第81話 真実はとても残酷。
Side:深愛
実菜と一緒に父さんの世界の神界で色々創った⦅危険物を?⦆違う!
色々創っていたのだけど、その際に見知らぬ魂魄が神界へと現れて驚いた。
本来であれば私達神族しか出入りが出来ない場所こと神界に、人族の魂魄が漂っていたのだもの。これが母さんの世界の神界だったなら話は分かるのだけどね?
その後、実菜が詳細を調査して、
(大きな塊が渦を通過して散けた? それが百億もの魂魄に? とんでもないわね)
大きな塊の影響で異空間へと弾き出された魂魄が、こちらに出現したとあっては驚きどころの話では無かった。普通、転生者は中層に現れるものと思っていたのにね?
そうして実菜が神使にするため、人族の魂魄を神魔体へと宿らせるとユーカ先生の葬儀で見かけたボロボロの生徒会長だった。
(着痩せ? これは……淫乱エロフと同じく空間の境に収まってそうだわ)
だって、着痩せを通り越した大きな胸と制服越しでも判明していた大きなお尻。
宿った瞬間に私達と同じ色合いに変化した容姿が、元々ある美少女感を更に格上げしたように思えたもの。おっぱいもとんでもない弾力だったわ⦅姉さんも深愛も百合の気質があるよね?⦆それがどうかしたの?
というか黒歴史として私の記憶に残る異性より同性の方が安心だもの。
(百合で結構。私達は同性でも子を成せるしね? 気にする必要なんて無いもの)
それこそ由良や仁菜と子を成す事も可能だし!
家のベッドでおっぱいを揉んだら嫌がられたけども⦅姉さん?⦆ごめんなさい。
ともあれ、裸のままきょとんとする生徒会長を横に座らせた実菜は、
「葬儀の後、定期便の欠航で途方に暮れていたら背後から押されて海に落ちた?」
「それって事故死?」
生徒会長の記憶を読んで首を傾げていた。
「事故死ね。誰が押したんだか?」
事故死。私達が途方に暮れた港から真冬の海へドボン。
「それなんて遺体を回収しないと酷い事になっていそうよね」
かつて兄さんと海外を渡り歩いた時、海に落ちた被害者の状態を見て引いたもの。
見るも無惨な有様で人の尊厳なんて無いも同然だった。
「なっているだろうね。昨日の昼過ぎに落ちて今が翌日の午後だよ?」
そう、実菜は言う……海洋生物の餌に成り果てているだろうと。
あの状態は餌になった結果なのね。海の中は本当に残酷だわ。
「幸い、今は冬場だから言うほど酷い状態ではないと思う。腐敗も進まないし」
「……」
「それを本人の隣で言うってどうなの? 少しくらい配慮しなさいよ」
「先輩も死んでいるって自覚はあるみたいだし。落ちて溺れて死んだって思った?」
「うん」
「だって」
酷な話だけど死んだ自覚があるならどうしようも無いか。
「でもさ? このまま戻す事も出来そうよね? 遺体も見つかっていないし」
実菜の思惑があるとはいえ、死して転生したも同然だからね。
しかし、私の提案は否定された。
「それは無理だと思う。遅くとも数ヶ月後には遺体が浮いてくるし」
「あー、それで所持品から、バレると?」
「先ずは歯形。遺体の状態によってはそこで判定されるから」
「そうかぁ。そこからもバレるんだ」
「死んでいるはずなのに、本人は生きていますなんて不都合どころの話ではないよ」
「そうか。出来ないかぁ」
「親族から行方不明の届出が出ていたら、捜索が開始されているかもだし」
実菜はそう言って、元世界の状況を私達に示した。
「テレビ?」
「それで合ってるよ。受診状況は悪いけど……父さん、庭先の方に置いてないか」
「今朝方、母さんが片付けろって言っていた気がするけど? 恥ずかしいから」
「それでか。間が悪いね……」
示したけど乱れまくる映像しか映らなかった。
父さんの世界から元世界の映像が映る方がおかしいのだけど。
「でも、行方不明のニュースが音声で流れているね」
『柳楓子さん、十八才。高校三年生が……』
「「先輩ってそんな名前だったんだ!」」
「私の名前、知らなかったの?」
「「生徒会長としか知らない」」
「ショック」
少々ボロボロの印象があったけど、意外と表情豊かな先輩に思えた。
というか名前的に……⦅ここでフーコが来たか⦆……バイセクシャルと被ったか。
「実菜? この際だから名前変えてあげない? 風評被害が出るから」
「そ、そうだね。下手すると出るかもね」
「風評被害?」
「ところで先輩ってどれ? ノンケ? 百合? 薔薇?」
「薔薇は流石に無いと思うけど?」
「じゃ、腐女子で」
「言っている意味が分からないのだけど?」
ここでオタク用語を使っても通じないよね。
私達は知識としてあるから通じるけど。
「なら、質問を変える。異性と同性、どっちが好き?」
「それは考えたこと無かったかも? でも、同性の方が気が楽かしら? 異性は胸とお尻に気持ち悪い視線が集中していたし。生徒会室でも視線が集中していたし……」
「そういう捉え方ね?」
好きとか嫌いではなく楽か楽ではないか、か。
恋愛とか興味なさげだもんな。生徒会が忙しくて。
結果的に先輩の新しい名前は姓の無いフウコとなった。
若干、ユーカ先生と同じ名付け方だけどね?
