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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第三章・やる事が一杯で目が回るかも?

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第79話 不可解な行動力。

 結依(ユイ)さんと校内を巡ると校長室の付近から妙な声音が響いてきた。


「こ、これって?」

「あー、致している最中、かな? 本当に不謹慎な輩だよ」


 結依(ユイ)さんは嫌悪の雰囲気を纏いつつ校長室の扉を少しだけ開いた。

 その途端、聞くに堪えない声音が廊下にまで響いてきた。うわぁ……。


「本校の校長も更迭で良いとさえ思えるよ。これを見るとさ?」

「神聖な学び舎で何をやっているのか?」


 すると結依(ユイ)さんは下半身を晒したヤブ医者を視認し過去視を行使した。


「うわぁ……こいつ、根っからのビッチだったか。昼過ぎからの合コンに行きたいからって、うわの空で診断したみたい。こんなのが副院長だったとか信じられないよ」

「えぇ」


 それなんて、もうさ? 人の命を何とも思っていない極悪人と同列じゃないかな?


「果ては医療ミス、解雇されて然るべき人物だったと思うしかないね。この際だから頭頂部に載っかるヅラを取っ払うか。ハゲが御開帳となるけど、仕方ないしね」

「もしかしてそれを罰にすると?」

「いやいや。これはまだ準備みたいなものだから」

「準備?」


 結依(ユイ)さんは神力糸を指先から伸ばして天井よりカツラを引っ剥がした。

 途端に現れる艶々とした頭皮。この様子だけ見ると人形と致しているように見え?


「ん? に、人形? 人が人形になった?」


 一瞬で人形に変化し、声が消え、反応を返さなくなる。

 校長は気づいていないが、人形は力無く揺れるだけだった。


「流石は母さんだ。これを想定して育てていたのね。あの新種」

「も、もしかして、芋?」

「もしかしなくても芋だよ。実依(マイ)と同じように胃の中へ転送したの」


 一瞬過ぎて目を疑ったけど、芋を転送した途端に球体関節を持つ人形に化けた。

 人形を揺らしている校長は気づいていないが、事後に気づいてポカーンってなりそうだ。だって、先ほどまで抱いていた用務員が人形に化けたから。

 それこそ目の錯覚と思いそうな、そんな変化だった。


「これをカメラで撮影して地元新聞社へ投書して……公立高校の学校長、校長室で人形との性行為に励む! 問題行為として教育委員会に呼び出される事案発生っと!」

「ま、まさか、これが神罰?」

「ううん。これは校長への神罰ね。ヤブ医者は別だよ!」


 ああ、校長は校長で裁くと。

 神聖な学び舎の一室で、用務員との性行為を最高責任者が平然と行えばね。

 生徒達への示しが付かないって事で。

 しばらくすると校長も違和感に気づいたのか腰を振るのを止めた。


「は?」

「……」


 正面を見ると毛の無い無表情の人形が力無く項垂れているだけだった。


「に、人形? え? 揉栗(モグリ)さんは何処に?」


 いやいやいや、正面に居るでしょ?

