第96話 オチが酷いね。
Side:仁菜
実依さんがやらかした。
どう、やらかしたかと言えば、
「会話に夢中になると、いっつも周囲が見えなくなるわよね?」
「ごめんなさい」
「百年振りに見かけたと思ったら、全然変わっていなくて呆れてしまったわ」
「ごめんなさい」
「謝っているけど、本当に反省しているの?」
「うん。ごめんなさい、ルゥちゃん」
「先の件で消えたお年寄りの話題は禁句なのよ? そんな事も知らなかったの?」
「し、知らなかったの」
「はぁ〜。貴女のお母様は相変わらず放任主義なのね?」
「うぐっ」
実依さんの親友ことルゥさんの言葉通り、周囲に気づく事なくあれこれ言ってしまった事にあるようだ。会話の内容によっては他神を貶すような事柄もあったりするから。実依さんが発したのは消えてしまったお年寄りへの疑問点だけだけど……禁句扱いって事は……つまりはそういう事なのだろう。
するとルゥさんが周囲に濃密な風結界を張り(一瞬!?)事情を語り始めた。
「そこの下位神も事情を聞かされていないみたいだけど、四番の討伐は酒に飲まれた爺共が暴走した結果なのよ。爺共……神聖力はそれなりの量を持っていたけど、世界の管理だけは任せられないような愚物共でしかなかったのよ。ただ、親が親だから」
「お、親? だ、誰だったの?」
「議長の子息達よ」
ぎ、議長の息子達? 爺共? どういう事?
「それは禁句になるぅ。やっちゃったー。私、どうなるの?」
実依さんとルゥさんは事情を知っているのか難しい表情になっていた。
「周囲は反議長派だから大丈夫でしょ。面白い事を言うなって感じだったし」
「そ、そうなんだ」
「議長派の神に聞かれていたら、貴女のお母様の責任問題になっていたけど」
「うっ」
「今後は発言する場所を選びなさいね?」
「う、うん」
「そもそもの話、扉街道を延伸して信仰心が直ぐに集まるなら、苦労は無いわ」
「確かに」
ただね、私が凝視していたためか、ルゥさんと不意に視線が合った。
「あら? ところで、そこの子、実依の?」
「うん。妹だよ」
「そう。同類が増えたのね……やっぱり?」
「迷宮だよ」
「迷宮か。でも、実依よりは聞き分けが良さそうね」
「それは失礼だよ!?」
「なら、反省しなさい」
「うっ。ごめんなさい」
こんな実依さん……初めて見たかも。
ティルさんも同じかぁ。よっぽど仲の良い親友なのかもね。
「先の会議で実菜達から中位神になったと聞いたけど、もう少し世間を見た方がいいわよ。自分達の世界だけではなく、余所の世界も見た方がいいわね」
「う、うん。だから、ティルの世界に今から行く予定だけど?」
「そこの下位神の?」
「うん。明覚華叔母さんの世界へ」
「ひぃ!? そ、そう……それは大変ね。もしかして明覚華さんの?」
「娘ですが?」
「苦労しているのね?」
「ええ、まぁ……」
何だろう? 急に親しみが出てきたような気がする⦅伯父の娘だから⦆身内!?
ああ、だから、性質を知っていて怯えているのね。超の付くドSで有名だから。
そういえば、容姿も私や実依さんに似通っているものね。
垂れ目だけど目の奥にとんでもない力を持っているし⦅上位神だもの⦆上位神!
それと……達って言っていたから深愛とも顔見知りかな?
私の顔を見て深愛を思い出したようだし。
「しかしまぁ、明覚華さんの世界か。行くなら覚悟だけしておく事ね」
「それはどういう意味で?」
「現在進行形で邪神共が侵攻中だからよ」
「「ふぁ?」」
え? 侵攻中?
でも、深愛達が討伐したと言っていたけど。
「私も先日、討伐に行かされたけど、ダメだったわ。即撤退したもの」
「マジで?」
「ええ。娘の貴女は知らされていないみたいだけど」
「そ、そんな事に……?」
まさか、そんな事になっているなんて知らなかったよ。
もしかして娘を母さんの家に預けたのはそれがあるから?
私達は自分の世界に戻っていくルゥさんを見送りながら、
「邪神共が侵攻中? それ、不味くない?」
「ええ。滅びの一歩前って事でしょうか?」
「そ、そんな……」
三人で集まって急ぎ叔母さんの世界へと向かった。
◇ ◇ ◇
Side:実依
親友こと従姉のルゥに叱責された私はとんでもない事をやらかしたと反省した。
(議長の子息達ぃ……それは不敬どころじゃないよぉ)
言葉にしてはダメな相手の暴論を吐いてしまったから。
議長とは、立場上は母さんに並ぶ上位神の一角なのだけど、力関係で言えば中間管理職な母さんや叔母さんよりも上の立場に位置する、とっても偉い神の一人である。
(とっても偉い神で私達では力関係的に負けてしまう神の一人だけど……)
そんなとっても偉い神達を管理するのが伯父の役割であり、ルゥは娘としてティルよりも多くの事情を知っていたのだ。母さんの⦅爺の事、伝え忘れていたわ⦆バカ!
