第91話 きけばいいけどね。
どうにか叔母さんの世界の管理神器を更新した。
その分、調査で一年を要したが、こちらでは一週間程度しか過ぎていなかった。
「あの苦労の日々が一週間程度。嘘でしょ?」
「ということは二人の急成長ってその間に起きたの?」
「「それが?」」
この時の私は結依達の「「それが?」」が少々冷たく感じられた。
だが、気にしてもいられないので苦楽を共にした深愛に相談した。
「そうなると、この一年の間に食べた魔物肉が影響してそうだよね?」
「これは戻り次第、実依さんと仁菜に調査依頼を出さないと」
「二人が食べたっていう魔物肉ってそんなにあるの?」
「結構、手当たり次第狩ったからね。どれがヒットしたのか皆目見当もつかないよ」
「うんうん。基本、野宿だったから……」
そう、深愛が私に同意を示すと由良が目を丸くした。
「野宿? え? 姉さんが野宿?」
「何よ?」
「姉さん、潔癖なのに野宿なんて出来たので?」
「出来るわよ! 失礼ね?!」
深愛も当初は不安そうだったけど自然と慣れたよね。
後半なんてほぼ裸で寝て⦅見てみたかった!⦆結依は言うと思った。
「深愛って意外と適応能力、高いよ」
「そうなの? 姉さん」
「うん。そこは知識神故の理解力が関係するしね」
「あー、それがあったか。だから自然と適応して?」
直前なんてボロボロパンツが落ちてもけろりんとしていたし。
恥ずかしいなんて気持ちは完全に霧散したと思う。
「どうやったら汚れないか無自覚に対応したのかもね。私達は神聖力で浄めるから」
「神聖力! それがあったから姉さんは潔癖でも耐えられたと?」
「驚き過ぎでしょ? 浄めなくても勝手に浄められるし、一々気にしてもね?」
「河川での水浴びも平気だったしね。平民の男子達に混じって揃って裸になって」
「最初は恐かったし、恥ずかしかったけどね? 慣れたらそうでもなかったわね」
「冬場は地獄だったけども」
「あれは二度とごめんだわ」
「「知識神、パネェ!」」
私ではなくて深愛がね⦅一緒に裸になったでしょうに?⦆それはそれ。
「そんな一年……実質、一週間だったけど、深愛も成長したのよ」
「最終的に身体の成長の方が驚きだけどね?」
「私達の成長の陰にはそんな苦労が隠れていたと」
「素直に喜べないと思ったけど大変だったんだね」
「「大変だったのよぉ」」
戻り次第、実依達に丸投げしないとね⦅何?⦆お肉⦅要る!⦆即答か。
(どのお肉で神体までの成長に至ったのか?)
有りの判定が出たならば魔物を狩ってきて迷宮の仲間入りにすると思うし。
⦅お肉、送って!⦆
⦅急成長の秘密知りたいですぅ!⦆
早速反応が返ってきたから速攻送った私であった。
⦅⦅こんなにあるのぉ!?⦆⦆
全て一年の成果だよ。存分に検証してね!
魔物肉の件は二人に投げておけば問題は無いだろう。
それよりも気になるのは私達の代理である知識神の事だ⦅あっ⦆⦆どったの?
「ところで話題が変わるけど、ティルはポカしてない?」
「「……」」
ちょ! 何故、沈黙なの?
目も泳いでいるし。私達が居ない間に何があったのよ?
実依達も反応がおかしかったし。
「由良ちゃん? 姉さんに教えて?」
「うっ……」
潔癖話で驚かれた深愛が目の笑っていない笑顔で問いかけている。
私も気になったので結依に問いかけてみた。
「何が起きているの? 私達の居ない間に?」
「え、えっと……ティルにとっては不本意なオタサーの姫になってる」
「「ふぁ?」」
どういう意味よ? それ?
オタサーってオタサーだよね?
言葉通りの意味ならば、だけど。
「た、単純に言うと、ね?」
結依困り顔で語り始める……。
何でも初日から三日間は再研修として真面目に取り組んでいたという。
問題は三日後だった。各種族を見に行く実地研修で事件が起きたのだ。
「はぁ? 大人として転生してきたゴミ共から祭り上げられているの?」
それは地底の人族国家での出来事だった。
場所は帝国領、人魚族の様子を見ていたティルの元に大船団が訪れたという。
同行者は仁菜と美加。姉達は管理室から様子見中だった。
「人族の大集団だったのだけど、ティルの容姿が彼らの言う、女神と一致していて」
「それって、以前の至音姉さんと消え去った探索の女神って事?」
「そんな感じ」
え? 一体、何処をどう見たら探索の女神とティルが同一になるのよ?
「CMの絵柄とティル?」
「全然似ていなかった気がするけど……奴らの目は節穴なの?」
探索の女神は黒髪の女神だった。
対してティルは白に近い白金髪の女神。
全然似ていないし邪神が毛嫌いする属性だ。
それが何処をどう見たら黒髪に見えるのか?
