第80話 拾って知った穴。
Side:結依
吹有が見つけてきた新築物件。
元の持ち主を問うと母さんだった件⦅サプライズ!⦆要らぬサプライズだよ。
「母さんって本当にお茶目が過ぎるね。こんなに大きな家を用意するなんて」
「これはお茶目なのかしら? 大金が動く事案よ? 土地と建物の購入とか」
「どうにか家が買えたのはいいけどさ、それが大豪邸になるとか想定外だよ」
外観は内部の見えない塀で覆われ、入口に監視カメラが存在していた。
内部に入ると大きな車庫と駐輪場があり、庭プールまで完備していた。
建物こそ少し高い位置にある平屋だが、部屋の数がとんでもなかった。
普通に考えると掃除が大変そうだよ? 兄さん⦅がんばる⦆頑張って。
「ところで吹有は中を見ていたの?」
「ええ。簡単にね。ほら? 最近だと3Dで内覧が出来るから」
「ああ。実際に見に行ってはいないのね」
「不動産会社も内覧会で傷物にされる事を恐れていたみたい。前の持ち主が相当恐ろしかったのでしょうね、きっと」
ま、まぁ、持ち主が母さんだからね。
それこそ何かしらの脅しを行ってそうな気が⦅失礼ね?⦆怖がっているじゃん。
「仮に扉を設置するとしたら、どの辺がいい? 兄さん」
「奥の方が助かるな。確か……女神の庭を通すのだろう? あの眩しい」
「うん。そこが一番安全なルートだしね?」
「女神の庭を通るルートか。邪神の行動を考慮すると妥当ではあるけど」
「眩しいのよね? あそこ」
皆、思う事は一緒だよね⦅⦅失礼な!⦆⦆邪神避けには最高の通り道だけど。
私は大きな玄関から入り、奥の奥……。
神棚がある一室の壁面に扉を設置し、
「扉の奥、両脇に靴箱とか要るよね?」
「要るな。芋畑から通ってくるなら。というか……相変わらず眩しいな」
「それはあった方がいいわね。畳に直だと掃除が大変……目が痛いわね」
「結依が着けているサングラス置き場もね。本当に眩しいから」
「目が痛いですぅ」
内部にも靴箱を設置した。
もちろんサングラスを着けた状態でね?
その際に空間内を見ると転移門近くに小さいマンションが建っていた。
「は? さ、三階建てのマンション?」
「こちらだけでも部屋数は十分なのに、中にマンションだと?」
「「実菜ってば」」
「あれって眷属向けですかね?」
由良の言う通り、眷属向けの可能性はあるね。
「庭にもアパートがあるのにマンションまで。何を考えているのかしら?」
「まぁ私としては危険物を拵えないだけ、マシではあるけどね」
「あるいは姉さんの眷属が更に増える予測でも……立てたか?」
「その可能性が高いかもね。表に出せない眷属とか普通に居ると思うし」
例えるならユーカ先生とかね? 彼女は実依の神使なんだけど。
すると姉さんが深愛と共に一人の女性を連れてこちらに来た。
「どうよ? このマンション!」
「「「やり過ぎ!」」」
姉さんがドヤったら私と由良を除く全員から叱られた。
「「兄さんまでぇ!?」」
「いや、外の家の方が大きかったからな。空間内にまで建物が必要か? と思えてな。外の家は母さんが用意した家だから仕方ない話なんだが」
「「そうだったのぉ!?」」
あらら。姉さん達は知らされていなかったか。
庭の出入口付近で芋を収穫する母さんも教えていなかったと。
私は急にそわそわしだす姉さん達へと指をさして提案した。
「そんなに気になるなら扉の外に出て見てきたらいいよ。あ、靴は脱いでね?」
「う、うん。今から見てくる。深愛も行こう」
「え、ええ」
姉さんと深愛は興味が勝ったのか靴を脱いで本土の家に向かった。
姉さん達と一緒に居た女性は手持ち無沙汰という様子で私達を静かに見ていたが。
「……」
「あれ? この女性、何処かで?」
「そういえば、何処かで見た覚えがあるような? はて?」
「結依と由良が知ってる人?」
「「多分?」」
本当に誰なんだろう?
姉さん達にあとで聞いてみよう⦅ですね⦆。
一方、外に出て内部を見てきた姉さん達は大興奮で戻ってきた。
「凄かった! 大きな車庫とか駐輪場とか。港のバイクを置きたくなったよ」
「あとあと! プールもあった! 今の時期は入れないけど、夏場は楽しめそう!」
揃って知神だから興味がある場所を徹底的に見てきたようだ。
(私もバイクを置いておこう。あれだけ広ければレストアも出来そうだし)
姉さん達はアレがあってコレがあってと自分達が住み着く空気になっている。
私は興奮に水を差すようで悪いが二人を注意した。
「あの家は淫乱エロフが疲れを癒やす場所だから、私達は住めないよ? 後は兄さんの活動拠点でもあるから、必要以上に騒ぐと迷惑になるし」
「「そうだったのぉ!」」
だが、兄さんが苦笑しつつ姉さん達に許可を出した。
「まぁ本土の家は部屋が余っているから、別荘と思って過ごせばいいんじゃないか? 庭の家と違って、外の家は使わなければ直ぐに朽ちるから使ってくれると有り難い」
「「やったぁ!」」
「もう。兄さんってば甘いんだから」
「妹達が喜ぶなら俺はそれでいいよ」
「「「私達も妹なんだけどね?」」」
「芽依達も仮眠時に使ったらいいだろ。いの一番で果菜が居座りそうだけどな? 姉妹の中で本土の家に一番似合いそうな座敷童だし」
「「「「果菜なら絶対に居座る!」」」」
ここだけは姉妹の意見が揃ったね⦅座敷童とか言うなぁぁあ!⦆帰ってきた?
