第90話 駆け足で過ぎる年月。
Side:実菜
脳筋エロフの集落がある森を抜け、
「んー? ここはそういう場所?」
「どうかしたの? 急に唸って?」
「ん? ああ、偶然か必然か知らないけど」
地図魔法で取得した近隣国家の国境へと到着した私は思案した。
「けど?」
「この辺りってさ? 残り三カ国の国境が面している場所らしくてね」
どの国を優先すべきか迷った。
現在地は三カ国の国境が面している唯一の場所だった。
街道も三つに分かれていて、各国家は山脈を挟んだ地であり国交も無いらしい。
山脈に大きな穴を穿てば交易も出来そうだが、肝心の交易は現在地の国家が担っているので、それは出来そうに無かった。それこそ不必要な干渉に取られかねないし。
「どちらから先に情報を集めるか?」
「なるほど。それで悩んでいたのね」
「ここは交通の要所っぽいからね。街ではないけど三つの街道が重なる場所だから」
すると私のポケットに入れたスマホからポコンと音が響いた。
「え? スマホが動いた?」
「どういう事?」
「えっと……あー、結依ちゃんが上に居るみたい」
「上? 神界に?」
「うん。えっと、何々?」
メッセージの本文を読むと、始末書のティルが私達の世界で再研修する事になったらしい。主な理由は神器更新にあるみたいだね。あー、慣熟させるための研修かぁ。
「ティルが私か亜衣の方の手伝い要員で入るみたい」
「ティルが? あの過剰なほどポンコツの女神が!?」
「うん。過剰なほどポンコツの女神がね。事前に由良がお断りしているから浮遊大陸での研修は行わないみたいだけど」
「由良、グッジョブ!」
「深愛がポンコツだから、今以上に増えて欲しくないだけだと思う」
「何でよ!?」
無自覚なの? 深愛って結構ポンコツだよ?
それはともかく、結依は叔母さんの居所まで記していたよ。
「ふぁ?」
「今度は何よ?」
「叔母さん、教皇だって」
「は?」
「じ、自身を祀る宗教組織のトップ。何だこれ?」
「直接干渉、よね? そんなの、真似出来そうに無いわ」
「うん」
芋しか掘っていない母さんでも基本は不干渉だ。
神社という名の宗教法人では父さんが主だしね。
神主は男性しかなれない職種だから仕方ないけども。
「なら、教皇猊下の居る国は……最後に巡った方がいいね」
「うん。集まってもいないのに来るなとか言われそうだし」
そうなると教皇猊下こと叔母さんが居る国は私達から見て左側なので、
「右側の国家から順に見ていく方がいいか。都度、ここに戻って」
「真ん中、左側で完了させるつもりで」
「行けばいいかな。結依の助言、助かったよ」
私は了解とだけ記して返信した。
その際にお土産の件が浮かんだので、ポチポチ打って送信した。
それと同時に〈空間収納〉へと確保した生肉を結依の〈空間収納〉へ送っておいた。
「というかスマホ。普通に使えるのね」
「上に誰かが居る時だけだと思う。これは管理神器を介さないし」
「それでか。私も結依さんに送っておこう」
「ところで何を送るの?」
「脳筋エロフの顔以外の写真。身体だけなら好みかと思って」
「そうきたか。まぁ……いいか」
仮に『顔は?』と問われたら物理的に崩れていたと返そうか。
「結構な枚数撮ったから、喜ぶといいけど」
「オスだけは抜いてね」
「当たり前でしょ。送るのは女の子のみよ」
結依は同性が好みだし、受け入れてくれると思う。
なお、管理神器の関係で念話が届かないので驚喜が私の元に届く事は無かった。
「ヒャッホーイ、だって」
「そ、そう。まぁ部位だけでいいなら良いか」
「覗き込んだティルが引いたらしいけど」
「ティルはノンケか。いや、あの子も」
「同類よね。同族嫌悪ともいうけど」
「そうね。悪い意味で深愛っぽいけど」
「どういう意味よ!」
「潔癖症」
「あっ」
これを言われると反論が出来ないでいた深愛だった。
深愛も最近は落ち着いてきたけどね?
頻繁にあれこれ見せてくれるから。
「な、何も知らないより、色々知ったから、その症状は消えたって事で!」
「深愛がそれで良いなら、いいよ」
悪い時期の深愛って意味で。
ティルの潔癖も追々壊せばいいだろう。
綺麗事だけで世界運営は出来ないからね。
「お? 結依からティルの中身が送られてきたよ」
「どれどれ? あらら、ここまで撮影したの? 丸見えじゃない」
「隣でティルが怒ってる? 無断だもんね」
「自ずと壊れていくかもね。これは」
そのメッセージを最後に届かなくなった。
多分、ティルに取られたのかもね。
反省するまで返しません的な。
「帰ったらティルの分も創らないとダメかもね」
「叔母さんの分も創る必要があるかもよ? 見ていたら、だけど」
「そうだね? 用意だけしておくよ。無いなら無いでうるさいし」
母さんも持っているから絶対に⦅創って!⦆言うと思った。
「これは合間合間で創っておくか。枢機卿あたりに配りそうだし」
「それがいいわね。神だけの独占は出来そうにないし」
こちらの世界の帯域のみに制限すれば教会関係者だけの連絡手段になるだろう。
叔母さんとティルのみ、全世界対応とすればいいね。
「知人からも欲しいって言葉が出るかもよ? 叔母さん付き合いの幅が広いし」
「魔導書だけ手渡すから自分の世界向けに創ってって言うよ。そうなったら」
「創造特化の神は喜びそうね」
「緊急連絡手段にもなるしね」
各世界への扉へ、一通一通、手紙を放り込む手間が減るから。
「ところで、今の他世界ってどれだけあったっけ?」
「確か、ここが800だから……会議から増えているとして1万はあると思う」
「そんなに増えているの?」
「予測だけどね。上の扉街道が延伸していたら、だけど」
「需要として見ると、とんでもないわね」
「手紙だけが欲しい上位神は継続でいいと思う」
「どうかしら? 結構、先進的な上位神が多いけど」
その時はその時かな。
とはいえ、そこまで大事になると、更に上の神が出張ってくるので、中間管理職な母さんに丸投げしようと思った⦅姉さん、乙⦆極力、拡散しないでね?
