第60話 生存本能がパない。
Side:実依
温泉地帯の火山ガスを姉さんの神聖力で浄めた後、
「何のために登ったんだか」
鉱山から下山して残りの回収に向かった。
鉱山の遺体は当然ながら魔力還元で消し去ったけどね。
所属先不明の遺体ほど扱いに困るものはないから。それが奴隷なら特に。
「気にしない、気にしない」
私達はぼやく四人を宥めながら下山する。
「片付ける事も仕事の内だから仕方ないよ」
「「「「そうなので?」」」」
「遺体を残すとね、縁を伝って異世界渡航してくるからね。邪神という人外共は」
「邪神と聞くと良くない者を思い出すけど?」
「本当に居たんですね。信じられません」
普通は信じられないよね。
なのでここから先は邪神講座を開く事にした。
「私達みたいな善神が実在する時点で」
「対となす良くない者も当然、居るんだよ」
「でもね。邪の神と名が付いているけど神格では無いからね? 同格じゃないよ」
「「「「え?」」」」
神が付いていても、それは呼称でしかない。
人知を超えた力を持つからそう呼ぶだけだ。
「あれは憎悪の塊と言えばいいかな」
「あとは嫉妬やら妬みの権化かな?」
「そういった物の総称が邪神となっているの」
「「「「ほへぇ〜」」」」
「ただま、神格ではないけど位階はあるよ」
「「「「い、位階?」」」」
「主に分類出来るのは低位・中位・上位ね」
「低位は雑魚、中位は知恵を持つ、上位は人格ありの、もの凄く面倒な輩なのよ」
「その中でも最上位の親玉は滅多に見ないけど実在しているのは確かだよ。私達の両親が毎度頭を抱える事態に陥るのもそれだから」
そう、母さんに絡んでくるのはその親玉だ。
世界神に喧嘩を売れるのはそれくらいだね。
私達が眷属と呼ぶ者達も位階では中位とか上位に位置する。
本当に面倒な輩なのだ。
「そんな邪神でも弱点はあるけどね」
「「「「あるんですか?」」」」
「それは、姉さん達の属性だね」
「「「「え?」」」」
姉さんと結依は右掌の上に神力を魔力変換した球体を用意した。
神力だと神族以外からは見えないので魔力としただけね。
「私の神聖力と」
「私の神闇力ね」
「神聖力は浄めの力が、神闇力は消滅を促す力があるんだよ。色で言うと白と紫だけど、紫は濃くなればなるほど黒に近くなるからね」
「「「「ほへぇ」」」」
「リアクションが雑!」
「「「「すみませんでした!」」」」
ちなみに私の場合はどちらでも対応可能だったりする。
私と仁菜だけが両者の特性を持っているからね。
属性は風だけど吹き払って滅するのだ⦅知りませんでした⦆おいおい。
部分的には風結と被るけど雷だって発生させる事が可能だ。
それも手加減無しで発生させる風結と小指一つで発生させるくらいの差はあるし⦅マジで!⦆マジで。
「だから邪神周りで仕事が入る時は私達が出張る事が多いの。ま、もっとも効率の面を考慮するなら、上にお願いするけどね」
「「「「上?」」」」
私はきょとんとする四人に知っているであろうあだ名を口走る。
「皆さん御存知の黙り姫と天災児」
「「「「!!」」」」
これを伝えるだけでも通じるからね。
本当は⦅言わないでよ⦆言いたくなかったけど名前を言ったところで通じない。
「実際は四人だけど、処分に長けているのは私達の上に居る姉兄達なんだよね」
「「一人は姪っ子だけど」」
「い、意外なところに女神が居た件?」
「うん。でも、あの測定は納得かも?」
「そうだね。あれを思い出すとそうかも」
測定?⦅天災児の由来ね⦆それでトサカが何か言ってたんだ⦅タツトったら⦆え?
するとルンが思案気に問いかけてきた。
「確か、十字架持って祈っていたような?」
それは⦅私の事ね⦆ああ、祈っていたのね。
私は何となく理由が分かり、苦笑で答えた。
「まぁ、ミッション系だからそこはね?」
「神から祈られるってどんな心境なんだろう」
「それを問われたら反応に困るんじゃない?」
元々の立場は気軽に表沙汰には出来ないもの。
あちらの世界にも神殺し共が当然存在するし。
私達が多神教の国に潜んでいるのもそいつらから逃れるためでもあったりする。
殺されるつもりはないけど喧嘩を買う必要もないから。
喧嘩を売ってきたら⦅何度も買って滅殺してきたわ⦆姉さんなら殺るだろうね。
その後は上に戻った際の仕事について伝えていった。
勿論、出くわすであろう旧友の事も。
「そうそう、元クラスメイトと他クラスの面々が出前先に居るから注意してね」
「「「「え?」」」」
「嫁持ちが数名居るけど、それ以外はほぼ百合っ子だから狙われないようにね」
「同じ特性を地で持っていたりするしね」
「そうそう。女の子と子を成せる子もね」
その中で注意すべきは、
「フーコと呼ばれる女性だけは特に注意ね?」
あの人だけは視線がやばかった。
しかもバイセクシャルだから油断ならない。
「「「フーコ?」」」
「それって、お兄さんが居ませんでした?」
「お姉さんになったお兄さんは居るよ。今は私達の学校の先生だけど」
「「「「は?」」」」
そこだけ言われても分からないよね。
なので担当科目を言ってみる事にした。
「その先生の担当は数学ね」
「「「「……」」」」
この感じは誰だか把握したかな?
