第74話 不穏なクリスマス。
Side:結依
実依が満腹刑の神罰を落として元々あった胃ガンで亡くなったユーカ先生。
何故か私達の管理世界に転生していて実依の気まぐれで救われた。
その際に実依が先生の記憶を読んで真相を明かしてくれた。
「で、贈収賄の真相がこれかぁ?」
「参ったね。認可されていない治療薬の支払いとか」
「公立高校の給金では賄えないよね。この金額だと……しかも仕送りしながらだし」
「そもそも無認可でしょ? その担当医、名前の通りモグリだったんだね?」
「一応、医師免許を持っているからどうだろう?」
神罰も状況証拠だけで落とすのは間違いかもね⦅反省だよ⦆反省だね。
それこそヤブ医者については徹底調査して落とそうと思った私である。
それと知結から事情を聞いた結凪も協力してくれるようだ。
⦅モグリの情報なら私が提供するわよ!⦆
大学の同期、病院の立ち上げから関わっていた同僚だけに詳しそうだ。
後は私達や結凪を睨んでいた両親にも大きな問題があった。
弟も同様に問題ありまくりの人物だったよ。
「賭け事? 先生からの仕送りで賭け事って?」
「年金暮らしで賭け事かぁ。これって馬かな?」
「馬かもね。弟も大音響のする店舗に出入りしているとか」
「こちらは引き籠もりではないニートか。やりきれないね」
「ほんそれ」
先生の記憶を洗い一覧にして読むと同情してしまうよね。
結凪への訴訟も、自動預払機が居なくなったから徹底的に搾り取れの精神で行うつもりかも。だとしても、弁護士費用で今まで以上の素寒貧になると思う。
「変顔遺影も普段から実家へ帰っていないから」
「高校時代の卒アルから抜き出したのね。酷な事を」
「ある意味で黒歴史を衆目に晒したようなものだね」
「街中でね。厚顔無恥とはこの事かな?」
なお、私達が記憶一覧を元に話し合っている間、
『こ、この空間を実菜さんが創った?』
『そうよ。凄いでしょ?』
『姉さん。自分が行った事のように言わなくても』
『私達の姉だし。自慢してもいいでしょ?』
先生は仕事を終えた深愛達の案内でステーション内を巡っていた。
今後の生活はステーション内に限るから案内は仕方ないかな?
産まれが産まれだから地表にも地底にも出歩く事は無さそうだし。
「先生。今世では生徒から好かれる教師になるかな?」
「お節介と踏み込み癖が無くなればどうにか、かな?」
「先生も思う所があるみたいだし、私は大丈夫と思いたい」
私と実依は街中を進む先生を一瞥しつつ記録した一覧を眺める。
「これね。生徒達から好かれない事が悩みの種と。果ては胃ガン、か」
「うん。お節介の自業自得で片付けるには?」
「少々難しい問題だね。実家もこれだし」
「賭け事に励む両親と弟か。浪費に対して疑問視しないのはどうかと思うけど」
「この両親も弟も外面だけは良かったのかもね。先生は疑問視することなく」
「両親と弟を養う事が当然と思って馬車馬のように働いて体調を崩した、か」
「そこに無認可の治療薬。担当医が結凪だったなら良かったのに」
「結依以上に幸運値が低そうだね? 男運も無かったし」
「ひ、低いかもね」
そ、そんな過去はともかく先生は一度リセットされているからか高くなっていた。
とんでもない重しを背負わせられて実依の神罰がきっかけで死亡した。
今世も実依から拾われるまでは最悪の一途を辿っていたが、
「女神から直接救われるのは幸運以外の何ものでもないよね」
実依から救われたことで不幸が幸福に反転したのかもね。
って、この声は姉さん?
「「姉さん?」」
私と実依が振り返ると巫女服姿の姉さんが立っていた。
「結依の帰りが遅いから迎えに来たよ」
そうだった。
実依にケーキを届けたら直ぐに帰る予定だったんだよね。
食後は年末年始の祭事について話し合う事になっていたから。
姉さんは窓際に寄りかかり街中を歩く先生を一瞥して呟いた。
「で、あれが……ユーカ先生と。育ったね、おっぱい」
「「そうだね」」
以前は平面族かってくらいに小さかったから。
老けた方のユウカ、薄い方のユウカとも呼ばれていた。
主に男子達からね。厚い方は保健医だけど。
「外見だけなら貴族令嬢か。行き遅れ感は拭えないけど」
「この世界の成人年齢は若いからね」
「亜人族なら若すぎるけど」
なお、生殖方法は人族だから従来通りだった。
男性と重なることで子を成すと。
私としてはもったいないと思えたけどね。
隅々まで見てしまった手前、興味が、ね?
「「結依ちゃん?」」
「な、何でもないよ」
「「いい加減、認めなよ?」」
こ、この姉妹は……。
(毎回、聞いてくるよね?)
どれだけノンケと言っても認めてくれない。
(た、確かに同性への興味はあるよ?)
でもそれは異性に興味が持てないだけだから。
(周囲は下品な男だらけ……私も男運が無いな。先生の事、言えないや)
ニヤニヤと私を見つめる姉妹。
イラッとした私はすっぽーんと実依のお尻を抜き取った。
「わ、分かったよ! 認めるよ!」
「ちょ! お、お尻、返してぇ!?」
「私は女の子が好き! 実依のお尻も大好き! これでいい?」
「言質、取った!」
「あっ!」
もう、ノンケとか絶対に言えなくなったよ。とほほ。
「私のお尻、返してぇ! す、座れないからぁ!」
でもま、男共の格が少ない現状だと女性の格を狙う方が無難かな?