「おっと。芋が飛んできたけど、神の世界も面倒な柵があるんだよ」
「そ、そうだったのですね。ちなみに、伯父さんより上には?」
「居るよ。最上位神……国で言う王様のような神が。伯父は宰相みたいな立場かな」
「「宰相!?」」
ちなみに、私達の家系は直系であり、伯父が次の王になる予定となっている。
ルゥも未来の最上位って感じで若い内から帝王学に近しい学問を修めている。
私達は傍系になるから、のんびり自分達の世界を管理すればいいってね。
現状はのんびりどころの話ではないけれど。
『ま、姉さんと深愛の潜在能力の高さは祖父の影響力が大きいかな?』
『そ、そうだったので!?』
『ティルも経験さえ積めば、同等になると思うよ。経験さえ、積・め・ば、だから』
『少しでも多く経験したい!』
何はともあれ、ティルが経験を積むならもってこいな環境が既にあるよね?
つい先ほど降りてきた叔母さんの世界。ティルが産まれた世界でもあるが。
叔母さんが教皇を務めるとされる神殿から外に出た私達。
外には邪神共が跋扈するとされる地上が……あれ?
『何処に邪神共が居るの?』
『あら? 平穏なんですが?』
『どういう事でしょうか?』
慌てて降りてきたのに人々が笑い合う世界になっていた。
現在進行形で侵攻中とあったが、どういう事なの?
私達は人気の無い路地裏に移動して自前の神魔体へと宿った。
ティルは使い慣れた憑依体だったけど私の判断で止めさせた。
『何で?』
「従来の憑依体は邪神戦向けではないからね」
『そ、そうなの?』
「こちらの方が安全で安心ですよ」
『えっと、うん。そちらでお願いします』
「りょうかい。おっぱいは大きくするよ」
『む、胸は小さくして下さい!』
「「もったいない!」」
『えーっ!?』
実家でも管理世界でも従来の憑依体だったティル。
「な、何、これぇ!?」
「やっぱり驚きますよね」
「神体に即した肉体だからね」
「そ、即した肉体?」
「しかも、姉さん作」
「うそぉん!?」
今回の初宿りで神魔体の凄さを垣間見たようだ。
お陰で従来の憑依体を神素還元してしまったしね。
「さようなら。薄い胸の私」
「というか薄い胸にする理由は何なの?」
「えっと、神官からの要望で……薄い方がいいと」
う、薄い方がいい? 童顔なティル相手に?
それを聞いた私と仁菜はドン引きしてしまった。
「「変態神官だぁ!」」
「へんたい?」
神官共はロリコンが多いって事ね。
ティルは身長も低く童顔な顔立ち。
そこに大人も顔負けな巨乳が付く。
それを忌避して薄い胸を欲したと。
「「ロリコン死すべし、慈悲は無い」」
「ろりこん? 何です、それ?」
「女児が大好きなおっさん達だよ」
「ひぃ!?」
そんな変態神官達を横目に私達は情報を集めるため、姉さんから事前に聞いていた邪神共の巣窟まで転移する事にした。場所はティルが知っているからね。
「あら? 何も無いよ?」
「あ、あ、あの、魔族領が、神聖な大地に?」
「もしかしたら情報が古いのでは? 深愛達が片付けた後ですし」
「情報が……そうかもね? ルゥの言った先日って、数年前だったりするし」
神達は全員、気が長いから先日と言って本当に先日だった事など余り無い。
真に受けて急いで降りてきたら、掃除後でした、何て誰も思わないよね?
「一応、邪神が世界に残っているかどうか、探索してみるよ」
「それがいいですね。居ないなら居ないで、通常通り魔物を狩ればいいですし」
「探索? 出来るの?」
「問題無いよ」
私は心配気なティルを一瞥しつつ、邪神共の澱みを指定して探索魔法を世界中に向けて放った。反応が返れば潰しに行くだけなんだけどぉ……。
「世界中だから反応が遅いね」
「広範囲ですからね。しばらく待ちましょうか?」
「そうだね。ところで芋、食べる? 母さんからボコボコと落とされた芋だけど」
「突然芋が落ちてきたから何かと思えば……〈スキル芋〉ですか」
「い、芋が焼けた?! 触れただけなのに?」
「あらら。もしかしてティルは神力の制御が苦手っぽい?」
「ええ。苦手っぽいですね? 直ぐに焼けたので」
「どゆこと?」
これはこれで魔物狩りを経験させながら鍛えるしかないね。
「下位神から中位神に昇格出来ない理由はこれと」
「千年未満といえど制御が苦手なままというのはちょっと」
「え? え? え? え? え?」
幸い、邪神共の反応は無く、姉さん達が徹底して狩った事が分かっただけだった。
「姉さん達が討ち漏らす訳、無いよね?」
「存在自体が邪神共にとっての猛毒ですしね」
「邪神共も猛毒が現れたら排除するはずだもの。生存本能で」
「ええ。下っ端が死んでも徹底排除するでしょうし」
徹底排除しようとして劇毒と知り殲滅されていったと。
周囲を過去視すると、まさにそんな惨状が目に入ってきた。
そんな中、
「おや?」
「どうかしたので?」
「何か見たの?」
私の過去視に大変見覚えのある元プリン達が現れた。
それは未確認召喚⦅あっ⦆された際に送り込まれた勇者擬きだった。
「呆然としてる。魔王を倒しに訪れたら居なかった。で、そのまま国に帰せと騒いで同行していた兵士達から皆殺しにされたね。最後は魔物の餌に」
「「おぅ」」
おそらく確認のために向かっただけだろう。
最後は不要と見做され片付けられた。