それはともかく、私は戻ってきた姉さんに女性について問いかけた。
「ところで、この方……誰?」
姉さんは苦笑しつつあっけらかんと教えてくれた。
「あ、あー、この人? 元生徒会長」
それを聞かされた私と由良はポカンだよ。
「「は?」」
マジで? どゆこと?
私達の留守中に何があったの?
◇ ◇ ◇
Side:実菜
結依から問われた私は思い出す。
元生徒会長を救った経緯を……最初はびっくりしたけどね⦅ええ⦆。
結依達が本土に行ってあれこれしている間、私と深愛は父さんの世界で⦅また危険物でも拵えたの?⦆違うって!
結凪からも疑われる私って……ぐすん。
「とりあえず、建築資材はこんなものかな」
「まさか神素結晶を砕いて粉にするなんて」
「これを魔力入りの水で捏ねれば絶対に壊れない建物が出来上がるよ、きっと」
「きっと? 実験はしなくていいの?」
「いや、似たような品ならリニアの経路で使っているからさ」
「もしかして……あの?」
「そうそう。そちらでは創って流してだったから、こうやって資材を確保する」
そう、言い合っていると神界の一角にふよふよと何かが浮いていたのだ。
「あれ? 何で?」
「何かあったの?」
「いや、魂魄が……」
「魂魄? え? 何でここに?」
神界に魂魄。普通ならあり得ないことなんだけど、それが漂っていたのだ。
気になった私は神力糸を飛ばし、漂う魂魄を確保した。
「これって人? 人族の魂魄が、何で?」
「どういう事? ここって神族しか入れない場所よ?」
「うん。もしかして神格があるのかな? いや、無いか」
「人の身で有ったら困るわよ。巫女ならともかく……巫女?」
「巫女か。巫女の適性有りってこと……いや、無いって!」
本当にあり得ない状況に出くわした私と深愛だった。
その後、詳しく調査すると渦を通った大きな塊の影響で、父さん世界に飛び込んできた魂魄だと分かった。これは異空間を漂流した魂魄と言えばいいか?
「大きな塊? それって?」
「おそらく、渦を通った時点で、例の、だよね」
実依曰く『百億あった!』の魂魄だ。
大きな塊が渦を通過した。かつての渦は通過する魂魄の上限が一日千人だった。
「もしかすると細切れを直前で圧縮した?」
「圧縮?」
「うん。圧縮して出入口で全解凍したのかも。インターネットのように?」
「それで大きな塊が?」
渦を通過したと。
そうなると私達が知らない。
否、気づいていない渦の脆弱性があるかもしれない。
大きな塊にすれば上限に引っかからない?
一つとして見られる?
「これはあとで実験してみるかな。もし通ったら、大きさの制限も入れないと」
「もし制限が無かったら、同じように飛んでくると?」
「おそらく」
ゲームを見ると年始にも侵攻するイベントがあったしね⦅マ?⦆油断ならない。
「まさか異空間を漂流した魂魄で脆弱性を発見するとはね」
「そうね。漂って神界に辿り着く魂魄の幸運値も凄いけど」
「深愛と玲奈、あとは結依も低いもんね。幸運値」
「うぐぅ」
三人の中で一番低いのは結依なんだけどね。
不運に出くわす頻度は結依が一番多いから。
「あちらでも校長の致している姿を目撃しているし」
「い、致している?」
「ヤブ医者もお股が緩い女性って事ね」
「そういう意味ぃ!」
深愛にとっては黒歴史だからこれ以上は言うまい。
何はともあれ、回収した魂魄を保管庫に移して記憶を消すのはもったいないので私の神使として利用しようと思った。神界へと現れるくらい幸運値も高いしね。
「神魔体でいいか。顔立ちは分からないから、宿らせての判断かな」
「そうね。この状態だと分からないわよね。元々が人族の魂魄だし」
そうしていつも通り神魔体を用意して回収した魂魄を宿らせた。
直後、
「「は?」」
出現したのは大変見覚えのある女子生徒だった。
しかも分校の先輩で、葬儀では一番ボロボロになった生徒だ。
「「生徒会長!?」」
驚きだよね。おっぱいも凄い大きいし。
お尻は元々大きいとは思っていたけど。
「会長ってこんな身体だったんだ」
「着痩せってレベルではないね?」
目測で測ると淫乱エロフに匹敵する大きさだった。
「ねぇ? 揉んでいい?」
「起きたら叫びそうだけど、いっか」
そうして私と深愛は生徒会長の胸を揉み揉みしたのは言うまでもない。
「「弾力、凄っ!」」
「んんっ!」
目覚めの兆候が出ても揉み揉みは終わらなかったが、
「……」
「「おはよう」」
「ここは?」
「「神の世界」」
「はい?」
彼女は怒る事も叫ぶ事も無かった。
単に混乱しているだけだと思うけど。
その後、彼女の記憶を読み取った私は困惑した。
「葬儀の後、定期便の欠航で途方に暮れていたら背後から押されて海に落ちた?」
「それって事故死?」
「事故死ね。誰が押したんだか?」




