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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第三章・やる事が一杯で目が回るかも?

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第62話 神が神に祈るって。

 Side:結依(ユイ)


「う〜ん」

「どうしたのよ。姉さん、急に唸って?」

「お腹が痛いなら温泉から出て致してきてよ」

「そうそう。こんなところで漏らさないでね」

「なんでやねん! そもそも創ったばかりの身体に溜まるわけがないでしょ!」

「「「それもそう(だ)ね」」」


 まったく、この妹達は。

 どうも姉さんは温泉で疲れを癒やしている最中、先ほど私や実依(マイ)と話し合った、この肉体の名称をどうするか悩みだしたようだ。

 あーでもないこーでもないと思案を巡らせ、


「そのまま神魔体って呼べばいいか。元々がこの子達の肉体そのものでもあるし」

「「「「?」」」」


 闇エルフをボケッと眺めてシンプルな答えに行き着いたようだ。

 この肉体は神と魔人の宿る肉体でもあるのでピッタリだと私は思う。

 姉さんは夜空を眺めながらボソッと呟く。


「便宜上、ホムンクルスと名付けたけど私って良く考えると神じゃん。何で人の立場から創造物を見ているのよ、って改めて思ったよ」

「「「「「良く考えなくても神よ」」」」」

「そこで突っ込まないでよ!?」


 突っ込みたくもなるよ。

 人の世界で隠れて過ごしていても、そこだけは忘れたらダメだと思うな。

 だが、一人だけは反応が違っていた。


「人の世界で生きていると時々だけど神の立場を忘れるわよね」

結凪(ユナ)だけかぁ。分かってくれるの」


 姉さんは理解してくれた結凪(ユナ)を隣から抱き締めた。

 結凪(ユナ)は苦笑しているが……結凪(ユナ)の言い分はおそらく。


(生死に関わる状況になった時、患者の家族が神に祈るからだろうな。こんな時に祈るのは神ではなく私を信じなさいよって考えて)


 自身が祈るべき対象と思い出してしまって複雑な心境になっているからだと思う。

 命に関わる仕事だからこそ、その様子を何度も目撃すると。

 簡単な手術でも状況によっては人は簡単に死ぬ。

 経過観察で狂う場合もある。


(それを見てきたからこそ結凪(ユナ)は複雑と)


 私はしんみりしつつ煌びやかな空を眺めた。

 そこでふと、上空でキラキラ輝く移動物体に気づいた。


「ところで姉さん?」

「どうしたの。結依(ユイ)ちゃん」

「地底の衛星。あれってこちらにもあるの?」

「衛星? あ、私の分割体が誘導したアレか」


 おや? 姉さんも今頃思い出したのか、右拳を左掌にポンッと打ちつけた。

 何事も無かったように遠い目をして呟いた。


「こちら側には無いよ」

「本当に?」

「ほ、本当だよ」

「どうして目が泳いでいるのかな〜?」

「さ、さぁ?」

「姉さん、ガーベラ要る?」


 実依(マイ)が権能でガーベラを創り、茎を姉さんに向ける。

 姉さんはビクッとし自身のお尻を隠して後ずさった。


「茎をこちらに向けないで!?」

「まだ挿すとは言ってないよ?」


 こうなると姉さんも黙りが出来ない。


「ぐぬぬ」


 実依(マイ)がいつ転送魔術で挿すか分からないからだ。

 今は隣に結凪(ユナ)が居るから何かあった時は対処可能だが、そんな生々しい状態は神体だけでいいと私達も思った。

 私達のジト目を受けた姉さんは大きな溜息を吐いて呟いた。


「有るには有るよ」

「やっぱり有るんじゃない!」

「それって地底と同じ代物なの?」


 姉さんは実依(マイ)から質問を受け夜空を眺めて指さした。

 そこにはとてつもない速度で地表へと落ちていく流星が複数輝いていた。

 地表へと落ちるように飛ぶが正しいかな?

 やっぱりあれが姉さんの打ち上げた衛星と。


「用途はただの通信衛星だよ。地表で活動中の眷属達とのやりとり用だね。そもそも、攻撃衛星なんてこちらでは使えないからね。空に向かって極大魔術を打ち上げられたら、私達の宇宙ステーションにも悪影響が出てしまうから」

「「「「「「あー」」」」」」


 こちらの世界の術士ならそれくらいは平然とやりそうだね。

 反撃と称して打ち上げるとか。


「私が用意した衛星神器は地底とは異なる神素結晶ボディで構成していて、その制御系は私が用意したスマホの基本ソフトと同じ代物なの」


 それを夏音(カノン)姉さんが用いるコロニーではなく、管理神器を用いて衝突しないよう随時制御しているという。各通信手段だけは衛星神器で制御しているから残りの制御系だけは管理神器に全て丸投げしているらしい。