ブルリと震えたので理解したようだ。
「なので、仮に出くわしても営業スマイルだけは欠かさないように。変に反応すると勘づいて寝室に連れ込まれてしまうから」
「「「「は、はい!」」」」
一応、他にも居た気がするけど?
誰だっけ?⦅ハルミよね?⦆ああ、そっちもか。
彼女は雰囲気で分かるだろうから気をつけると思う。
下山後は蜥蜴共が居るであろう小国連合に向かって転移したのであった。
◇ ◇ ◇
「はわわわわわ!?」
「一瞬でこんなところまで?」
「すごい」
「べ、別の意味でも凄いですが」
「まぁね。これは驚きどころではないね」
到着後、小島で見た光景をまたも目の当たりにするとは思わなかった。
「沼地に土左衛門が多数かぁ」
「この中から蜥蜴の兄妹を見つけるの?」
「無理じゃないかな。流石に」
深愛の怒りは多方面に被害をもたらしたのね。
これは頭痛のする思いだった。
⦅仕方ないじゃない! 召喚⦆
はいはい。当事者だから分かってるよ。
⦅扱いが雑!⦆
どないせいっちゅーねん。
それはともかく。
姉さんは呆然としながらも、この中から目的の人物達を探索魔法で探し始めた。
「異世界人の魂魄の波長を持つ者を選んで」
選んだらゴミ共までヒットしたんだよね。
「チッ。今度は召喚時期で調べるかぁ」
それは元世界から飛んだ時の時期である。
魔力付与がなされた時期を条件としたね。
流石に姉さんだけでは見つからないので私達も三方向から蜥蜴の兄妹を探索した。
「一度転生してるから弱いなぁ」
「やっぱり探すのは難しいかぁ」
「ゴミが多すぎて邪魔! 消していい?」
「「ダメだと思うよ」」
「やっぱり?」
周囲では遺体集めをしている者達も居るからね。
遺品とか諸々を集めて遺族に届ける的な。
⦅生命保険的な物のためでもあるわね⦆
討伐依頼を受ける探索者が強制加入させられるあれか。
そういえば私達も払わせられたね。
迷宮攻略だけなら払わなくてもいいが討伐依頼を伝えると高額な保険料を強制徴収されたのだ。私達も一括で支払ったけど⦅制度が変わったのね⦆そうみたいだね。
どうも運営が厳しいようである。
あれもゴミの所為で探索者の絶対数が増えたからだと思う。
無駄な乱獲が各地で起きていたりね。本当に迷惑な話だよ。
なので仁菜の方でドロップ品の出現頻度を下げたりしているのだ⦅面倒ですが⦆私も先日手伝ったから痛いほど分かるしね。
今はゴミ共を含む遺体と遺品が大量と。
「ノイズが酷すぎて見つけるのが難しいね」
「「ほんそれ」」
しばらくするとそれっぽいゴミが浮いてきた。
ゴミって言うと微妙だけどゴミだよね。
「こちらも無事死亡かぁ」
中身は既に亡く保管庫に向かったようだ。
「そのままにするとアレだから」
「処理だけはしておこうか?」
それは処理という名の魔力還元。
残しておくと面倒が降ってくるからね。
そんな中、沼奥に二つの尻尾が泳いでいた。
「姉さん?」
「どうしたの? 実依ちゃん」
「あれ?」
「「あれ?」」
姉さん達は私が指さした方を〈遠視〉する。
そこには異世界人の魂魄を宿した尻尾の先が器用に泳いでいた。
「あー、あれだと見つけられないよね」
「蜥蜴の尻尾切りの逆バージョンかぁ」
「器用な真似を……」
それが私達の率直な感想だった。
メグリ達も思う事は同じようで、
「既に人外だけど」
「あの二人ならさ?」
「ええ、やりそうよね」
「言えてる」
別の意味でそいつらを知るからか想定の範囲内だったみたい。
姉さんは神力糸を尻尾に飛ばして捕獲する。
ピクピクと動くそれは酷く暴れていた。
「これは当たりだね」
「「「「やっぱり!」」」」
元々が外道だった事もあり操り易かったのかもしれない。
姉さんが調査すれば同化率が完全になっていたから始末が悪いね。
尻尾はそのままの状態で空間隔離して至音姉さんの元へと送り込んであげた⦅尻尾!?⦆驚いているけど中身を見て。上位に位置するとんでも邪神になってるから⦅美味⦆なんか恍惚としてそうな気がするが、聞かなかった事にした。
「一先ずはこれで一段落かな?」
「そう思いたいけどフラグがね」
「それがあるもんね。気を引き締めないと」
私達は表層結界だけを解放して四人と幼女を連れてステーションまで転移した。
「「「「ふぁ?」」」」
「やっぱり驚くよね」
「宇宙空間だからね」
「筒の中に街があるからでしょ」
「「実依のツッコミが鋭い」」
「単に疲れているだけだよ!」
濃密な一日だったからお風呂に入って休みたいかもね。
そういえばメグを連れて行くまでが今回の遠征だったね。
「どうせならさ? 地表の温泉でも入る?」
「「「「温泉!?」」」」
「そうだね。疲れたし、いいかな?」
「そうしようか」
「四人も付いてきていいよ」
「「「「是非!」」」」
こうして私達は地表の温泉地帯へと転移で向かったのだった。
⦅ズルイ! 私も行きたい!⦆
深愛達は後日、連れて行くか。




