第63話 ポンコツは控えよう。
Side:実依
私達はお上りさんの素振りで魔王城にて過ごす姉さんの息子の元に向かった。
「何か、王都の様子が、少しおかしくない?」
「魔族が喪に服しているみたいな?」
「何があったんだろう?」
「「「「?」」」」
「くらいね。みんな」
「そうだね」
何故か魔族領に住まう者達が暗い表情で魔王城を見つめていたのだ。
「これは何かあったかな?」
「何かって、何?」
明確に何があったか私達にも分からない。
「気になるね。少し覗き見てみるよ」
「「それしかないか」」
「「「「「?」」」」」
私は周囲に居る魔族の思考を読み取る事にした。
本当は無闇矢鱈に読み取りたくないんだよね。
家族とか姉妹間では信じられるから良く面白がって読み取るけど、赤の他人とかゲスな男子達の思考なんて本当に碌でもないから。
このスキルはパッシブで一度でも有効化すると膨大な量の思考が流れ込んでくる。
「うへぇ……でも分かったよ」
多すぎる思考。
意識的にフィルタリングして魔王に関する情報だけに絞ってみた。
すると出てきたのは魔王死亡の周知だった。
「姉さんの息子、死亡したって」
「ふぁ?」
「あ、あの……殺しても死なない、彼が?」
「どういう訳か玉座の間で弾け飛んだって」
「は、弾け、飛んだ?」
姉さんは未だに信じられない様子だ。
自身が腹を痛めて産んだも同然だから何故という思考が私にも流れ込んできた。
そろそろスキルを無効化しないと私が保ちそうにないよ。
「実依? それって本当?」
「結依ちゃんも読み取ってみたら分かるよ。その代わり、膨大だから注意してね」
「う、うん……うへぇ」
王都に住まう魔族。
魔人達は姉さんが寄越した魔王の死を悼んでいた。
こちらの世界時間は同期終了後の加速から数ヶ月が過ぎている。
「数ヶ月じゃないよ。実依」
「おっと。ごめん、結依ちゃん。五年と数ヶ月だったね」
そうそう。五年と数ヶ月だったよ。
それは魔王が某国を滅亡させた日の翌々日。
姉さんが惑星時間の加速レートを弄っている最中。
一分間に一年が過ぎる加速を与えてしまった⦅ふぁ?⦆カップラーメンを温める感覚で呆れた結依が狂ったレートを元に戻した。
『ちょっと、姉さん! 過ぎてるって』
『ごめんごめん。何年過ぎた?』
『五年が過ぎちゃったよ』
『おぅ。カップラーメンが伸びてるよぉ』
『宇宙食のカップラーメンが伸びるって』
本当にタイマー感覚で弄っていたよね。
それに気づいて一日を二時間で固定化した。
元世界は二週間弱経過しているが、
(暗算して……およそ五年五ヶ月が経過したって事だね)
その五年五ヶ月の間に何があったのやら?
女神から魔王国の未来を託された新魔王。
側近と共に五年で統治を完全な物とした。
そこから五ヶ月後に何かしらの問題が起きて、魔王が玉座の間で弾け飛んだなら上にあがって確認しないと難しいかも。
すると姉さんは顔面蒼白となりつつスマホ片手に管理神器を操っていた。
「……」
姉さんのスマホからなら管理神器への遠隔操作が可能なのね。
(いや、もしかすると姉さんが何かを入れて?)
私は自分の緑色したスマホを取り出して操作が可能かどうか調べた。
(私達のスマホにも専用アプリがあるじゃん。迷宮管理と別々に分かれている? これは気づかなかったよぉ……そういえば報告書を書いていたね。姉さんが)
姉さんはそれを用いて現在調査中と。
結依もそれに気づいて、どんな魔術が使われたか把握に努めていた。
すると姉さんが結果を知り複雑な表情に変化した。
「私が魔眼を与えた子が巻き添えじゃん」
それはいつぞや話した姉さんのお気に入りの女の子だろうか。
五年五ヶ月前と言えば私達が夏音姉さんに気づかれないよう姉上呼びして息子君の雄姿を見て賑やかしをしていた頃だ。
その時に姉さんが分割体から引き継いだ記憶からお気に入りの女の子を見つけて降りて授けていたよね。時間加速のポンコツを行ったあとの様子見は結依だけが行ったけども。
「もしかして私が神託で場所を教えた子?」
「そうそう。その子が一緒に消えていたの」
「あ。なんか、ごめん」
「別に結依の所為じゃないよ。魔王討伐を願った人族共が悪いのだし」
「ううん。本当にごめん!」
「はいはい。気にしたらダメ!」
ちなみに、当時の結依が語っていた単位は前の学校の話だった⦅は?⦆当時は夏季休暇で転校前だったよね、懐かしいな。
(しかしまぁ。原因が魔王討伐かぁ。そこで)
記憶保持転生を願う自爆魔術を行使したと。
自動承認だから許可されて保管庫行きになってしまったか⦅確保して保管する?⦆出来るならそれでお願いします。女の子も込みで。
(確保したと返信が。転生時期は追々かな?)