私達はどちらが相手でも子を成せるしね?
(男相手に股を開く……もうしたくないや。気持ち悪いし)
今後は素直になろうかな⦅認めてしまったか⦆結凪?
私は引っこ抜いた実依のお尻を丁寧に揉み込みつつ違和感に気づいた。
「それよりも実依ちゃん。太った? モチモチだよ」
「ふぁ?」
「あらら。太ったの? あー、これは焼き芋の食べ過ぎだね?」
「うぐっ!」
「これだけ大量の焼き芋がテーブルにあればねぇ」
「流石の神体も受け入れ拒否したのかな?」
「そ、そんな事は、無いと思いたい」
「それなら体重計に乗る?」
「お尻返すから乗ろうよ?」
「い、今はいいです」
実依も現実を直視しないとね。
私に認めさせたのだし⦅言い返せない⦆ね?
◇ ◇ ◇
体重計に乗せた結果、実依の体重が倍以上に増えた件。
お尻だけでなくお腹周りにも贅肉が⦅言っちゃダメ!⦆あったから。
「実依ってば、非番の日に権能封印して潜ってくるって」
「それって仁菜の迷宮?」
「だと思う。身体を動かさないと消費しないからね。焼き芋のカロリー」
「私達も気をつけないとね?」
「商品開発の度に食べているし」
実依の体重を母さんに問えば、
「単に神体が処理出来なくなる食べ方をしたのでしょ。超えた分が身体に反映されただけだから。従来通り運動すれば解消するわよ」
と、経験があるような回答を得た。
「わ、私達もジム通いする?」
「それがいいかもね。スカートのホックが締めづらくなっているし」
「芽依のお尻だけ急成長?」
「違うわよ! 身体が育ったら全員育つでしょうに」
「「だよね」」
私も姉さんもお尻が育ったという実感は無いし。
実依が異常なだけで私達は変化が無かった。
それはともかく、溜息を吐いた芽依が一通の手紙を渡してきた。
「これ。結凪からの情報」
「あー、助かるよ」
それは女医に関する詳細情報だった。
出身地とか家族構成とか。
どんな性格とかね。
「それと、裏の調査だけど」
「判明したのね」
裏の調査。母さんが芽依を連れて祠へと行った事だろう。
過去視で調査して誰が施したのか。
「ええ。困った事に」
「「何が見えたの?」」
困った事? 一体、誰が行ったのか?
「目と鼻の先。そんな所に居たかって相手が見えたわ。猟友会では無かったの」
「「はい?」」
「母さんも手出しが出来ない相手よ。だからこそ、島を覆う妨害結界が張れたのでしょうけど。私達の行動も相手には筒抜けだから、気をつけることね」
一体、どういう事だろうか?
筒抜け? それってつまり?
「駐在よ」
「「ふぁ?」」
マジで? 駐在といえば……あの?
赴任時に「島の安全を守ります」って体で挨拶まわりしてきた人の良いおじさん。
信用出来ない糸目だけど、普段の行動は信頼に値した人物だ。
その駐在が? 実は敵?
「それは手出し出来ないね。公務執行妨害とか言われたら」
「神社の奥様でも一瞬で前科者だよ。記憶を消すとしても」
「相手が邪神の親玉なら記憶を戻すくらいはやると思うし」
「それでか! 姉さんと深愛が近づくと必ず腰が引けるのは?」
少しでも距離を取りたい的な動きを示して颯爽と神社から離れて行く。
「残念だけど駐在は親玉ではないわ」
「「違うの?」」
「部下であるのは確かね」
「あー、部下か」
「つまり監視の目ね」
「そうなるわね。但し、厄介な事に駐在は時空神の権能持ちよ」
「「マ?」」
そういえば兄さんが帰ってきた時も本土の会議とか言って島から離れていたっけ。
交番はもぬけの殻となり、その時だけ島内で空き巣騒ぎが勃発した。
空き巣共に反撃した家主が感謝状を受け取ったのは記憶に新しい。
誰とは言わないけど⦅トサカ?⦆捕縛したんだよね。
しかし、時空神の権能持ちかぁ。相手が悪すぎる。
「そうなると私達の行動はバレてる?」
「分社を使った事よね?」
「「うん」」
もしバレていたら何らかの対応に出られると思うから。
「バレてはいないでしょ。島内の、大通りを抜けたのならともかく」
大通りか。港から神社に向かう時、大通りを必ず通るもんね。
大通りは参道でもあるから通らないと向かえないのだけど。
「私達は神社の敷地から出ていないし」
「賽銭箱の隣に座っていただけだし?」
「あの子達も分社を経由して湯治に行っているしね」
「裏に向かうのも神社の敷地からしか向かえないし」
私達が島内に居る事。
今は気づかれていないと思うしかないかな?
油断は禁物な相手だけど。
するとリビング内にインターホンの音が鳴り響く。
芽依が代表して受話器を取った。
「どちら様ですか?」
『駐在です』
噂をすれば影がさすとはこの事か。
私達は庭から出なければ問題は無いが。
「少し出てくるわね」
「「うん」」
芽依は神聖力を伴った積層結界を張って社務所へと向かった。
「不穏だ」
「「分かる」」




