第69話 診断は因果応報。
検査した日から二ヶ月後、保健所より件の結果が届けられた。
「やはり、異常無しとなったわね」
何処かのハゲが余計な事をした所為で膨大な量の検査をする羽目になった保健所から届いた結果は完全なる白だった。これも結局は至音姉さんを汚染して同化していた元低位邪神と徹夜の勉強会が悪さしたともいう。
「当面、公民館での夜間勉強会は禁止にするべきでしょうね」
届いた結果を精査した私は再診断として当時の状況を記しつつ⦅過労?⦆とした。
否、過労しか無いでしょう。これを分校へと届けて本日の私の業務は終了ね。
後処理は分校の学校長と教頭が決める事なので診断書類を認めた私は出かける準備を行って分校へと向かった。
(責任問題になるとしたら、役場の職員と学年主任だけになりそうね)
問題無いのに問題があると勝手に蠢いて事態を無駄に大きくした。
背後には大学の同期こと威士揉栗という元副院長が居た。
名前からして医者向きでは無いと言わざるを得ないが腕だけはあった女医だった。
頭の中は常に金儲けしか考えていない可哀想な同期だったけど。
なお、肝心の文化祭は二週間の延期の後、無事に開催された。
その時は学生だけではなく本土の本校からも多数の来場があった。
私は私で休日を潰された。娘達と巡っていたら救急車のサイレンが響いてきた。
「営業中止に追い込まれた実依がやけ食いしてボテ腹になって」
心配した学年主任が救急車を呼んで私が本土まで付き添う羽目になった。
心配しなくても実依のボテ腹は直ぐに戻るというのに。
診療所から分校へと向かう間の私は当時を思い出しつつ噴き出した。
「何度、思い出しても、噴き出す光景よね。あれだけは。ギャグか何かかしら?」
ドクターヘリの中、実依のお腹が萎んでいく様を見せられたから。
あの時は同行していた医師も目が点となっていた。
「仕方なく暴飲暴食禁止を言い渡して」
愕然とした実依は意気消沈したように渋々と頷いた。
管理世界の監視中に焼き芋を頬張り続けた実依だったが。
神体ならどれだけ食べようとも太らない。即座に吸収してしまうから。
本来なら肉体でも即座に吸収するが、その時の実依は機能停止していたからお腹がとんでもない状態にまで膨れ上がったのだ。
あれは学年主任への意趣返しでもあったのだろうけど。
営業中止の原因でもあるからか⦅悪い?⦆それで心配されて『病院へ行きましょう』と言い渡されたのよね。私も医師として同意するしか無かったが。
「当時、吐いていた子達も、普段からバカ食いする子、だったのよね」
それだけに消費するカロリーが大きいようだけど過労が祟って吐き出した。
抗体の動きもあったから吐き出すしか無かった。
「影響を受けると風邪に似た症状になる。一つ勉強になったわね」
それを見て即座に判断出来るのは私くらいなのだけど。
分校に到着し、事務局にて学校長へと来訪を告げてもらう。
「しばらくお待ち下さい」
応接室へと案内され、学校長が現れるまで待った。
時期的に期末試験だから教師達も忙しそうだった。
(今は採点中かしら?)
職員室を〈遠視〉スキルで覗き込むと採点しつつ会話している様子が見えた。
『はぁ? ほ、本当に?』
『ええ。結果がそうですので。おそらく彼女は……本当はもっと出来るのでは?』
『もしそうだとしたら、とんでもない事ですね。ところで希望は進学ですか?』
『いえ。そこはまだ聞いていません。次の進路指導で伺ってみます』
『それが良いでしょう。状況によっては指導しなければなりませんし』
それは実菜が点数操作を行ったからだと思う。
教師と教頭の会話を聞く限りだが、どの試験でも平均点で留めていたようだ。
授業中は寝ている事の多い実菜⦅簡単で暇!⦆真面目に受けなさいよ。
態度は許せるものではないが試験で実力を発揮する時点で教師の目に留まった。
それは深愛の結果にも表れていた。
こちらは平均点以下、赤点ギリギリで留められている。
授業は聞いているのに点数が悪い。受け答えは出来るのに試験では落第寸前。
本当の意味で落第寸前の娘達からすれば⦅真面目に受けなさいよ⦆だったりする。
当人曰く、
⦅進学目的ではないから別にいいでしょ。分かりきった学業より世界が優先よ!⦆
高校の学業に興味が向かないだけだった。
世界管理が最優先なのは仕方ないけどね。
(でも、そこそこ出来ると進学を示されるのが、高校という場所だから)
本人のやる気が無い状態で進学も何もないが。
実菜と深愛は知神故に索引で結果が出てしまう。
計算式も瞬間的に算出が出来てしまう。歩く大辞典だから仕方ないが。
深愛の場合は途中式を書く事が面倒なだけかもね。
採点の様子を見ると三角だ。解答は合っている。どうやって計算した?