 直後、校長室へと一本の電話が入る。

 呆然としている校長は簡単な処理だけ済ませて⦅小っさ⦆う、うん。

 手を拭っていつまでも鳴り続ける電話に出た。


「は、はい……き、教育長!? え? は? はぁ!?」


 早速、地元新聞社が動いたと。

 学校に訪れることなく教育委員会に突撃取材を敢行したのね。


「味方にすると心強いよね。あの新聞社。敵に回すと面倒だけど」


 結依(ユイ)さんは満面の笑みでブツブツと言っているが、校長室で電話を受ける校長はそれどころでは無かった。ズボンとパンツを脱いだ格好はいただけないが。

 すると私達の背後から女性教師が訪れて、


「校長先生、失礼……キャー!」


 案の定、大きな声で叫んだ。


「とんでもない事態に陥りましたね?」

「下半身露出の学校長。応接テーブルには半裸の人形が一体。何処からどう見ても事案だよね……。ただ、問題の人形を放置すると面倒が降ってくるから回収してっと」


 結依(ユイ)さんは大騒ぎに乗じて人形を〈空間収納〉へと片付けた。

 当然ながら人形内の汚物を神素還元したのち、神聖力の結界で覆っていたけども。


「結界で覆った理由は?」

「少なからず汚いから。衣服にもべったりでしょ。そのまま片付けるのはちょっと」

「なるほど。それで覆ったと」


 テーブルに存在していた人形が消えている事に誰も気づいていないが、


「後はテーブルの残り香だけが漂うと」

「本当に臭いよね。何をやっているのやら」


 事後の匂いだけはどうあっても残るのであった。

 女性教師の叫びを聞いた先生方も集まってきた。

 私達は校長室前から離れ、校内にあるとされる用務員室に向かった。



 ◇ ◇ ◇



 御年三十九才のヤブ医者を用務員室にて取り出した結依(ユイ)さん。

 私達も〈隠形〉を解き、畳に転がる人形を静かに眺めた。

 校内の喧噪と部活動の声音が響き渡る用務員室。

 私はその際に気になった事を結依(ユイ)さんに問いかけてみた。


「ところでこの人の魂魄はどうなっているので?」

「ん? 魂魄はあるよ。本人は身体が動かないって騒いでいるけど」

「ああ。あの芋は肉体だけを変化させると」

「主に肉体組成だけね。動かないし痛みも無い。神経も一時的に作り物に変化しているみたい。例えるなら人体模型かな? 部品毎に取り出せる、あの」

「人体模型ですか」


 そう言われれば人体模型にも見える。

 球体関節以外の部位に亀裂が入ったような線が見えるし。

 結依(ユイ)さんは人形の服を神素還元で消し去り裸にした。


「こんな感じで薄い胸も簡単に開胸出来るしね? ほら?」

「あらら。汚らしい心臓が丸見えだぁ」

「開胸された本人はギャーだけど。うるさいな」

「もしかして目だけは見えると?」

「いや、部分的に感覚があるだけかも。眼球を取っても反応が無いし」

「でも耳は聞こえるみたいですね。言葉に反応しましたから。眼を取ったって」

「ふーん。耳だけが有効のままと。まぁいいか。罰を伝えるには好都合だ」


 結依(ユイ)さんはそう言って、耳元でボソボソと罰を語っていた。


威士(イシ)揉栗(モグリ)。貴様は多くの患者を救う腕のある外科医でありながら人の命を軽んじた。その罪により……」


 そう、言った後、急に思案する結依(ユイ)さん。


「人体模型の刑に処す」

「結局、現状維持ですか?」

「まぁね。神罰とすると一日限定が解除されて永久になるみたいだから。こいつは元々外科医だし、その身体を後輩の育成に使われて本望でしょ?」

「何か、嫌だって言っていますけど?」

「我が儘だな。それなら、査石(シライシ)優果(ユウカ)の遺族に吹き込んだ医療ミスの嘘。その真相の露見も追加しようか。末期ガンを胃潰瘍と誤診した事。検査結果を見ようとせず、合コンに行きたいがため、うわの空で診断した事とか、ね」

「でも、それをすると元々居た病院にも迷惑が?」

「影響は出てしまうけど、これも院内の膿み出しみたいなものだから」


 結凪(ユナ)さんなら甘んじて受け入れると語った結依(ユイ)さんだった。

 人形に聞かれると面倒なので念話で行ったけど⦅誘った私がバカだった⦆あらら。


神月(カヅキ)先生なら何処に行っても通用するしね」

「そうですね。国内で干されても海外という手もありますし」


 それは管理世界という海外だけど⦅それしか無いわね⦆診療所も閉鎖か。


「露見させないでとか騒いでいますが……自分勝手が過ぎますね」

「そうだね。ん? あら? この人形の魂魄……邪神色に染まってる?」

「マジですか?」

「うん。そうなると綺麗さっぱりコースが決定か」


 あらら。威士(イシ)揉栗(モグリ)は邪神に染められし者だった。

 結凪(ユナ)さんも気づけなかったって事か⦅……⦆愕然としている?

 そうして結依(ユイ)さんに回収されたヤブ医者の魂魄は、私達の神力で黒く塗りつぶされ、綺麗さっぱり世界から居なくなった。

 最後に残ったのは病院を巻き込んだ誤診事案と中身の無い人体模型だけとなった。


「結局、主な原因は邪神にあったと」

「やりきれないですね」

「淫乱エロフを本校行きとしたのも、あちらでの片付けの邪魔をするためだったと」

「そうやって眷属達の戦力を、少しずつ削るつもりで居たのかもしれませんね?」


 こうして結凪(ユナ)さんを振り回した事案は多大な傷跡を残して幕を閉じた。

 ちなみに、件の人体模型は結凪(ユナ)さん経由で卒業した大学に寄贈された。

 この膿み出し以降、医師として表舞台から去る事になった結凪(ユナ)さんは、


⦅色々あったけど、丁度良かったわ。これで本格的にあちらにも関われるからね?⦆


 問題医師の任命を行った重い責任により診療所からも完全に手を引いた。

 診療所も本院の命で閉鎖され緊急時はドクターヘリで本土に向かう事になった。



 ◇ ◇ ◇



 その後の結依(ユイ)さんはバイク屋を経由して芽依(メイ)さんの会社に立ち寄って、お茶を淹れてもらっていた。兄さん、久しぶり⦅元気だったか?⦆うん!


「学校長の恥ずかし事案があったとしても、出された辞令は覆らないと」

「それこそ、でき婚の養護教諭と卒業生には多大な不幸が訪れそうね?」

「それって、誰が落とす神罰なのよ?」

「邪魔された夏音(カノン)姉さんとか?」

「「あー、やりそうだ」」

「姉さんならやるだろうな。絶対に」

「「「実弟の公認か」」」


 立ち寄った主な理由は淫乱エロフが本土で過ごす家が見つかったからだ。


「この間取りとかどう?」

「これいいね……ん? 新築? 新築なんてあったの?」

「ええ。伺ったら新築だったわ。学校からも近いし、どうかしら?」

「ここの土地の持ち主は誰なの? この金額とか私の出せる金額と一緒なんだけど」

「「「……」」」

「何? その沈黙?」

「か、母さんだったのよ」

「「ふぁ?」」


 え? どういうこと?

 吹有(フウ)さんが本土の家を探して見つかって、そこが新築だった。

 だが、提示価格が結依(ユイ)さんの出せる金額と同じできょとんとなり、問いかけると建物と土地の持ち主が母さんという。


「いや、だって……この偽名は母さんでしょ?」

「う、うん。母さんが良く使う偽名だね……。何してるの? あの人?」

「普通に過去へ飛んで用意してそうな気がする」

「つまり、私のお金が母さんの懐に入るだけ?」

「「「そうなる」」」

「なんだこれ?」


 そんな不可解な事情はともかく、新築契約をする事にした結依(ユイ)さん。

 契約主は年齢的に兄さんの名前なんだけどね。実年齢はともかく未成年だから。

 そうして吹有(フウ)さんが粛々と手続きを進め、その日の内に引き渡しとなった。


「流石に速くない?」

「宅建を持ってる吹有(フウ)に任せておけば安心よ」

「で、ここがその建物と」

「おっきい!」




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