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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・今度は別の世界を管理するの?

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第51話 距離が凄まじいね。

 Side:結依(ユイ)


 その後、姉さんの指示で既存の鉄道網の部分改修が行われた。

 作業は私達姉妹で全て行い、吸血鬼達は誰もが目が点だった。


「外したレールは端に寄せておいて」

「はーい」

「枕木も忘れないでね」

「りょ!」


 先ずは私と実依(マイ)がレールと枕木を取っ払い、姉さんが砂利を取り除く。

 地面を一段深く掘削し、取り除いた砂利と特殊な溶液を流し込んで固めていった。


「ここでコンクリートを創るとは」

「それとは少し違うみたいだけど」

「少し違うって?」

「神素結晶が混じってるみたいだよ」

「ふぁ?」

「どうも魔法が馴染み易くなるのと普通より強度が出るから入れているみたいだよ」

「そうか。既存金属よりも硬いから」


 溶液の硬化が終わると元々あったレールを浮かせて隣に置いていく姉さん。

 不要物は無いと言いたげな様子で硬い地面に枕木を並べ外したレールを敷設した。


「こうやって見ると新幹線の高架みたいだね」

「車両の重量はそんなに無いけど、中に積む荷物によっては重さが変わるから、あえて姉さんも土台から作り直したんだと思うよ」

「なるほど。だから土台の改修を優先したと」

「仮に爆薬を設置されたり、魔法的な破壊工作をされても、一瞬で壊れるような土台ではなくなるしね。一緒に埋め込んでいた魔法陣は破壊耐性の術陣だったし」

「おぅ。私の気づかぬうちにやりおるな」

「言葉遣いがおかしいよ。結依(ユイ)ちゃん」

「おかしくなるくらいの驚きがあるからだよ」


 レールを敷き終えると既存のポイント部に何らかの細工を施す姉さん。

 傍目から見て複数の魔法陣を植え付けているようにも見える。


「あれは?」

「管理神器からの命令を受信する魔法陣だね」

「なるほど。上からの命令で全て賄うから?」

「それも神力だから、そこに術陣がある事に気づける者は居ないしね。元が姉さんの神聖力だから邪神も眷属も毛嫌いして寄りつかないし」

「こんな時に姉さんの真骨頂が発揮されると」

「はいはい。無駄口叩いてないで、次やるよ」


 おっと、姉さんの作業が終わったようだ。

 休憩していた私と実依(マイ)は引き続き姉さんの指示に応じたのだった。


「気のせいか? あの子ら魔力使ってないぞ」

「一体何者なんだ? 見たところエルフだが」

「地面も見た事の無い代物になっているしな」

「まるで空港にある地面のようだな。これは」


 空港だけはこの世界にもあったね。

 でも組成から何からが異なると思う。

 姉さんが遠慮無しで創ったコンクリート擬きは一種の神器だから。

 見破れるのは夏音(カノン)姉さん達くらいではないかと思う。

 次に行うのは設置した線路を魔法だけで磨く事だった。

 錆びを落として側面に姉さんが用意した術陣を一本一本刻んでいく。

 これが地味に重労働だったけど最重要らしい。


「これってどういう仕組みなの?」

「線路と車両間で魔力を融通する陣だよ」

「ふぁ? ゆ、融通するってどちらから?」

「「線路からだけど?」」


 せ、線路から車両に魔力を送り込む?!


(これって充電する仕組みなのかな?)


 魔力だから充電とは違った代物となるが。

 真剣な顔の姉さんは隣で刻印を打ちつつ、きょとん顔の私に説明してくれた。


「減速と停止までは車両の魔力で行うのだけど、浮遊と加速に使う魔力がどうしても足りなくてね。先ほど設置した陣、管理神器からの命令で必要量の空間魔力をこの陣が吸収して、停車中に送り込むようになっているんだよ」

「内部にあてがう空間隔離も、停車中でないと稼働しないしね。発車直前に空間隔離と気密扉を閉めてから、浮遊と加速を開始する仕組みなの」


 そうなると車両には多くの魔力を保持する機能が備わっていない事が分かる。


「車両そのものに膨大な魔力を保たせるとそれを狙う輩に奪われるからね。稼働以外では使えないよう魔力プロテクトも設けているんだよ」

「奪う輩……そうか、ゴミ達のことか!」

「「そういうこと!」」


 ゴミ達は魔力を使う代物があると奪って持ち帰る悪癖がある。

 空飛ぶ船とか諸々を優先して奪って、再利用しているからね。

 姉さんは設置を終えるとトンネルに向かって一人で歩いて行く。

 トンネルの奥から白い巨体を腕の一本だけで引っ張って来た。


「あれがリニア、かぁ」

「今は姉さんの魔力で浮遊している状態だね」


 とっても小柄な女の子が大きな鉄塊を引っ張る。

 吸血鬼族にとっては信じられない光景だろうね?


