第70話 やるせない気持ち。
Side:実菜
期末試験と終業式が無事に終わり冬季休暇へと入る前日、
「げっ」
私が例のゲームを覗き込むと、頭の痛くなるイベント告知が目に入った。
それは恒例の大規模探索を行うという目を背けたくなるイベントだった。
「急に頬を引き攣らせてどうかしたの?」
「う、うん。試験中、控えていた例のゲームなんだけどさ」
「「「例のゲーム?」」」
「またも侵攻開始する的な告知が出ていて」
「「な、何ですってぇ!?」」
「侵攻開始? でも、解決したはずじゃ?」
「はず、なんだけどね」
本日の私は迫るクリスマスイブに向けて、芽依達の会社へと出向いてクリスマス商戦の準備を行っていた。女神がクリスマスって⦅仕方ないじゃない⦆。
準備に駆り出されたのは私と風結、亜衣と美加だ。
他の妹達は神社での年末年始の準備だったり、世界監視の当番に就いている。
上に居るのは結依と実依、深愛と由良。
玲奈と仁菜だけだ。年末年始の準備は若結と知結を筆頭に手隙の妹達が出向いている。巫女として⦅巫女服が可愛い!⦆。
但し、社会人組と海外出張の果菜は除く。
それでも各自の休日は世界監視の当番に就くけれど。
「どうも、学生達が冬季休暇に入るからか、次なる手を打つみたい」
「「次なる手?」」
「直前でアップデートが出るらしいから、私達が動くのは、それ次第かなって」
「それ次第って。アップデートを先んじて得る方法とか無いの?」
「配信サーバが更新されていればどうにかなると思うけど。今は無理かな?」
準備がひと段落して、スマホを取り出して、覗いた途端にこれだもの。
こちらが完全に解決したと思った矢先、問題行動に出張る邪神共。
深愛達の温泉休日は延期となるか⦅そんなぁ!⦆ドンマイ。
「そ、それってどんなイベントなの?」
「今までと同じだよ」
「「同じ?」」
「恒例の大規模探索。大勢で押し寄せて迷宮探索を行いましょうってやつ」
「い、今までと同じ……。で、でも、穴埋めはしたわよね?」
「したね。拡張枠も権限のある者以外は触れられないようになったし」
管理神器の拡張枠。
第零の勇者召喚は至音姉さんの権限だった事が後日判明した。
管理神器のログを拾うと自動承認の権限を魔導士長に一時貸与していたのだ。
人族に貸与。流石の私もポカーンだったよ⦅実菜乙⦆そ、そうね。
「当時は身内しか使わないって事で神核認証を入れていなかったけど」
「それで魔導士長に使われてしまったのね」
「普通は使えませんからね」
「普通はね」
それもあって神核認証を追加して貸与したとしても使えなくした。
善神かつ神以外は使えない。なりすます事も事実上不可となった。
「それって管理者不在でも使える枠だっけ?」
「うん。自動化前提の枠ね。自動応答も同じだけど」
「私達の手が離せない時に使う機能を悪用されたと」
「自動応答があるから安心してトイレにも向かえますが」
「美加はトイレに行っていたの? 不要なのに?」
「せ、生理は別ですから」
「「「ああ。生理かぁ」」」
美加の対応はともかく。
この次なる手がどのような手なのか、今の私には皆目見当がつかなかった。
「とりあえずアップデートが適用されてから再検証かな?」
今度はどのような権能が埋まっているのか?
或いは権能が消えて、ただのゲームに戻ったのか?
それらが判明するのは数日後になりそうだ。
「それこそ、こちらのイベントと被らないといいけどね。皆、年末年始は忙しいし」
「「「それフラグ!」」」
「フラグ? あっ!」
風結が面倒なフラグを建てたので、
「今度の当番は風結達を連れて行こうか。フラグを建てた責任で」
「責任!?」
地底の監視業務に連れて行く事にした私であった。
(先ずは若結と知結の予定を確認しないとね)
この三人が揃うと異世界観光を行いそうな予感がするが。
「責任、責任、責任」
「重く受け止めないで。今回は新神研修だから、そこまで気負わなくていいよ」
「わ、私が役に立つとは、到底思えないけど? まだ新神だし」
「だからこそ新神研修だよ。どうせ卒業後は一緒に働く事になるし」
「そ、それって就職って意味で?」
「永久就職って意味で」
「結婚じゃないのに?」
「結婚って。私が言っているのは一生解雇されない職場って意味なんだけど?」
「そっち?」
それに三人が加わらないと亜衣達と夏音姉さん達が十属性にならないし。兄さんは既に十属性だけど⦅何ですってぇ!?⦆驚きの新事実?
「「十属性!」」
「それもあったか」
「今は私の妹達と風結達。両親と兄さんだけだからね。十属性」
「「す、直ぐに認証して!」」
「時期が訪れるまでは無理だよ」
「「そんなぁ!」」
この三人が女神として管理世界から正式認証されると三人由来の電撃魔法等が解禁されるから⦅魔法が増えるのぉ!⦆増えるのよ。お陰で事象改変の幅も拡がるね?