「フウコ。ほぼ変化無しと……」
「呼ばれて反応出来る名前の方がいいでしょ?」
「それもそうね」
その後、遺体について話し合う前に下着を創って着せた実菜だった。
「少々眼福だったけど、裸のままは、ね?」
「私、裸だったのね。気づかなかった」
「意外と鈍感? いや、天然か」
服装は元世界が冬場なのでスカートとタートルネックのセーター、レギンスとブーツを用意して、厚手のコートを着せたのだった。コートを着ると隠れるおっぱい!
白金髪碧瞳を除くと通学路で見かける先輩の格好だった。
「何か違和感が仕事しないね?」
「より美少女になった感あるよ」
「というか髪色が……白金髪?」
「「今、気づいたの?」」
その後、鏡を創って見せると驚愕して固まった。
「こ、これが、私!?」
私達の容姿に似ているから驚いたのかもね。
「東洋人の顔で白金髪碧瞳? 違和感が凄い」
「「そっち?」」
私達の顔立ちは欧州系だから違和感が無いのか。
◇ ◇ ◇
私と実菜はフウコを連れて、時間遡行の大扉を抜けた。
時間遡行の大扉を通ったのはフウコを殺した犯人捜しを行うためでもある。
過去の私達が居るかもしれない時間帯は向かえないが、山奥に向かう間ならどうにかなるからね。それでも妨害結界があるから、出来る事はたかが知れているけれど。
しかし、実菜は打開策があるのか、島の東側へと私達を案内した。
「海は時化ているけど、気にしても仕方ないからこれで行くよ」
「「ボート?」」
「小型ボートだよ。これは私のボートだけど」
「貴女、船舶免許、持っているの?」
「うん、持ってるよ。二級だけどね」
小型船の免許まで持っているとはね?
念話で問えば今の年齢で取れる免許は一通り取っているらしい。
それは結依さんも同じだとか言っていたわ。
実依さんは免許よりも食い気らしいけど。
実菜の操船する小型船は荒い海を突っ切りながら本土の港を目指した。
「船に酔ったらごめんね」
「私は大丈夫ですけど?」
「私は無理っぽい。ごめん、吐く」
「いいよいいよ。どんどん吐いて楽になろう!」
「大丈夫?」
「辛い」
荒れた海、舐めていたわ。
最初は大丈夫と思ったのだけど、ダメだった。
港に到着した時は凪いだ海に戻ったけど、気持ち悪さは残っていた。
すると実菜が、
「あ! あれは!!」
「どうかした?」
港を〈遠視〉したのか叫んでいた。
「そうきたか。バタフライ・エフェクトになってしまうから沈んでから回収するよ」
「そ、それってどういう?」
「今助けるとフウコがここから居なくなる!」
「私が居なくなる?」
「そうか! 命が救われるから?」
「フウコには悪いけど必要な死ってことかな。酷だけど」
「そういう意味ね」
実際に沈んでから数秒と経たず、死を意識したとフウコは言った。
「私、カナヅチだから」
「「あらら」」
胸に大きな二つの浮きを着けていても沈む時は沈むと。
沈んでから十分後、実菜は転移魔術で海底から遺体を引き上げた。
「綺麗な状態で回収完了。とりあえず、防腐処理だけして遺族に引き渡さないと」
確かに遺体は綺麗な状態だった。その表情は苦しそうな様子だったけど。
フウコは横たわる自身の遺体の右手を握り、
「ごめんね。私、落ちるような縁に立っていて」
悲しげな表情で一筋の涙を流していた。
それはフウコなりの後悔かもね?
実菜は静かに船を走らせ、妨害結界の縁まで移動させた。
このまま妨害結界が母さんの神力で消え失せるまで待つつもりだろう。
錨を降ろしたのち、静かに涙を流すフウコを一瞥しつつ実菜は呟いた。
「いや、あれはどうしようもないよ」
「実菜は何を見たの?」
「犯人。やりきれないけどね」
「どういうこと?」
実菜は語る、かつてのフウコが海に落ちる瞬間の出来事を。
「確かに先輩は縁に立っていたの。で、悪ふざけしていた分校の男子達が」
「ま、まさか?」
「ぶつかる形で押したのよ。そいつらは助ける事なくゲームセンターに逃げた」
「酷い」
「顔は覚えたから、神罰を落とすよ。逃げられると思うなかれね?」
「神罰は私もやる! 許せないもの!」
「おけ。悪ふざけで逃げた人殺し共だしね。相応の罰を与えないと」
もうね。今日ほど怒りの芽生えた日はないわね?
すると実菜が空を見上げポカンとしていた。
「か、母さんの神力糸?」
「凄いよね。ああやって削っていったのね」
確かに凄い。邪神の結界を喰らうように削っているもの。
しばらくすると時化た海が元に戻り、妨害結界も消え失せた。
「今から島に戻るよ。この遺体は島の砂浜へ、転移させておくかな」
「それは誰かに見つけてもらうため?」
「うん。私達が遺族の元へ連れて行くと疑われるからね。犯人だって」
「確かに」
仮に話が通じても「救ってよ」と泣きつかれるだろうしね。
「では、今から砂浜に送るね?」
「お願いします」
実菜は転移魔術で島の砂浜へと遺体を送り届けた。
翌日の夕方、島へと訪れた臨時の駐在が遺体を発見するのであった。
着任直後の災難ね?




