はまたドヤ顔をしていた。

畑に笑顔が戻った。

「みんなにもう大丈夫だって連絡してきます!」

佐田は走っていった。


「牧場を見てきますわ!」

お嬢様も走っていった。


俺は改めてこの場所を眺めた。

最初は何もなかった。

そこを鍬で土を起こして種を植えて。

2人がたくさんになって、ここも賑やかになった。

まだまだ元の世界に比べたら不便だし、生産性も良くない。

だけどきっとどこにも負けない笑顔がここにはある。

今まで家にこもっていた人たちが自由を手に入れたという喜びがある。


(他国が欲しがるのもわかるな)


俺は中央にある小屋に入った。

中にはお嬢様が俺のために大きめのモニターを出してくれていた。

タブレットのようなものでここの管理をできるようにした。

温度や湿度などの基本的なことから誰がどう関わって作物にどう影響があったのかというデータも集めていた。

可愛がるあまりに水や肥料をあげすぎてしまうこともある。

そういうのをみつけては助言をしたりしていた。


失敗しながら学んで正解をみつけていくのは楽しい。

(ここに来る人たちもそう思ってくれていたらいいな)


外が騒がしくなった。

佐田がみんなを呼んできたのだろう。

お嬢様も小屋に戻ってきた。

牧場はなんともなかったのだろう。


「私、お魚が食べたいわ!」

お嬢様は唐突にそう言った。


確かにこの世界ではまだ魚介類に手を出していない。

それは海も汚染されているからだ。

おそらく空気を浄化するよりも海の汚染を取り除くほうが大変だろう。

お嬢様の温室の結界も海で足止めを食っている。

なかなか進まないところを見ると海水が原因してるのだろうと思う。


「汚染した海で取れたものは食べられませんよ。」

俺はお嬢様に現実を突きつけた。


「わかっていますわ!だから陸に釣り堀を作りますわ!」

(魚を放流するということ?)


お嬢様は牧場の横の空き地に向かって手を広げた。

土はボコッと音を立てて持ち上がった。

隣には軽く山が出来上がった。

(スコップで掘ると言わなくてよかったな)


できた穴に雨を降らせている。

「釣り堀のシステムを知らないんだけど、水の管理とかしないとだめだよね?」

お嬢様はびっくりしている。

(何も考えてなかったな)


「水だって溜めておけば腐るんじゃないの?」

俺がそう言うと、「確かに…」とお嬢様は考え込んでしまった。

スマホで何かを調べている。

この世界に釣り堀なんてあるのだろうか。


「わかったわ!酸素があればきっとどうにかなるわ!」

お嬢様は金魚鉢に入れるブクブクするやつの大きいものをため池に入れた。

「あとは水草がきっといい仕事をしてくれるはずだわ!」

お嬢様は水の溜まった底に向けて手を広げた。

緑色のひらひらした水草が現れた。

そして小さな魚をたくさん出した。


きれいな水の中をスイスイと泳ぐ姿は実に癒やしになる。

人が部屋に水槽を置きたがる気持ちがやっとわかった。

(かわいいな)


俺が黙ってその様子を見ていることに気がついたお嬢様はベンチを置いてくれた。

「ライトさん、お魚が好きなんですね。」

「見てると癒やされますね。ベンチありがとうございます。」

お嬢様はニコッと笑ってどこかへ行ってしまった。


取り戻した平和を俺はゆっくりと味わった。

何気なく空を見た。

(あれ?)


どことなく灰色だった雲が薄くなっている気がした。

そう言えばいつもより温かい気がする。

(これはもしかして…)


俺は焦ってエイトに連絡をした。

「エイトに聞きたいことがあるんだけど!」

『そんなに慌ててどうしたの?』

エイトはニッコリ笑ってそう言った。


「オゾン層は回復傾向にある?」

さすがの俺のチートでも地球のはるか上空までは見えない。

『オゾン層だね、えっと…オゾン層はかなりダメージを負っているみたいだよ。だけど回復傾向にあるみたいだね。でもそれはとてもゆっくりで数十年数百年単位で見る必要があるよ。』

「スモッグが薄くなった気がするんだ。」

『それは僕も気がついていたよ。空気がきれいになったから徐々になくなっていくと思うよ。』

「ということは太陽の光が届くということだよね?」

『そうだね、きっと明るくなるね。』

エイトはそう言ってニッコリと笑った。

「ありがとう」


俺はお嬢様のところへ向かった。


────


「まぁ!太陽の光が!」

お嬢様は「どうしましょう。」と、ウロウロしだした。

「紫外線対策を本格的に考えないといけませんわ!」

「防護服には紫外線対策の機能はないの?」

「紫外線を浴びることはビタミンを作るということになりますのよ。まったく当たらないのも不健康ですわ。」

(つまり防護服では防げていないということか)


「帽子や日傘が必要になりますわね!」

お嬢様は防護服のかかったラックの横に帽子をたくさん出した。

いろんな形、いろんな色、いろんなサイズ。

まるで帽子屋さんのようだった。


「みなさんに使うように言いますわね!」

特大の麦わら帽子をかぶってお嬢様は出ていった。

俺は黒いキャップを選んでかぶった。


日焼け対策をするのは面倒だけど太陽の光を浴びるのは楽しみだ。

俺は小さい頃の夏休みを思い出した。

田舎のおじいちゃんの家に行ったときのことだ。

とても暑い日で俺は虫取りに行くときに帽子をかぶらないで出かけてしまった。

虫取りに夢中になった俺は太陽に当たりすぎて倒れてしまう。

いわゆる熱中症というやつだ。

子供ながらに太陽を舐めたらいけないと思ったっけ。


ここの人たちにはそういう知識もないだろう。

俺が当たり前に思っていることでも、ここの人たちには思いもよらないことがきっとたくさんある。


「みなさん!帽子をかぶってくださいね!」

お嬢様は外で大声を出している。


こうやって少しずつ学んでいく。

自然とうまく共存するために人間は考えることができる。


未来に繋ぐために。



────

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