それらを理解して採点しているのはナギサくらい。
恍惚とした表情で採点している。他の生徒だと無表情だけど。
「保護者として娘が赤点さえ取らなければ別にいいわ」
娘達も結依と由良に教えを請い、各管理室にて試験勉強に励んでいた。二人がその場から離れられないからって、管理世界に向かうのはどうなのって思うけど、世界管理を行わない手隙の女神である以上、どうしようもなかった。
(というか、あの子達は父さんの世界だけ、なのかしら?)
夏音姉さん達や亜衣達は七属性のままだが、
(持ちうる属性数からして地表の女神になりそうな予感がするわね?)
実菜を筆頭とする女神達は十属性を有する⦅何ですってぇ!⦆。
宇宙ステーションにある管理室は全部で三つ。手隙の女神は全部で三人。
補助役で割り当てられ⦅そうだけど?⦆実菜はそのつもりと。
(そうなると八女神、か。均等ではないから、人族の方に追加かしら?)
深愛達の場合は二人から三人になるだけね。
どの種族の主祭神になるのか⦅ドワーフ!⦆知結は確定か。
風結は⦅私達が貰うよ!⦆地表の人族側の女神になるのね。
残りの者の若結は⦅北極対応で!⦆元第零の女神になると。
(若結にとっては酷な結果になりそうな予感がするわね)
芽依が目を光らせている間は問題等は起きないと思うけど。
三人の補填が済むと⦅十属性になるよ⦆亜衣達がそわそわしてそうだ。
というか、応接室で待っている間は本当に暇なのよね。
(暇過ぎて今は考えなくても良い事まで考えてしまう……)
学校長も暇ではないのか中々訪れなかった。
(業務の終了前だからいいけど、待たせるのはいい加減にして欲しいわね)
ちなみに、分校教師の眷属は三人だけだ。保健医はあの子だけ。
主にナギサとトサカ頭と幹菜ちゃん。
後は本校から出向している教師で構成されている。
すると隣にある校長室から物音が響く。
『な、何故、私が、辞めねばならないのですか!』
『今回、事態を大きくした責任を取る必要があるのです』
『責任!? で、ですが! あれは』
何事かと思えば学年主任が食ってかかっているだけか。
先んじて診断書を手渡してもらったから呼び出されたのだろう。
私が待たされる理由は医師よりも保護者の代表って扱いかもね。
一部の教員の暴走で多大な迷惑をかけてしまったから。
もしかするとお詫びの時間を設けようとしているだけなのかも。
『食中毒は無かった。診断結果は生徒達の過労とある。文化祭の準備期間が短い事も要因でしょうね。今年は何故か準備期間が短縮された不可解な経緯がありましたし』
『うっ』
準備期間が短縮された? これは一体どういう?
それを聞いた私は母さんに念話した。母さんなら知っていそうだから。
(あらら。本土の土建業者との贈収賄? 公立高校なのに? あ、それで……)
校内に役場の女性職員が居たのね。
文化祭と島の祭りを一緒に行おうと画策して大工仕事を業者に丸投げした。
結果的に島の祭りは延期の所為で行われず文化祭一本になってしまったが。
(学年主任が生徒会顧問でもあるから……度し難いわね)
高校の予算から全代金を支払って様々な便宜を図った。
役場の予算には手を付けず女性職員が着服していたと。
(それを聞くと罰して正解だったわね。ハゲになっても尼にはなっていないけど)
校長室から聞こえてくる学年主任の反論は聞くに堪えない反論であった。
(こいつも毛無し刑にするか。一人だけ良い思いをしたのだもの)
私がそう思っていると、
『うぐっ……』
『な、何が!?』
『お、お腹が』
学年主任が突然蹲り、お腹がブクブクと膨らみ始めた。
それは風船のように膨らみ衣類を突き破ってボテ腹になった。
おそらく⦅満腹刑に処す!⦆実依が罰したか。
『に、妊娠?』
『……』
光景だけ見ると、そういう風に見えるわね。
短期間で妊娠するなんて事、医学的にはあり得ないけど。
私は学校長が応接室に現れると予想してスマホを取り出して待機した。
「か、神月先生!」
「今、行くわ」
呼び出された私は膨れたお腹に触れて診断した。
学年主任の膨れ上がった胃に大量の焼き芋が詰まっていた。
「直ぐに救急車を呼んで!」
「は、はい!」
救急車を呼んでいる間に本院へと連絡を入れ緊急手術の準備を指示した。
「せ、せんせい、わ、わたし」
「今は喋らないで。下手すると破裂するから」
「はっ!」
その一言で気絶した学年主任だった。
単純に劇痛で落ちたともいう。
(因果なものね)
彼女を罰しようとした矢先に助ける側になるとは。
(実依の罰は相当なものになったわね)
これを診断するなら、食べ過ぎ、かしら?
当然ながら実依は生徒と教師の記憶まで書き換えてしまった。
試験後に行った焼き芋大会。失恋でやけ食いした学年主任としたようだ。