「認証後は風魔法で起こしていた電撃も自由自在になるのね」
「電気的な魔道具も用意が出来そうですね。より発展しそう」
「残り物の人族にとって過ごし易い魔道具が増えるかもね」
「残り物の人族? それって召喚被害に遭った人達の事?」
「それしかないでしょ。帰るに帰れない人達が結構残って居るから」
「そんなに居るのぉ!?」
召喚被害者は割と多い。
地表は不要人物共なので数には入れないが。
分割体からの記憶によれば、夏音姉さんに救われていない異世界人が浮遊大陸に結構残っていた。その大半は人格を消された役立たずとなっているが。
「数名だけは第零の下敷きだったかな?」
「下敷きですね。人柱とも言いますが」
「魂魄は早々に消されているからどうかしら?」
「ひ、人柱も居たのね」
無事な異世界人も一応居るけど放逐されて苦しい生活をしているようだ。
そういった異世界人の縁が邪神の入り込む隙になるので追々救う予定だ。
直ぐに動けないのは仕方ないが。
「確か、汚ブジェになっている者も居たわね」
「居たね。連結されてしまった先輩達だけど」
「れんけつ? 先輩達?」
「例えるならBL的な」
「おぅ。それは酷だぁ」
そうなるに至った問題行為もあるのだけど。
彼らも追々だが再調査して解放する予定である。
「分割体共の尻拭い。終わっていなかったのね」
「その総数からして終わっていないでしょ。眷属達より多いし」
「少数だけ呼べば良かったのに」
「これも結局は至音姉さんにあるね」
「「至音姉さんが染められた結果と」」
ちなみに、実依が危惧した吸血鬼族の貴族令嬢。
予想通り種族改変を願った。貴族の地位を捨て去る事と、改変後の種族が選べない事を同意してもらい、由良の手によって神魔族なった。
それと地底世界だと狂化未遂を思い出すため、地表世界で新生活を始めた。
「ところでその貴族令嬢は何処に住んでいるの?」
「地表にある魔族の隠れ里だよ。地底だと楼国がある場所だけど」
「それって温泉がある?」
「温泉の管理責任者だね」
温泉の利用者が居ない時は好きなだけ入っていいと言ってある。
元々入浴が好きな子だっただけに、喜んだのは言うまでもない。
手伝いの後、芽依に呼び出された私達は、
「風呂好きの吸血鬼。元か」
「その子も転生者だったりしない?」
「流石にそれは無いと思いますよ」
廊下を歩みながら元貴族令嬢をネタに語り合った。
それは無いと美加は言うが管理世界は結構転生者も多かったんだよね。
魔王国に集中していたが記憶保持で転生している者達も何かあるかもしれないね。
「何かって?」
「思考を読まないでよ」
芽依に問われた私は芽依から給金を受け取った。
短時間のバイト代、そこそこ色を付けてくれていたようだ。
「いや、記憶保持転生とか簡単に出来ないでしょ? 基本消されるし」
「そうなんだけどね。渦の不調もあったからさ」
「「「あー」」」
「うず?」
渦と聞いて分かる者しか分からないよね⦅どゆこと?⦆研修で教えるよ。
今は芽依しか居ないけど、社員が入室してくるか不明だから。
◇ ◇ ◇
芽依から受け取ったバイト代を持って私達は銀行へと寄った。
それは亜衣と美加が「「貯金する」」と言ったからだ。
私と風結は洋服を買って帰るつもりだったが、
「私達も貯蓄しておこうか」
「それがいいかもしれない」
亜衣曰く『自分で創った方がいい』との助言で入金した。
「実菜のお尻に合う服は買えないもんね?」
「そ、そうだね。手に入れるとしてもオーダーメイドになるかな?」
「お尻だけのオーダーメイドとか恥ずかしすぎる」
「下手すると恥ずか死するよね。きっと」
入金後、定期便に乗るために港へ向かうと消沈気味の結凪が居た。
「あら? 今日って、診療所での勤務だったような?」
「何かあったのかしら?」
何故か消沈気味の結凪。
いつものボートではなく定期便に乗っていた。
気になった私は結凪の思考を読んでみた。
「あらら」
あの学年主任が実依の罰を喰らった事を知った。
「実依の罰かぁ」
「実依さんの罰ですか?」
「「何があったの?」」
「どうも大量の焼き芋を胃袋に……」
「「「おぅ」」」
言外の言葉で顔面蒼白となった亜衣達だった。
何があったのか知らないけど実依が罰したって事は相当な出来事があったのだろう。それこそ外に出ていた私達には言えない罰だね。
「事情はあとで聞けばいいか」
「それがいいわね」
「ですね」
「船が出るよ?」
「「「おっと」」」
風結の注意を受けた私達は慌てて定期便に乗り込んだ。
(失敗した? いや、助かってはいるか。経過観察が悪かっただけで)
結凪が消沈していた理由の一つは学年主任の死にあった。
焼き芋は仕方ないとしても、その下に隠れていた病に気づけなかったらしい。
看護師が異常に気づいて脈を取ると死んでいた。
司法解剖したところ末期ガンから出血していたようだ。
医療ミスではなく末期ガン。
(今回は死期が早まったと見るべきか。末期とか結凪でも無理だし)
神力を使えば救えただろう。
だが、神罰を与えられた者の場合は救えないのだ。
「やりきれないね」
「やりきれないわね」
「やりきれないですね」
「どういう意味よ?」
新神である風結も、いずれ分かる時がくるよ。