それこそ、暗示……ああ、それか。
「もしかすると暗示で誤認するよう誘導されたのかもね。転生前に」
「「「!?」」」
「駐在に憑依していた邪神は時空神の権能を持っていたでしょ? 未来を見て動いていても不思議ではないよ。私達が他世界に行っている間に問題を起こしているから」
「そうか。私達側の混乱を招くためにティルを利用したと」
「度し難いですね」
しばらくの間、人族国家には出向かない方がいいかもね。
ゴミ達は私達が消し去るか至音姉さんが動くかしないと無理かもね。
「それで、肝心のティルは?」
「人族が恐いとか言って、家に引き籠もったの。研修どころでは無くなって」
「えぇ……超ドSの母親よりも恐かったってこと? 転生したゴミ人族が?」
「叔母さんも恐いけど、精神を追い詰める的な気持ち悪さがあったみたいで」
ここにきてティルの経験の無さが弱味になったか。
「あの問題児が相手でも引き攣り笑顔で怒り狂っていたティルがね?」
「精神的に強いと思っていたティルを追い詰めるド変態共が相手か?」
それを聞くと見てみたくなるね。どんな変態共なのか?
「深愛? 戻り次第、降りてみる? 素の状態で」
「そうね。私も気になるから行ってみるわ。素の状態で」
「「この姉達は」」
「いやいや。本当に暗示なら私達を見ても同じに見えるでしょ?」
「もし同じに見えるなら信奉する女神に殺される事も本望でしょ」
「「姉さん達のドSが進化してるぅ!」」
「「ドSじゃないし!」」
失礼だよ? でも、私達もこの一年で超ドSな世界で揉まれただけはあるからね。
「ふと思ったけど、ティルに足りないのは母の世界を見て歩く事だったんじゃ?」
「そうかもね。あの世界は人族に優しくない世界だもんね。ほぼ地獄の様相だし」
「寒暖差は激しいし、辛いどころでは無かったわね」
「うん。魔物肉が美味い事だけが救いだったけど」
「しかも、魔族が激弱だった事が不完全燃焼よね」
「だね。レベル100で天狗になる魔王も居たし」
「「そんな世界だったの?」」
「「うん」」
学べる点もそれなりにあったけど、あの世界に住みたいとは思えないかな。
家族で遊びに行く。観光として訪れるくらいが丁度良い世界だと思う。
叔母さんにとっては不本意かもしれないが⦅構わないわよ⦆構わないって!?
「次の休暇が取れたら、交代で遊びに行こうか」
「そうね。由良ちゃんにも男子達と混ざって裸の水浴びをさせないと」
「何で!?」
「由良乙」
◇ ◇ ◇
そうして私と深愛は地底の魔王国付近に降り立った。
事前に創った神魔体に宿り、浮遊した状態で大船団を探し回った。
「どう? 居る?」
「居ないね。遭遇日からそこまで日数は過ぎていないから居ると思ったけど」
探し回ったが何故か居なかった。
これはどういう事だろうか?
もしかすると、そこに現れると予告があって、待機していたのかも。
シナリオを読んでいないからハッキリしないが、その可能性は高いだろう。
「過去視してみるか……確かに居たね。えっと、やっぱりか」
「何か分かった?」
「予告があったみたい。ティルが降りる当日、海上に現れる的な」
「そうきたか」
「で、帝国方面に移動して、北極だね。旧第零……」
「そこで好き放題していると」
私達は溜息を吐き〈空間収納〉へと収めていた⦅危険物キタコレ⦆うっさいな!
とある魔道具を取り出して海上へと浮かべた。
「早速、使う羽目になるとはね」
「でも、奴らの度肝を抜くには丁度良いよ」
「そうね」
海上に並んだ大きな乗り物。
夏音姉さん達も乗っていたけど、あれとはかなり違う代物だ。
「さーて、滑走するよ!」
『度肝を抜いてやるわ!』
基本は一人乗り。燃料は私達の神力のみ。
形状は戦闘機、弾薬は神素還元弾⦅何ですってぇ!?⦆魔力では無いのだよ。
神聖力をこれでもかと満たした弾頭を載せ、旧第零に巣くうゴミ掃除を行う。
仕組みは元世界の戦闘機⦅乗りたい!⦆幹菜ちゃんはまた今度!
火属性神力の爆発力で滑走し、浮力を得て上昇する。
白金の機体は轟音をあげて上昇し、あっという間に目的地上空へ到着した。
「近いだけ、あっという間だ」
『何か歓迎している風に見えるけど?』
「それらしい予告でも出ていたんじゃない?」
『それでか。口の動きで黒に見えるって』
「暗示は確定か。でもね?」
『貴様達の女神は自分達の死を呼ぶのよ?』
都合良く解釈して黒い戦闘機が自分達を誘ってくれるものと信じている。
だが、そうは問屋が卸さない。今から地獄を味わってもらう予定なのだから。
私達は旧第零に建造された前線基地と煙を吐き出す製油所を照準し、
「『神素還元弾、発射!』」
轟音と共に発射された還元弾頭は、吸い込まれるように敵の前線基地等を木っ端微塵よりも細かな微粒子へと置き換えていった。還元陣はそこで働く転生者の魂魄をも跡形も無く消し去っていった。還元弾頭は熱を発する事無く、原形を失わせていく。
その未知なる武器により、ゴミ共の生き残りは呆然としたまま空を見上げていた。
『告げる。旧第零の大地を占拠せし者共よ。貴様等は犯してはならぬ罪を犯した。これは神罰である。この世界は貴様達が興じた薄板の遊戯の世界ではない。それを遊戯と勘違いし、己が欲望のまま、この地へ舞い降りた。今すぐこの地より引け。引いた者には慈悲を与える。引かぬ者には死を与える。これは世界神からの最後通牒だ』
深愛は世界神の一人として告げたのだった。




