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ネコ目のテイマー、世界を駆ける  作者: 7番目のイギー
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002 - 神殿にて

 ほどなく神殿に着くと、たくさんの子どもが前庭に集まっていた。


 それほど大きくはないティグリス村でもこの数だ。聞くところによるともっと人口の多い街では、数日かけて儀式を執り行うこともあるらしい。


 なにせこれからの人生の指標が判明する日。集まった子どもたちは一様に期待と不安の声を上げている。

 やがて神殿の重厚な扉が厳かに開くと、中から司祭様と思わしき老齢の男性が姿を現した。


「子供たちよ、今日という祝いの日、天候にも恵まれまこと良き日である――」


 こういう偉い人の話はとにかく長い。しかも話の内容は、この国の成り立ちとか神獣ビャッコ様に感謝をとか、既に嫌と言うほど聞かされていたものばかりだ。はやく職号降しを済ませて数打ちのノルマを終わらせたいのに。


「――さて、これより成人の儀を執り行うが、名前を呼ばれた者はこちらへ出なさい」


 ようやく名前が呼ばれ始めるが、一向に私は呼ばれない。見渡せば待ちくたびれた大半の子どもたちが座り込んでいた。神殿を前にして随分とお行儀よくないなと思いつつも、ただ立ってるだけなのも辛いから、みんなに倣って私もその場に腰を下ろした。


 さらに数刻半が経ち、ようやく私とほか数人の名前が呼ばれた――のだが。


「けっ! お前と一緒かよネコ目!」

「ここでもビガロと一緒とか……最悪」

「あ? なんか言ったか」

「いーや何も言ってませんけど」


 こんな大事な時にまでコイツと一緒とは、なんて運がないんだ。そんな余計な不穏さを覚えながら神殿へと足を踏み入れた。



† † † † 



「――次。ビガロ・ヴァンダ、前へ」

「は、ひゃい!」


 ぷっ。声裏返ってる。こういうところが小物なんだよアンタって人は。

 右手と右足を同時に出して、ビガロは祭壇へとぎこちなく進んでいった。


「この聖蘭珠に右手を乗せ、神獣様に祈りを捧げるのだ。では、始めなさい」


 神殿に入った際、助祭様に聞いたところによると、聖蘭珠というのは神獣様と精神で繋がり職号を賜る神具で、手を乗せ祈りを捧げると、さまざまな色に光り出すという。その色は四つあり、下から(下級)(中級)(上級)(超級)。色は賜った職号の資質の優劣を表す指標らしい。光が止んだあと、聖蘭珠に職号が浮かび上がる。そしてその場で職号を司祭様が読み上げたのち、国民証という金属製のカードを戴き成人の儀が終わる……というのが儀式の全容だ。


「よっしゃ! 神獣様、よろしくお願いしまふ!」


 思いっきり噛んだビガロは震える手を聖蘭珠に乗せ、目を伏せる。

 徐々に聖蘭珠は光を帯び、やがて赤に落ち着いた。コイツが赤? 神獣様、こんな奴が赤でいいんでしょうか。コイツは素行も良くない悪ガキですよ?


「ふむ……ビガロ・ヴァンダ。お主の職号は……『仮初の聖騎士』の赤! 仮初というのは――」


 司祭様の説明を漫然と聞くビガロの顔は徐々に熱を持ち、目つきが変わる。


 それは当然のことで、『聖騎士』の職号を賜った者は、都を守護するために編成された『聖騎士団』に無条件で入団でき、その後の将来も安泰だ、と言われているからだ。もちろん四つの国それぞれに聖騎士団が編成されている。


 でも、仮初って確か『一時的・その場限り』って意味もなかったっけ。それから察するに『聖都騎士団に入団したはいいけどすぐ音を上げて逃げ出す』んじゃないだろうか。ビガロのことだ、充分あり得るな。


「……ではこれがお主の国民証だ、受け取るが良い。これはお主の身柄を証明するものであるから、くれぐれも紛失盗難には気を付けるのだぞ」

「は、はい! ありがとうございましゅ!」


 最後の最後まで盛大に噛んだビガロは、上級職号と上級色を賜ったため、助祭様に別室へと連れて行かれた。

 あんな奴が市国の大神殿行きとは、この国の行く末が心配だ。くれぐれも民には迷惑かけないでほしいもの――


「……キス。ミア・ラキスはいないか!?」

「は、はひっ!」


 ちっ、余計なこと考えてたから私まで噛んだじゃないか! ビガロのせいだ。ビガロのくせに生意気だぞ。


 散々ビガロを馬鹿にしていたけど、いざ自分の番となると足の震えが止まらない。ひとつ深呼吸をして、祭壇に置かれた聖蘭珠へいざ身を差し出す。


「神獣様。よろしくお願いします(何卒鍛治士を!)」


 そう小声で宣言、そっと手を差し伸べて両の目を伏せた。


 うっすらと感じる光は、瞼を通してなのか赤く感じる。ということは上級? だとすると私も大神殿行きなのだろうか。でも職号が鍛治士なら一般職だから家の都合で決められるはずだ。私はこの村を離れるつもりはなく、じっちゃんに師事しながら鍛治士として生きていきたいのだ。


 やがて光が弱まるのを感じ、ゆっくり目を開けると、向かいに立つ司祭様が眉間に皺を寄せてなにかぶつぶつ呟いている。神殿内もなにか慌ただしくて不穏な空気が漂っていた。


「あ、あの……司祭様。私の職号って……」

「! いや、すまない。では……ミア・ラキス。お主の職号は……『ネコ目の調教師(テイマー)』の……白金?」

「白金?」


 白金? と疑問系で聞かれても、司祭様にわからないものが私にわかるはずもない。お主なにか知っておるか? みたいな顔されても困る。

 気まずい空気を司祭様は咳払いで追い払う。


「こほん。まず先に職号であるが、『調教師(テイマー)』というのは――」


 平静を装いながら話す司祭様の言葉は、今の私には全く響かない。あれだけ強く希望していた『鍛治士』じゃなかったからだ。


 テイマーという職については私も多少知っている。動物――野生家畜問わず――を使役して自分の仕事に従事・補佐させる職がテイマー。牛を使役する農民、荷馬車の馭者、狩猟犬を従えた狩人、狼を使役する冒険者、はたまた鳥を使役して手紙を運ばせる文屋などなど……と、テイマーが就く職は多岐にわたる。


 それはともかく、火急の問題は『ネコ目の』だ。


 ネコ目って。それ職じゃなくて私の見た目じゃないか。

 これってどう解釈すればと司祭様に尋ねれば、


「斯様な職号は私も初めて見たのだ……これはおそらくお主の容姿を……そのうえ色は白金。これも長いこと司祭を務めているが初めて見た……いや、失礼した。すまぬ」

「い、いえ……そういうことでしたら仕方がないかと思います……あの、私は大神殿行きになるのでしょうか」

「うむ……なにしろ初めて尽くしの職号と色であるから、大神殿には報告せねばなるまい。だが確実にわかっていることは『テイマー』であること。この職号は一般職であるからして、大神殿行きはひとまず保留としよう……ではこれがお主の国民証だ、受け取るが良い。これはお主の身柄を証明するものであるから、くれぐれも紛失盗難には気を付けるのだぞ」


 神獣様と司祭様に感謝を述べて、神殿を出る。数歩進んで神殿に振り返り、


(じっちゃんになんて言えばいいんでしょうか、神獣様)


 忸怩たる思いにその足取りは重いけど、気づけばもう昼下がり。波乱の一日をどうにか終えた私は、じっちゃんの待つ我が家へと急ぐのだった。

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