第49話 報告・登録・商談?
Side:結依
実家に帰った私達は早速だが分校で起きている事象に関して母さんに報告した。
知っていそうな気配もしたけど、報告しないならしないで罰が下りそうなのでするしか無かっただけね?
「可愛い娘達を罰したりしないわよ。仮に罰しても、お尻ペンペンで留めるわよ」
「この年にもなってお尻ペンペンは辛いって!」
「至音なら喜んで受けそうな気もするけど?」
それを聞いた姉さんはずっ転けた。
私と実依も転げてしまったよ。
罰の対象となるべき人物が人物だから。
「私達をドMと一緒にしないでよ!」
「それもそうね」
姉さんは立ち上がりつつも報告を続ける。
「というわけで島内の清掃が必要になったの」
「そこまで手を拡げているとはね。ゲームの力、恐るべしね」
「本当にそう思うよ。それでどうするの?」
「そうね……島内の事は私に任せておきなさい」
「母さんが対応するの?」
「私よりもカノちゃんかしら? 専門だし」
「姉さんが出張るの?」
「あちらでも日々仕事してるよね?」
「大丈夫なの?」
私達の疑問はそこにある。
いくら姉さんといえど身体は一つ。
複数の世界を同時に処置するなど出来るの?
すると母さんはニコニコと微笑みつつ、
「そんな時のための至音よ。滅する専門は至音だし」
次女の存在を暗に示した。
そういえば死を司っているのドMな方だわ。
お尻ペンペンから次女を連想させるとは。
「掃除と魂魄の置換はカノちゃんの専門分野。島内に夏南が居たら一緒に手伝わせるけど、あの子も忙しいしね」
兄さんが居たら共に行わせるか。
それだと一瞬で片付きそうな気がする。
「今はあの子達だけでなく幹菜ちゃんも居るし大丈夫でしょ」
あの子も生死だもんね。
これは本職に委ねるに限るかも。
私達では魂魄の置換中に邪神の眷属から逃げられるが姉さん達ならば邪神の眷属を捕獲しつつ魂魄の置換をするだろう。それも一瞬で。
「餅は餅屋、か」
「そもそも貴女達は創造に特化しているもの。亜衣達が付与に特化しているのと同じ。スマホの基本ソフトの件だって言葉には出さないけど、カノちゃんも喜んでいたしね?」
「「「そうなの?」」」
そうは見えなかったけどね。
ああ、ドSだから恥ずかしくて⦅何よ⦆なんでもないです!
念話で割って入ってきたし。
「そうよ。神器に穴がある事だって気づいていなかったもの。それは私もだけど」
父さんですら気づけない穴があったもんね。
そういう意味では姉さんってチートだよぉ。
「本当、実菜の権能はチートよね」
「力を与えてくれた母親からチート呼ばわりされてどう反応したらいいの?」
「世界の知識の頂点が実菜だもの。深愛もその点では同じね」
そう考えると歩く世界辞典だよね。
分厚い六法全書に手足が生えたようなもの。
姉さんはこの国だけでなく世界中の法律すらも網羅しているもんね。
それは当然、言語も含むけど。
「結依ちゃんは歩く魔導書だよ?」
「うっ。思考を読まなくても」
「実依は歩く」
「それは言わなくていいよ。姉さん」
「歩く食材大辞典よね?」
言わないでと言った矢先に母さんが言う。
そんな特徴を有しているから他の姉妹と比べて色々と出来るのだけど。
姉さん曰く器用貧乏だよね。万能型と言われたりするけども。
なので邪神と眷属が一番に潰しを行わなければならないのが万能女神こと私達三姉妹なんだよね。それは私達の対である深愛達と仁菜も同様に。
仁菜も……だから本日中に三人が狙われたと。
「それもレベル制限下での奇襲だったね」
「また思考を読んでるし」
「幸い、分割体しか知られていないから」
「あちらは油断しているともとれるかな?」
「事実上の最強女神だもの」
「「「母さんには負けるけど!」」」
「子供に負ける親は居ませんよ」
私達も勝てる見込みすら湧かないよ。
私達の経験が夏音姉さん達より上回っていても、夏音姉さん達の底力と胆力では負けるもの。
いくら人より多くの経験があろうとも、それを活かせなければ全て無意味だ。
活かしてこその経験だよね⦅⦅ほんそれ⦆⦆。
◇ ◇ ◇
何はともあれ、島内清掃はお任せしたので私達は着替えを済ませて片付けに向かう事にした。見送りとなっていた冒険者登録とかリニアの接続先の整地とか諸々だ。
「ところでリニアは完成したの?」
「どうにかね。最終試験まで終わらせたら」
「時間が過ぎてて大急ぎで登校したけど」
「ギリで間に合ったのね」
本当に間に合って良かったよ。
あれも由良の神託で期日が設定されていたからね。
巫女が無理ですって言ってきて、丁度よい頃合いを勝手に設定されたのだ。
神に苦情を言える立場ではないのに反論出来るって恐い者知らずだよね。
それだけ分割体共が大雑把な管理をしていた結果だろうけど。
尻拭いする身にもなれって言いたいよ。
「じゃあ、このあとは?」
「魔族に化けて土木工事かな」
「専用レーンを用意しないといけないしね」
「必要数の車両等の用意はしてるけど」
「肝心の駅が無ければ話にならないし」
始発は浮遊大陸、工事後に魔王国の終点を拵えると。
それを済ませたら各駅を新規で拵える必要がありそうだ。
これはこれで大変だね。
「そうなると、先に冒険者登録が必須だよね」
「そうかもね。身分証無しで勝手に出入りする訳にもいかないし」
「裏の立場を明かす訳にもね?」
邪神ではないのに邪神扱いを受けるしね。
人々のご都合主義に振り回されるのは釈然としないが、
「あちらの世界神は深愛達なんだから」
これも人々の信仰が左右する以上は仕方ない話だった。
仮に地表で深愛達が神名を名乗ったとしても同じ反応が出てしまう。
「上で芽依達が邪神扱いなのも」
「私達が魔族から邪神扱いを受けるのも」
「全ては人々の信仰心のなせる業と」
「本物はそんな甘い存在ではないけどね」
「それが分かるなら苦労はないよ」
私達はいつもの格好に着替えたのち転移門経由で宇宙ステーションに向かった。
そして精霊達が作った各種防具を購入しつつ話し合う。
「ところで登録時のレベルは幾らにする?」
「夏音姉さんと同じでいいんじゃない」
「それだと依頼で忙殺されないかな?」
「でも、低すぎても入国時に面倒が」
「ああ、信頼性云々がありそうだね」
適当なレベルはどの辺りが良いのやら?