なんて思っていると隣からきょとんの質問が飛んだ。
「え? 上にも居たの?」
「それは居るでしょ。神会議の議長さんとか」
「あっ!」
「つまりはそういう事よ。扉街道の延伸もそちらの管轄。通知もそちらの管轄ね」
「お、大事にならないといいわね」
「ほんそれ」
何はともあれ、目的地が定まった私は深愛を連れて街道を進んだ。
◇ ◇ ◇
叔母さんの世界で過ごしてあっという間に一年が過ぎた。
「情報収集で一年。時間遡行しないとダメかもね」
「そうね。私達の服もボロボロだわぁ」
「深愛のパンツもボーロボロ」
「何処を見てるのよ!?」
「つんつるりん」
「ボロボロで落ちたし」
身体の方もそれ相応にボロボロだった。
お風呂に入れないし、冬場になったら水浴びも地獄だったし。
「この身体はこの世界に順応してるし、訪れた時に宿る用とした方がいいね」
「そうね。育たなくていいのに育ったし」
「胸がね。私がGで深愛がHか」
「これって神体でも同じかしら?」
「どうだろう? 本当に育ったらあの子達にも反映してそうだけど」
こちらでの一年で色々食べた弊害か、胸が急成長したもんね。
神体的に育ったかどうか調べるのは神器の更新後、かもね。
ちなみに、現在の私達は教皇猊下へのお目通りで教会本部へと訪れている。
お目通りに際し、これでもかと寄進を求められたので、
「面倒だから金塊を創ったけどいいよね?」
「いいと思うわ。あちらも金塊に喜んでいたし」
創ったとは言わず魔族領の金鉱山で掻き集めてきたと伝えておいた。
それはそれで大問題となりそうだが、今や誰も居ない場所だしね。
で、叔母さんへのお目通り時、時が止まったよ。
「待っていたわ! ささ、更新して!」
「「今からかい!」」
ドS……否、超の付くドS。
私達を休ませる気など無かった。
願われた以上はやるけども。
肝心の神器本体は管理室かと思えば教会本部に有った。
母さんと同じく持ち運び型だから助かったけども。
◇ ◇ ◇
更新後、簡単な取説だけお渡しして、
「助かったわ。ありがとうね」
「神魔体の魔導書と、必要数のスマホも管理神器の前に置いておきますね」
「これで姉さんといつでも連絡が取れるわ。その身体にも興味があったし助かるわ」
「「では、失礼します」」
「一年間、お疲れさま」
私達は教会本部を後にした。
そういう体で本部の外に出ないと上に帰れないからね。
人気の無い路地裏に入った私と深愛は人払い結界と偽装結界を張り、一年間お世話になった神魔体から外に出た。
『うわぁ!? 育ってるぅ!』
『マジでぇ? 怒られるぅ!』
神魔体だけかと思ったら神体の方の胸も育っていた。
『やっぱりGカップか。深愛はHで確定と』
『優羽は喜びそうだけど、亜衣からは叱られそう』
『それは仕方ないとして』
『仕方ないって』
『学校での身体。少しだけ成長させようか? Cカップで』
『C……うん、そうする。多分、入れないから』
裸のまま変化があった部位を調べたらお尻も成長していたよ。
一体、何が原因だったのやら? 一応、狩りまくった魔物肉は保管しているから帰り次第調査が必要かもね。実依達なら原因を特定してくれるかも。
『お尻は百センチオーバー。三センチ増えてるし』
『百三センチ? って事?』
『うん。ミアは百センチに到達したみたいね』
『こういう成長って正直、喜べないわね。私達の場合、全員に連動するから』
『だねぇ。私は果菜の反応が恐い』
『言い訳考える身にもなってよぉ! かしら?』
『良く似てるよ。そんな感じで詰め寄られそう』
神装を羽織り神聖力で浄めた神魔体を〈空間収納〉に片付けた私達は結界を解除して教会本部内へと戻った。そこから繋がる神界へ転移して本拠地までの扉を潜った。
すると扉前のベンチに、
「姉さん? これ、どういう事?」
「少々、育ち過ぎですけど?」
目が笑っていない笑顔の結依と由良が待っていた。
「「えっと……ごめんなさい」」
これは素直に謝るしかないよね?
で、年月を聞くとそんなに経っていなかった。
「「まだ年末ぅ!?」」
「神器の不具合が原因かもね?」
そうきたか。