夏音姉さんが動いてくれたので魔王と女の子の魂魄は護られるだろう。
いつ頃転生させるかはゴミ共の不法渡航が落ち着いてからになるからしばらく保留だろうね、きっと。私は悲しげな結依と慰める姉さんを一瞥しつつ先ほど行った対応を報告した。
「姉さん。夏音姉さんが確保してくれたよ」
「「ホント!?」」
「うん。魂魄保管庫から抜いて保留庫に移してくれたって」
「「よかったぁ」」
姉さんにとっても大事な一人息子だもんね。
結依にとっても、かけがえのない甥っ子だしね。
それは私にとっても、だけど。
女の子も姉さんのお気に入りだしね。
姉さんは無事と知って安堵したようだ。
「次に転生させるなら人族かつ王族かな」
早速、息子君が願った通りに転生させるつもりで居るもんね。
周囲の空気が暗い中、姉さんだけは妙に明るかった。五人もきょとんだよ。
「平民やら貴族は色々あるもんね」
「ところで例の女の子はどうするの?」
「属性をゴリゴリ付けて王族として転生させるかな。流石に時期は変えるけどね」
「そうなると属性過多な王女が生まれると?」
「今世でも元王女だし問題は無いでしょ?」
「「そうきたか」」
私達は本人不在と分かり、
「で、息子君と結ばれるといいな」
「「殺し合った仲なのに?」」
「それはそれって事で!」
五人を連れて魔族国家を後にした。
魔王君もとい息子君が居ないなら訪れる意味が無いからね。
今後は芽依達に丸投げして様子見かな。
私達姉妹が管理するのはあくまで人族国家だけだしね。
◇ ◇ ◇
メグの所在が不確かなものとなり、姉さんは急遽だがメグの神魔体を作って魂魄を移した。身体の大きさは先と同じく幼女のままだ。
以前の憑依体は魔力還元で片付けたので目覚めたメグは別の意味で驚いた。
「なんかすごい!」
「メグリとメグは姉妹で行動してね」
「分かりました!」
片や十七才。片や七才児。
十才離れた姉妹というのは珍しいがメグはメグで可愛がられるだろう。
その愛らしい姿は私達から見てもとっても和むからね。
「果菜も居ると幼女と童女だよね」
「そうだね。果菜と共に居ればね」
「果菜も童女として可愛がりそう」
本物の幼女が居ると果菜は幼女と見做されなくなった。
無事に童女に格上げか⦅童女じゃないよ!⦆あら?
私達が果菜を童女童女と言っていると本人が地表から戻ってきた。
「童女じゃないよ!? 私はお・と・な!」
今の容姿なら大人でも通るよね。
新しい神魔体に宿ると童女に戻るけど。
「はいはい。大人から童女に戻ってね」
「……」
姉さんは果菜が所持していた憑依体を元に神魔体を新しく作っていた。
それはエロフではなく人族の肉体だ。
姉さんも手慣れてきたのか生成時に骨格そのものを神素結晶へと置き換えていた。
気づいたら素っ裸の童女が現れたからね。
「さぁさ。宿った、宿った!」
「ね、ねぇ? このままあちらで仕事したらダメ?」
「「「ダメ!」」」
「ど、童女を選んだ昔の私のバカァ!」
果菜が宿った事を確認した姉さんは術陣を記した魔導書を結依に預け、結依は一族のみで使える禁書として厳重に保管した。
「姉さん。少し改良した?」
「うん。骨格組成を選べるようにしたよ」
「そうなると常時積層結界も可能になると?」
「結凪達の私生活を思えばね」
「「「車を壊さずに済んで助かる!」」」
そうか、神素結晶の骨格だと普通の金属が負けるもんね。
こちらの世界だけならいいけど元世界だとバカ力か何かと思われるから。
だから生成時に追加で選べるようにしたと。
「ちょ! 私も普通の骨格でお願いします!」
「もう、作ったからしばらくはそれで」
「そんなぁ!?」
これで私や芽依達が触れるだけで術陣を直ぐに覚える事が出来るから助かったともいう。複数の肉体を持つ必要はないが今後は何が起きるか定かではない。
一方の果菜はしくしくと、自身の〈空間収納〉へとエロフを片付けた。
それは新しい肉体を用意していた芽依達も同じだった。
私達は気にしても仕方ないので〈変装〉で誤魔化すけどね。
その後、メグリ達の住まう区画へと移動し、
「「「「アパートがあるぅ!」」」」
「今後はこちらにて生活してもらうから」
スマホを手渡していった。
「次はスマホね。無くさないように」
メグにもお子様スマホを手渡したので位置情報が常時メグリに伝わるだろう。
なお、五人の住まいは出前店上のアパートとなった。
「はい。あ、メッセージがあるぅ!」
「こ、これって無料通話です?」
「無料だよ。一応、良く出前を取る旧友の番号だけは登録済みだから確認すること」
「旧友……あ、アキの名がある」
「フーコとナギの名があるぅ。やっぱりか」
「カナブンって、あのカナブンかな?」
「そのカナブンだと思うよ。姉さん」
「メグには子持ち勢の子供の名前を登録しておいたよ。追々顔合わせするから、楽しみにね」
「たのしみぃ!」
登録された情報があちらにも伝わり出前のメッセージや電話がかかってきた。
「早速、かかってきたね?」
「これってどう答えたら?」
「女神便って返せばいいよ」
「「「「分かりました」」」」
「ました!」
肝心の調理は精霊達が行っているので注文を伝えて出来上がったら届けるだけだ。
届ける方法は転移門を使うか、ステーション内に居る場合は自身の脚で向かう事にもなるだろう。お陰で由良も本来の仕事が行えるようになったね。




