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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第三章・やる事が一杯で目が回るかも?

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第78話 想定外の出来事が多発。

 Side:由良(ユラ)


 島からの定期便に乗って本土に渡った私と結依(ユイ)さん、


「ところで病院まではどのようにして向かうので?」

「そこは……あれを使うかな?」

「あれ?」


 淫乱エロフと船着き場で別れて港にある駐輪場へと足を運んだ。

 何故、駐輪場へ向かうのか分からなかったけど、到着して理解した。


「ここからはこれに乗って向かうよ」

「こ、これは?」


 そこに有ったのは紫色の否、見る角度によって色が変化する、不可解な塗装を施した単独移動を行う乗り物だった。というか兄さんが乗っていた乗り物と同型だよね?


「私のバイクだよ。隣にある真っ白いのは姉さんのバイクね」

「え?」


 それは兄さんと行動した時に乗った単独移動の乗り物と一緒だった。

 でも、確か……これに乗るには特別な許可証が必要だったはず。


「これって許可が無いと乗れないとか聞きましたけど?」

「大丈夫だよ。私も姉さんも持ってるから、自動二輪の免許証」


 も、持ってる? 何処で取ったの?

 それ以前にいつ取ったの?


「この免許は私学に居る間に取得したの。あちらでは乗る機会は無かったけど。こちらに帰った時だけ定期的に乗っているの。ただ、今の学校では許可を取っていないから乗る時は本土限定になるけどね? 確実に校則違反だから」

「そう、なのですね……。ところで実依(マイ)さんは?」

実依(マイ)は持ってないよ。私のバイクに付け足したサイドカーに乗るから」

「姉さんと結依(ユイ)さんだけと」

「そういうこと。私達が免許を持っている事は若結(モユ)達にも内緒だから、山奥に行った時は黙っていたけどね。私達だけならこれに乗って向かっていたと思う」

「なる、ほど」


 それで、そそくさと駐輪場に向かったのね。

 淫乱エロフに見つかったら確実に咎められるから。

 あの先生も高校に属している以上は私達を叱る側だし。

 私達への願いとこの件は別だもの。

 結依(ユイ)さんは鍵穴へと、焼き芋のキーホルダーを付けた鍵を差し込んだ。

 キュルルルルという音が響いた直後、轟音が周囲へと響き渡った。


「久しぶりに動かすから暖機運転は念入りにしないと。あと、エンジン周りの錆びも目立つから適当なところでレストアかな。やっぱり港に置くのは止めた方がいいか」


 結依(ユイ)さんはブツブツとバイクの一部を動かしたあと〈空間収納〉より頭をすっぽりと覆う兜を取り出した⦅ヘルメットだよ⦆そういう名称と。


「サイドカーでも何があるか分からないから、由良(ユラ)も被ってよ。こんな感じで」

「分かりました」


 私は結依(ユイ)さんに示された通り、ヘルメットを被った。

 私の場合、ショートヘアだから簡単だったけど結依(ユイ)さんは髪を一度解いて結い直してから被っていたよ。髪が長いと被るのも大変なんだね。

 しばらくするとバイクからリズミカルな音が響き始める。


「暖まったかな。冬場は念入りにしないといけないから少し時間がかかったけど」

「そうなのですね」

「帰りにオイル交換もしないとね。燃料はギリギリか……先に給油かな」


 指示された通りサイドカーに乗って結依(ユイ)さんが走り始めるまで待った。

 こちらの乗り方は分かっていたけどね。兄さんのバイクに乗ったことあるし。


「兄さんのバイクか。羨ましいな」

「そ、そうなので?」

「私達は滅多に会わなかったから」

「それで」


 顔を覆うヘルメットのお陰で結依(ユイ)さんの表情は見えないが、何処か遠い目をしているように感じられた。私達姉妹が独占していたようなものだもんね。

 あれも母さんの指示で行動を共にしていただけなんだけど。

 バイクに跨がった結依(ユイ)さんはガチャガチャと音を響かせ音のリズムを速くして動かし始めた。以降は燃料を補給するまで沈黙の空気に囚われた私であった。


「現金でハイオク満タン、お願いします」

「ハイオク満タンですね!」


 結依(ユイ)さんと店員の言っている意味は分からないけど、ツンとする匂いが鼻に入ったと思ったら、ヘルメットを脱いだ結依(ユイ)さんが電話していた。


結凪(ユナ)。今着いた。といっても近くのガソリンスタンドだけど。そう」


 病院へ着く前に何かしらの段取りをするつもりだろう。


「え? 居場所が分かった? うん、うん、そこに居たかぁ。りょうかい!」


 電話を聞く限りだが、あちらの状況が少々変わってしまったらしい。

 電話を切った結依(ユイ)さんは店員へと代金を支払った後、ヘルメットを被り直して私に事情を語ってくれた。


「突然だけど病院に行く必要が無くなったよ」

「どういう事ですか?」

「ヤブ医者の居場所が判明したの。どうもね? 今は高校の本校に居るって」

「はい?」


 何故? そこに?