「そういえば各衛星軌道が管理神器から見えたけど、あれは地表の通信衛星なのね」


 姉さんは私達が気づいていないと思っていたようで投げやりの口調で返した。


「地底の物が私達から見えるわけないじゃん」


 それで急に衛星の話になったのかぁって諦めの表情が顔に出ているね。

 私達はきょとんと顔を見合わせて納得した。


「「「「「「確かに」」」」」」


 あれを管理するのは妹達の世界だもんね。


「月と太陽に実体が加わった事で空いたリソースを衛星に回しているだけだしね」

「「「「「「それで」」」」」」


 すると姉さんは真面目な表情に変えた。


「但し、地底の危険物と違って墜落する可能性は低いよ。衛星神器の稼働は通信魔力だけで賄えるから」


 通信魔力。それはスマホから流れ出る双方向魔力。

 その魔力を微量だけ用いて繋げては通信の維持を続けていると。

 使わない時は他の衛星神器から融通しあっていると姉さんは語った。

 同魔力は宇宙ステーションからも制御用途で発信しているから途切れることはないらしい。そこでふと私は姉さんが口走った言葉に疑問を持った。


「ちょっと待って。地底の危険物? 墜落?」


 私の呟きに応じたのは結凪(ユナ)だった。


「危険物とか墜落って何よ?」


 姉さんは溜息を吐きつつ語り始めた。


「元々は夏音(カノン)姉さんが用意した代物ではあるのだけど、あれは制御系に大問題があってね?」

「制御系……あっ!」


 結凪(ユナ)は制御系で気づいたらしい。

 私達は何のことなのかきょとんのままだ。


「邪神の眷属、か」


 その一言で私達は愕然とした。

 そうだよ。先のコロニーでも転移門周りで影響が出ていた。

 夏音(カノン)姉さんが創った場所に問題があって亜空間封印を施して?


結凪(ユナ)の言う通り、スマホを始め、地底で用意した代物の大半に邪神の眷属が潜んでいるの。駆逐出来る範囲は私自らが神聖力を流して追い出したけど、地底と浮遊大陸の間を飛ぶ各衛星神器だけは一方的に拒絶されたんだよ。衛星神器の制御系に邪神の眷属が潜んでいれば当然の話なんだけどね」


 だから危険物。

 邪神の眷属が自滅覚悟で衛星ごと地表に落ちてくる可能性もあると。

 それを聞いた芽依(メイ)を含む四人の妹達は途方に暮れた表情で空を見上げた。


「「「「面倒な」」」」


 私は姉さんの困り顔を一瞥して思案した。


「必要と思って用意したのに、それが眷属へと体の良い武器を与えてしまったと」


 全て墜落させると妹達への信仰心に影響が出る。

 それを狙って行っても不思議ではないね。

 そうすれば世界崩壊が早まって憎悪が膨れ上がり、邪神の眷属が増えて親玉の力も増すと。


⦅由々しき事態ねぇ。困ったわぁ⦆


 母さんですら困惑しているしね。


(いや、マジでどうするのよ、これ?)


 すると実依(マイ)が心配気に問いかける。


「姉さん。それの対策はないの?」


 姉さんは肩をすくめて、頭を横に振った。


「神器からの転移も転送命令も受け付けないからね。お陰で何処かしらに落とすしか手段がない危険物に成り果てたの。出来る事と言えば……」

「「「「「「言えば?」」」」」」

「今は唯々、神に祈るしか出来ないね?」


 この一言で、全員がズコッと転けたのは言うまでもない。

 盛大な水柱が立ったが『神が神に祈るって何なのよ!?』と芽依(メイ)のツッコミが木霊した温泉のひとときであった。



 ◇ ◇ ◇



 温泉後、近場にある転移陣から地表の魔族国家へと私達は向かった。

 一方の芽依(メイ)達は地表の状態が気になるからと揃って闇エルフに〈変装〉して街に繰り出した。衛星神器も気になるが私達が管理するのは地底ではなくこの地表だ。私達が優先すべき事は地表に隠れる問題児共の捜索だけだ。


「何て芽依(メイ)は言っていたけど」

「あれも一種の思考停止だよね?」

「考えても仕方ないしね」


 流石の姉さんも諦めムードだ。

 対応出来るなら直ぐにでも対応したいが穴埋めを終えてからでないと、何かしらの動きを示されるから。姉さんも時々、スマホを見てシナリオの続きを把握していた。


「これで衛星爆撃なんて出たら行動に移さないとだけど、今の所は出てないね」

「それこそ最終手段で使われそうだね」

「使うかもね。きっと」


 すると姉さんのスマホに四人が物申す。


「異世界なのに何でスマホ?」

「先ほどの話にもありましたけど衛星って?」

「無料通話がこの世界でも可能なので?」

「メッセージが出来るなら私も欲しい!」


 姉さん相手に質問と懇願をしてきた。

 元々、男子高校生だった者が一人。

 ガチの女子高校生だった者が三人。

 姉さんは右頬を掻きながら、


「戻ったら与えるつもりだったけど?」


 苦笑しつつ四人に応じた。

 元々が出前要員のメイド達。

 直ぐに連絡が付かないとコロニーの旧友共が黙っていないしね。


「「「「本当に?」」」」

「本当だよ。但し」

「「「「但し?」」」」

「インターネットから落とす既存のアプリは使えないから、それだけは了承してね」

「「「「え?」」」」


 この「え?」は姉さんがゲームをインストールしているから……かもね。

 姉さんも気づいているのか困り顔で応じた。


「私のコレは仕事で必要だから、ダウンロードしているだけだよ。最初から入っている基本アプリでも困るような事はないから安心してね」


 姉さんがそう言うと私達にも取り出すよう促した。

 姉さんのスマホはカスタマイズ仕様だもんね。

 私と実依(マイ)のスマホは壁紙こそ違うが、与えられた時のままだ。


「「こんな感じで」」


 紫と緑の筐体で神素結晶製だ。


⦅⦅水晶製ではないですってぇ!⦆⦆


 実はこれ、分割体のスマホを見本に姉さんが新しく創ったスマホなんだよね。

 当然、両親と私達の私物までだけど。


「「「「おー!」」」」

「わたしもそれがほしい!」

「メグにはまだ早いかな?」

「えーっ!」


 メグとはこのあと別れるかもしれないしね。

 得られるかどうかは姉さんの息子次第である。




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