すると実依が思案気に提案した。
「それなら例の王女殿下と同程度はどう?」
「王女殿下か。確か、550だったね」
「金等級でギリSにあたるしさ?」
「魔力総量も属性も似たり寄ったりで」
「それでいいかもね」
それが一番妥当に思えた。低すぎず高すぎず。
属性は七属性にプラス三が付くけど、書き込まなければ問われる事はないだろう。
「雷、氷、鉱か」
「深愛達の割当属性に無い属性だもんね」
「まさか十属性持ちとは思うまい」
「氷は水、雷は光、鉱は土に類するし」
「誤魔化そうと思えば誤魔化せるよね」
「電撃でビリビリさせたとしても」
面白おかしく話していると……、
『電撃魔法なんて無いからね!』
管理室に居るであろう深愛からツッコミが入った。
「無い事は知っているよ」
「知ってて言った。だから何?」
「ぐぬぬって唸ってそうだね」
「どうせ、おっぱい揉もうかと言われた件で苛ついているんじゃない?」
「ああ、貧乳だもんね。憑依体が」
「由良みたいに筋肉を受け入れたらいいのに」
「少しでも女の子で居たいんでしょ。お股が緩くて誰でも受け入れ易そうだけど」
『それを言わないで!』
「ま、冗談はさておき」
『冗談!?』
深愛は揶揄い甲斐があるね。
姉妹で唯一、私達の下ネタが通じるし。
姉さんの性教育の成果かな?
「一応、風魔法でも電撃は可能だけどね。単体の電撃魔法は無くても」
「風魔法での電撃は使い手が少ないから仕方ない」
『そうだったのぉ?!』
「電撃は魔道具と誤魔化せばいいよ」
「それが無難だよね。仮に何処で仕入れたか問われても」
「そこはドロップしたで通ると思うよ」
「「迷宮神が言うなら間違いないね!」」
仁菜の迷宮でそういったドロップ品が出ているかどうか知らないが。
⦅出ていませんね。今から作りましょうか?⦆
ああ、無かったみたい。
誤魔化すためにお願いしようかな?
⦅任されました!⦆
そこそこのレベルでないと持てない代物になるだろうが、これはこれで必要な事なのでお任せした私だった。
◇ ◇ ◇
私達の冒険者登録は魔王国に向かわずに他国で行った。
「結局、ハイエロフで登録か」
「それが一番無難だもの」
「剣士風のハイエロフも珍しいけどね」
「普通は魔法使いとか弓使いが多いし」
「闘士風のハイエロフも珍しいけどね」
エロフではなくエルフね。
私達は素の状態で登録した。
髪色は実依に寄せた。
瞳は結凪に寄せてみた。
登録支部もエルフが主体の国を選んだ。
種族的にも珍しいからジロジロと見られているわけなんだけど。
「普通のエロフが良かったかな?」
「この際、仕方ないでしょ」
「ハイエロフは王族に多いから」
「王族しか居ないけどね」
あまりこの地に居すぎても面倒が降ってくるので早々に撤退した。
「おい、さっきの人達」
「ああ、転移で魔力の動きが」
「無かったな。あれは一体?」
神力で転移してしまった。
やってしまった以上は仕方ない。
「使い慣れているといざという時に詰むね」
「時々でいいから魔力も使わないとね」
「変換効率が悪いんだよな。この身体」
すると実依が何を思ったのか、
「それならこれ食べる?」
「「これ?」」
右手の上に小石サイズの赤い球を創った。
見た感じ、魔石にも見えるけど?
「これは魔力玉。飴玉だけど舐めるだけで一時的に魔力が代替出来るの。もちろんポーションの代わりにもなる美味しい飴玉だよ」
「そ、それなんて?」
「夏音姉さんが反応しそうだよね」
「ウチで売らせてくれって言いそう」
「仮に言ったとしても、私か仁菜しか用意出来ないよ?」
「それならドロップ品が無難かな?」
「うん。ドロップ品だろうね」
「高値で買うとか言い出しそう」
「言うかな? ただの飴だし」
「「言うと思う!」」
後日、似たような飴があることを知ったのだが、今の私達は知る由もなかった。