 それが私に浮かんだ一番の疑問であった。


「以降は走りながら教えるよ」

「はぁ?」


 良く見ると背後から車が近づいてきていて、さっさと出ろと睨んできた。

 それで走りながら念話で教えてくれると。


⦅あの腐れドライバーめ。ちょっとの時間でしょうに⦆


 念話が繋がった瞬間からお怒りになっているけどね。


⦅それよりも、どうして本校に?⦆

⦅そうそう。そっちが本題だったね⦆


 信号待ちに入った頃合いに結依(ユイ)さんは状況を語ってくれた。


⦅島流しの後、あちらで医療ミスをしてしまったらしくて。事実上の解雇となったそうなの。因果応報とは良く言うけど、絶賛無職の医師が地元に戻って来たという訳⦆

⦅む、無職になって地元に戻った? そこから何故本校に?⦆

⦅大学の同期のコネだよ。医師としては雇えないから用務員としてだけど⦆


 用務員……医師から落ちるところまで落ちたのね。


⦅ただね、口から先に生まれたのか知らないけど用務員のくせに内部人事にまで口出しする輩でさ? 今回の辞令も一枚嚙んでいるみたい。本当に困ったヤブ医者だよ⦆

⦅そんな事になっているので? コネで入って……⦆

⦅医療ミスして解雇となったのに。根っからの厚顔無恥なんだろうね、きっと⦆


 えっと、自分が医療ミスして解雇となったから結凪(ユナ)さんも同じ状況になれと、あんな事をやってのけたの? 大元を辿れば自身の誤診なのに? 酷すぎる。


⦅それと結凪(ユナ)が言うには、コネで入った時、医療ミスの件は伏せていたみたい。不当解雇に遭ったとか文句たらたらだったそうだよ。これは大学の同期との酒の席で聞かされた愚痴らしいけどね。何でも共通の友達だとか言っていたよ⦆

⦅それって困っているから助けたのに、自分の顔に泥を塗る行為をされたから?⦆

⦅まさにそれね。学校長を誘惑して人事に嚙んで、校内で好き放題らしいから⦆


 その同期の友達は周りから白い目で見られるまでになったそうだ。

 問題の多い用務員を寄越してくれたなって感じかぁ。酷だなぁ。


⦅と、とんでもないヤブ医者ですね⦆

⦅ほんそれ⦆


 念話で話し合っている内に、本校の校舎が見えてきた。

 改めて見ると大きいね。編入試験の際に訪れたきりだけど。

 結依(ユイ)さんは人気の無い場所を探し出し、人払いの結界を展開してバイクを停車させた。私が降りると〈空間収納〉へとバイクとヘルメット等を片付けた。


「ここでの無断駐車は罰金刑だからね。学校にバレると優良生徒でも停学だから」

「それで人払い結界を張って周囲の人の流れを変えたと」

「バイクの出し入れなんて見せられないでしょ? 何処に消えたって騒がれるし」

「確かに」


 本来なら使えないスキル群。私達は女神だから特別に使えるだけだ。

 管理世界なら気にする必要は無くても、こちらでは未知なる行いだもんね。

 下手したら、科学的に証明したがる面倒な輩に捕まってしまうしね。


「さて、ここから校内に侵入するよ」

「侵入? 普通に入ったらいいのでは?」

「いや、私達はこの高校の生徒でもあるけど、所属は分校だよ?」

「あっ」


 そうだよ。分校の所属だから顔見知りは誰も居ない。

 居ないって事は何処のクラスの生徒か教師の誰何が発生するね。


「見知らぬ生徒が校内に居る。自分で言うのはあれだけど、美少女でしょ?」

「そ、そう、ですね」

「美少女が二人居る。その時点で部活組の生徒達が周囲に集まってくる。それだと本来の目的が完遂出来ない。てことで、ここから先は〈隠形〉で侵入するよ」

「それが一番安全であると」

「そういうこと!」


 確かに〈隠形〉してから校内を進む方が無難だろうね。

 邪魔者が大量発生して目的の人物を見る前に教師達が現れて文句を言われるから。

 文句というか何故本校に現れた的な。本校見学と言えば済むと思うけど、それを言うと生徒会入りしないといけなくなる。本校と交流しているのは生徒会だけだしね。

 生徒会入りしたら最後、本来の仕事が出来なくなるので勘弁してもらいたいし。

 私と結依(ユイ)さんは単位を取得した優良生徒でもあるから狙われているし。

 校内を〈隠形〉状態で進むと校内の各所から部活の声が響いてきた。


「葬儀の翌日でも運動部の生徒は関係無し、か」

「何処もそんなもんだよ。私学もそうだったし」

「なるほど」


 結依(ユイ)さん達は私学から公立に移ったもんね。

 余所の高校を知るからこそ言える言葉と。

 ブーツの足裏に積層結界を張った私達は廊下を進む。

 これは土汚れで騒がれないようにするための措置だ。


「何か、悪い事をしている感が凄まじいですね」

「廊下を外履きで進めばね。ただ、スリッパだと〈隠形〉していても響くから」

「積層結界が無難と」

「私達しか出来ない事だけどね。おっと、淫乱エロフと御対面」

「は?」


 私達の進行方向より大量の書類を胸の前に抱えた淫乱エロフが歩いてきた。


「あれ、本来の胸が表に出ている時とか、持てないよね」

「ですね。書類を弾き飛ばしてしまいますから」


 すれ違い様、チラッと視線が合ったような気がする。


「知覚された?」

「私が与えた魔眼が作用したのかも。何も無いところに誰か居るって感じで」

「とんでもない魔眼ですね」

「顔立ちまでは見えないから大丈夫だと思う。見えても薄皮一枚剥がした姿だし」

「それはそれで微妙な気分」


 すれ違ったあとに振り返ると立ち止まっては振り返る、淫乱エロフと目が合った。


「あれ? 笑顔になって進んで行きましたよ?」

「感づいたって事ね。本校に目的があって訪れるスキル行使者は限られるから」


 そ、それで私達と気づいたと。




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