「見た目が微妙に薬剤のカプセルだよね」

「窓は不要だから付けていないだけだよ」


 当面の本数は一編成のみ。

 車両は三両で一編成だった。


「一応、流線型ではあると」

「トンネル内側は惑星二周分くらいの距離があって、速度もそれなりに出るからね」

「物理的な距離が多少なりに影響しているのね」

「そうそう」


 ここは地底で高度がそれなりにある場所だ。

 中継は惑星の外、宇宙空間へと漂っている。

 リニアの終点は地底の魔王国となっている。

 実依(マイ)の言う惑星二周分とは往復を意味するようだ。

 トンネル内を一周して中継し、一周して地底に戻るルート。

 それを二人で掘り進めたのは驚きだけどね。

 姉さんは車両の魔力を拡散させ底部より車輪を下ろしていく。

 そこまでを全て自動で行うと。

 ズレ一つなく車輪がレールに乗った。

 浮遊までは露出していて加速して浮遊と同時に隠れる仕組みになっていると。


「ところでこれ、人は乗れるの?」

「当然、乗り降りは可能だよ」

「先頭と最後尾が乗員用で、中心は荷物だけの車両になっているの。最初から商人の行き来が前提だから荷物だけの行き来は考えていなかったんだよ」

「その代わり中継地点で降りられないけどね」


 それはそうだろう。

 擬似精霊界は人が踏み入る事の出来ない神聖な場所だ。

 許されても神族かつ管理者しか出入りが出来ない。

 そんな話し合いをしていると、


「無事に出来たみたいですね」


 車両の中からエルフ然とした由良(ユラ)が顔を出した。

 いつの間に乗ってきたのやら?

 姉さんは気づいていたのかあっけらかんと応じた。


「何とかね。始める前にひと悶着あったけど」


 由良(ユラ)を見た吸血鬼達は色んな意味で驚いていた。

 魔神が亜人の姿で現れればね。

 そんな魔神相手に事もなげに応じる姉さんが何者なのか首を傾げる者が多かった。


由良(ユラ)の格好って周知されてる?」

「されているかもね。自由気ままに彷徨く女神として有名だったとか」

「それで」


 私なんて身バレが恐くて出来ないのに。恐れ知らずとはこの事か。

 姉さんと由良(ユラ)は何がどうとか話し合っていた。

 それは運行に関する取り決めだ。

 由良(ユラ)を介してこの国の王侯貴族に話を振るようで、厳格なルールに則って運用するよう姉さんはお願いしていた。


「本格運用が始まったら分刻みで稼働を始めるから。上下でズレなく動く仕様だよ」

「分かりました。その通り伝えておきます」


 姉さん相手に頭を下げる由良(ユラ)

 吸血鬼達は目を見開いて固まった。

 女神が頭を下げる相手。何者なんだというささやきが私達の元にも聞こえてきた。


「地表世界の世界神ですが? なんて言えないしね?」

「ここが地底であると知っているのは極一部だけだよ」


 作業を終えた姉さんは私達を連れてトンネルの中へと入っていく。

 普通ならば人々の出入りを拒むぽっかり開いた大きな洞穴。

 そこに気にせず入っていく様は人外と思わざるを得ないだろう。

 人外だけど。


「ここから惑星一周分のながーい道が続くと」

「当時は夢中で開けたから言える事だけど」

「少し遠回りしすぎたかなって思えるよね」

「うん」


 トンネルは最後まで線路が敷設されていた。

 枕木が無いだけの白い床面にレールが二本。

 加減速の魔法陣も中に埋まっているから、試験前に二人で敷設した事が分かった。

 私も手伝えたら良かったのだけど二人分の課題を熟していたので仕方がなかった。

 転校生だからって学力確認のために特別課題が出てしまったからね。

 編入試験が無い代わりに簡単かつ面倒な課題を一人で熟したのだ。

 当然、担当外の妹達もそれぞれの課題をジャンケンで決めて。

 とほほ……と熟していたしね。


「意外と平坦なの? このトンネル」

「空間的には一直線になっているんだよ」

「それでも距離だけは惑星一周分だけど」

「それが二つのトンネルで複線として存在すると」

「改めて掘るのは大変だったけどね」

「必要な事だから頑張った!」


 それを聞いた私は労いを込めて両手をわきわきと胸の前で動かしてみた。


「あとで実依(マイ)のお尻を徹底的に揉まないとね?」

「そ、それは結構です!」

「わ、私のお尻は揉まないでね?」

「えーっ。それは揉みたいよぉ!」

「「そんな理不尽な!」」


 結局、実依(マイ)のお尻は揉むんだけどね。

 お尻に限らず疲労時のマッサージは重要だから。

 姉さんも実依(マイ)から揉まれて身悶えること間違いないし。

 地味に長いトンネルを抜けると中継地点である精霊庫に到着した。

 私は頭上を眺め精霊庫の状態を把握した。


「あ、それなりに使っている感があるね?」

「そうだね。生肉とか生野菜はいいとして」

「エグいエロ本を収めている子がちらほらと」

「思春期男子である以上は仕方ないかな?」


 その際に夏音(カノン)姉さんの私物も見えたのだが、


「ま、また、エグいパンツを穿いているのね?」

「フ、フロントTなんて、誰得なの?」

「どうせあれじゃない? 至音(シオン)姉さんの」

「「あー、あり得る」」


 見なかった事にした私達だった。

 ここからだと中身が見放題なので私は間に別空間を用意して区切る事にした。

 その空間は製造所の意味合いを持たせた場所である。

 夏音(カノン)姉さんがあれこれ創る際に使うだろうし。


⦅パンツを見たお礼として受け取っておくわ!⦆


 気づかれたけど、まぁいいか。


「多少、空間が小さくなっても大丈夫だよね」

「問題無いよ。むしろ必要だったしね。アレ」

「私達には自前があるけど夏音(カノン)姉さんには無いからね」

「創造特化ではないもんね」


 創造空間を持つのは私達の姉妹だけで妹達は持ち得ていないしね。

 創造に特化している弊害とも言うけれど⦅羨ましい⦆そうかな?


由良(ユラ)に頼めば用意出来そうな気がする」

由良(ユラ)が止めて下さいって言ってるよ」

「仕事が増えるもんね」




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